いま、沖縄では、川内では?

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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symbolnonuke◆2015.2.15  フランスで、デンマークで、風刺画がテロのきっかけに09heng-articleLargeなり、憎悪と対立を増幅しています。米国のNEW YORK TIMES 2月8日 に、一つの風刺画が掲載されました。イスラム教徒が敬愛するムハンマドではないし、いくつかの日本語サイトに既に転載されていますから、ここに出しておきましょう。注釈は短く、「Could ISIS Push Japan to Depart From Pacifism?(イスラム国は日本を平和主義から離脱させることができるか)」「After the killing of Japanese journalist Kenji Goto, President Shinzo Abe called for revenge.(日本人ジャーナリスト・ケンジ・ゴトーが殺されて、シンゾー・アベ首相はリベンジをよびかけた)」。風刺画の中に、「憲法改正」が書き込まれています。現在の日本の政治状況への、強烈な皮肉です。海外の日本に関心を持つ人々が毎日覗く英語の日本ニュースサイト「JAPAN TODAY」には、前回紹介したNYT1月29日記事「U.S. Textbook Skews History, Prime Minister of Japan Says」、つまり「日本の安倍首相が、アメリカの歴史教科書の慰安婦に関する「誤った」記述を批判し訂正すべきことを積極的に発信する意欲を示した」ニュースに対する、大きな反響が出ています。「Japan’s global PR message could misfire with focus on wartime past」、つまり日本のグローバルPRキャンペーンは、巨額の予算を使いながら、ソフトパワーとして失敗したというもので、124人のコメントも寄せられています。オバマ大統領が中国と日本の首脳招待を同時に発表したニュースと重なり、首相に近い作家曾野綾子アパルトヘイト容認発言も飛び出して、世界の注目を集めています。フクシマ原発事故についての世界の風刺画も加えて見ると、不吉な「戦後70年」の滑り出しです。

もっとも安倍首相ご本人には、国内の反対意見も海外からの批判も、「雑音」としてしか聞こえないようです。12日の国会での首相の施政方針演説は、岩倉具視ほか先人の言葉を散りばめながら、「戦後以来の大改革」を声高に叫ぶ、勇ましいものでした。「戦後70年」とありますから、日本国憲法制定を軸に、秘密警察廃止・労働組合奨励・婦人解放・教育自由化・経済民主化の5大指令、財閥解体や農地改革の歴史的評価が出てくるかと思ったら、戦後1600万人の農業人口が8分の1に減った話くらいで、「戦後」の内実抜きに「女性が輝く社会」「憲法改正に向けた国民的な議論」に前のめりです。「戦後70年談話」の中身が思いやられます。この間、安倍内閣によって、世界に通用しない日本語の書き換えが進められました。平和学において戦争・紛争の根拠となる貧困や差別、構造的暴力をなくすヨハン・ガルトゥングの概念を換骨奪胎した「積極的平和主義」、「武器輸出3原則」を骨抜きにした「防衛装備移転3原則」、そして「政府開発援助(ODA)大綱」にこっそり他国軍への援助を盛り込んで名を変えた「開発協力大綱」。これらこそどうやら、「戦後以来の大改革」の内実であり、進行方向のようです。「イスラム国」の日本人人質2名殺害事件にあたっての日本政府の動きは、その後のTBS「報道特集」の検証「世に倦む日日」さんサイトの問題提起に照らしても、前回論じた2人の渡航理由、総選挙前の11月からの地下での外務省の動き・解放交渉など、謎は深まるばかりですが、特定秘密保護法の名のもとに、闇に葬り去られようとしています。マスメディアやネトウヨサイトで、やたら「国益」や「国策」が使われるようになったのも、「いつか来た道」の言説回帰です。海外からは、「日本帝国主義」という反響が、こだましてきそうです。

そんな時であればこそ、マスコミからは見放された沖縄・辺野古の動き鹿児島・川内原発の動きを、自分で意識的に追いかけないと、状況に流されてしまいます。沖縄なら琉球新報沖縄タイムスの地元二大紙ががんばっていますから「お気に入り」に入れ、川内から高浜へと2焦点化した原発再稼働については「たんぽぽ舎」や「再稼働阻止全国ネットワーク」を毎日覗いて、東京や大阪の人々は「明日は我が身」とイメージしましょう。中央政府の独断専行で、辺野古ではサンゴが破壊され、川内では火山噴火リスクが切り詰められて、地域の人々のくらしといのちが削られようとしています。『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)から出発して、「情報収集センター(歴史探偵)」「2015年の尋ね人」ページに移し占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊「二木秀雄」について情報をお寄せください」には、その後も多くの情報が寄せられています。中国大陸での731部隊の細菌戦・人体実験、戦後金沢で進められた幹部たちの史料隠蔽・口裏あわせ、河辺虎四郎・有末精三・服部卓四郎に亀井貫一郎を加えたGHQ・G2ウィロビー将軍に対する免責工作、帝銀事件・シベリア抑留との関係、さらには朝鮮戦争と日本再軍備に便乗した血液ビジネスへの参入、厚生省・医薬産業・医療機器メーカーとの癒着、雑誌『医学のとびら』を創刊しての医学界での復権・支配の構図、等々も見えてきました。「2015年の尋ね人」の記述は、必要最小限の加筆・修正で、ヴァージョン・アップしておきました。学術論文データベ ースに、常連宮内広利さんの「歴史と神話の起源ーー起源までとどく歴史観を求めて」(2015.2)を新たにアップ。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2904:150216〕