この国の右傾化はどこまで暴走するのか? 歴史認識の検証は世界史に眼を向けて!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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かと 2013.5.15 安倍内閣は、急速な円安と株価高騰・不動産価格上昇を「アベノミクス」で産み出したとして、賃上げも雇用好転も実感できないなかでも、世論調査で高い支持率を得ています。その勢いで、7月参院選では96条改憲を公約にかかげ、原発再稼働もはっきりさせて、2年前の3・11で提起された21世紀日本の長期的選択を、いっそうの原発依存ばかりか、「国防軍」創設にもつながる国家再編成で、強行突破しようとしています。靖国、尖閣、竹島など歴史認識に関わる隣国との難題を抱えているのに、首相自ら「侵略の定義はない」と言いだし、自民党高市政調会長は「村山談話」の「侵略」「植民地支配」に「違和感」を表明しました。どうやら首相自身が本音を語ると、アメリカ中国韓国からの「右傾化」への反発があまりに大きいので、まず側近たちが首相の持論をアドバルーンであげ、官房長官・国会答弁でちょっとブレーキをかけて右折の角度を調整する、そんなやり方で、論点そのものを右へ右へと移す作戦のようです。靖国神社参拝問題が 典型です。もともと信教の自由・政教分離と国家護持、A級戦犯合祀と戦争責任の国内問題であったものが、いつのまにやら中国・韓国との外交上だけの問題と され、憲法上の問題や国家神道の問題がスキップされています。東アジアや欧米からの批判を「理不尽な圧力」のように語るマスコミの報道の仕方も内向きで、 20世紀末からの大きな変化がみられます。要注意です。日本の歴史像が、世界史の流れに逆らい、孤立して構築されようとしています。

かと そこに、とんでもない政治家の発言です。日本維新の会橋本共同代表旧日本軍の従軍慰安婦を容認し、沖縄県の在日米軍に風俗業の活用を進言したとする発言、どうやら確信犯の確信的政局発言のようです。全文を引くのもためらわれる弁護士のあきれた人権無視発言ですが、当然ながら韓国からも米国からも中国からもロシアからも、国際的スキャンダルとして報じられています。石原慎太郎共同代表は「軍と売春はつきものだ。それが歴史の原理だ」と弁護したようですが、あの産経新聞さえ、主張で「女性の尊厳損ね許されぬ」です。そもそも日本政府・外務省が「慰安婦」を Comfort Women と英訳し、国連人権委員会等 では Sex Slaves(性的奴隷)として扱われていることを、橋本代表も知らないはずはありません。米国議会でも幾度も問題にされています。これは、あの石原共同 代表が尖閣問題で購入を言い出し、領土問題を棚上げしてきた日中関係に火をつけて民主党政権に国有化を強いた、あの手法では? 「暴走老人」と「孤独なポリュリスト」のタッグ・マッチだとしたら、今度の狙いは日韓関係を抜き差しならないところまで持って行くことでしょうか。東京・新大久保で続いているヘイトスピーチ・デモの政界版です。でもその先に、安倍・石破自民党へのメッセージ、つまり改憲したいのなら96条改憲に慎重な公明党よりも歴史認識の近い維新の会との連合をという狙いがあるのなら、かつての石原暴言が政界再編がらみだったように、要注意です。東京都知事選・参議院議員選挙と、油断のならない情報戦が続きます。

かと 久方ぶりの情報収集センター(国際歴史探偵)尋ね人、前回トップに掲げた<新た旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せください>には、残念ながら、情報提供はありませんでした。産経新聞掲載が4月18日、本サイトトップが5月1日でしたから、熱心に捜し続けていた留守家族、ご遺族はいらっしゃらなかったということでしょう。経験的にいうと、この種の尋ね人では、新聞掲載だと3日以内、HPトップだと1週間以内に情報がないと、その後はなかなか集まりません。ただし、同じような境遇で行方不明になった方のご家族・ご親族から連絡がある場合があります。本サイト情報収集センター(国際歴史探偵)旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者」中、「永浜さよ」「徹武彦」 のケースがそうです。 引き続き情報提供を求めていますので、何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。

