【俳文】札幌便り(5)

著者: 木村洋平 きむらようへい : 翻訳家、作家、アイデア・ライター
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大雪にオレンジ色の灯しかな

と詠んでいた北海道の冬ですが、旧暦でははや、立春を迎えました。
江戸とはひと月、ずれる暦で動いているような札幌。いまだに、NHKでは「昼間、外出される方も、長時間ですと水道凍結の恐れがありますので……」と注意を促している、二月末日です。

北海道と言えば、「大雪」ですが、街灯が「オレンジ色」であるのも、東京のひとにはものめずらしい風物詩。夜間、「白色光」だと、道路の雪が反射してまばゆくなってしまうのでしょうね。目にやさしいオレンジ色の街灯が並ぶ夜景には、独特の趣を感じます。

こっそりと入ってみたい凍る池

シンプルな句を口ずさんでいたのも束の間、マシュマロのような雪をかぶせていた池も、表面の氷が陥没して、暗い水の穴が空くのですが、そこに春の明るさを見出すのです。

薄氷は今朝張りにけり池のなか

さすがに、二月は寒さのピークで朝方に目が覚めることもしばしば。電気毛布のお世話になります。

吹雪おりなんに目覚める夜更けかな

それは、じりじりと虫の音のような、除雪車の音かも知れません。日の出前から働いていらっしゃる方々に頭が下がる思い。

春立てり吹雪も顔に解けにけり

と詠むのは、直截にすぎるでしょうか。冬の吹雪は、人肌に触れても解けないので、顔が「はじく」ものです。

日脚伸ぶ空のみ守る暦かな

日脚の伸びた空のほかには、春を告げるものとてないような雪景色。早朝の窓の明かり、夕暮れ時の緩徐楽章ぶりに、季節のうつろいを覚える、暦のうえの春です。

いくつか、雪を詠みたいと思います。

日の光浴びてや愛し春の雪
忘れ雪屋根傾けば落ちにけり
雪解けや軒なき屋根の端からも
札幌の骨太なりし名残雪
牡丹雪天から剥がれ落ちにけり

北国の屋根と言うと、「合掌造り」のようなものを思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。雪が滑り落ちやすいように、と。残念ながら、こちらでは平らな屋根が多いのです。札幌では住宅が密集するので、落雪が危険なのでしょう。同じ理由で、軒も見掛けないものです。片方に傾斜のある屋根は、ときどき見掛けます。

どこからを吹雪と言えり北のひと

これは、冬の句ですが、境目はまだ僕には謎のまま。そんなことをつらつらと考えるのも、春のせいでしょうか。

ハンガーによく馴染みけり春セーター

屋外の風景には、まだ似合わないのですが……

春ショール巻いて珈琲飲むひとも

喫茶店に来たひとあし早い春でした。

初出:ブログ【珈琲ブレイク】
http://idea-writer.blogspot.jp/2013/03/blog-post.html より許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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