かと 最近この日本人粛清犠牲者「尋ね人の延長上で、1945年敗戦時樺太(サハリン)の日本人シベリア抑留の歴史を調べていたのですが、気になる問題が出てきました。敗戦時の旧ソ連に抑留された外国人捕虜は、日本人60万人のほかに、ドイツ人 240万人、ハンガリー50万人、ルーマニア19万人など欧州戦線の兵士・民間人も含まれていました。中国人も1万3000人、朝鮮人8千人もいます。旧ソ連では1945−53年頃、総計実に417万人が、シベリアなどで強制収容所(ラーゲリ)に送られ、過酷な抑留生活を強いられました。ところがその収容所地図を見ていて気がついたのですが、どうもソルジェニツィン『収容所群島』で見た、スターリン粛清時代の白海運河建設、シベリア鉄道建設などの政治犯囚人収容所の所在地と、多くが重なるのです。つまり旧ソ連戦後抑留は、 戦前1930年代のスターリン風社会主義建設への政治犯・刑事犯(「人民の敵」)の強制的労働力調達の延長上にありそうです。もう一つの地図も気になりま した。旧ソ連の原爆・原発の歴史を調べていくと、すでに米英の広島・長崎原爆投下直後からスターリン=ベリヤの原爆開発施設(研究所・工場)は始まってお り、その科学者・技術者・労働者の動員数は1945年末には英米マンハッタン計画に加わった12万人の倍25万人以上といいます。ところがその原子力開発 地は秘密都市・閉鎖都市とされて地図にも記されず、全貌はわかりませんでした。1991年ソ連解体でようやくある程度わかってきたのですが、メドヴェージェフ兄弟が「原子力収容所」と名付けた、その所在地を地図に落としてみると、これが30年代スターリン粛清、50年代外国人抑留者収容所と、どうやら重なりそうです。秘密都市の数は必ずしも多くはありませんが。

かと そして案の定、メドヴェージェフ兄弟『知られざるスターリン』によると、少なくとも1945ー50年のソ連の原爆開発(49年8月初めて核実験成功)に動員された、ウラン採掘から原子炉建設にいたる労働力の「半分はドイツ人捕虜」であり、捕虜となったドイツ人科学者・技術者の一部は、研究開発・設計段階でも原爆づくりに協力させられていました。秘密都市では通信・移動の自由はありませんが、労働条件・報酬はよかったようです。その代わりウラル核惨事の ような事故で真っ先に犠牲になり、隠されました。日本人のシベリア抑留手記に多い「ドイツ人の待遇のよさ」は、人種差別もあったでしょうが、こうした強制 労働の職務の違いもあったのではないか、日本人抑留者でも、ソ連の原爆開発に動員された事例があるのではないか? 3月に上梓した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』花伝社)の延長上で、これから追求していきます。関連しますが、5月25日(土)午後1時から、明治大学リバティタワー1103号で、第275回現代史研究会「原発問題を考える―『原子力平和利用』と科学者の責任」が開かれ、講演します。『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)を出された宗教学者島薗進さんとのジョイントで、これまで明治大学で行った日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」「反原爆と反原発の間とは趣向を変えて、「原子爆弾」の命名者H・G・ウェルズの原子力観、ウェルズとレーニントロツキーレオ・シラードとの関係を踏まえて、仁科芳雄武谷三男湯川秀樹らに始まる日本の原子力研究、特に科学者の責任の問題を、「SF(サイエンス・フィクション)としての『原子力平和利用』」として話す予定です。ご関心の向きはどうぞ。6月2日(日)には、3・11以後の日本の脱原発運動を牽引してきた3団体、「さようなら原発 1000万人アクション」「原発をなくす全国連絡会」、それに金曜官邸前抗議デモを持続してきた「首都圏反原発連合」が初めて合流する「6・2 NO NUKES DAY」が計画されています。ぜひとも反攻の巨大なうねりをつくりだしたいものです。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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