古来、正義が勝つ…ことは稀である。正邪にかかわらず強い者が勝ち残る。また、狡い者が勝ちをおさめる。これが冷徹な現実だ。
大坂冬の陣では、手痛い反撃を受けた家康は、和睦して休戦中に大阪城の外堀ばかりか、内堀まで埋めてしまう。こうして、防御能力を失った秀頼側は、夏の陣ではあっけなく敗れる。狡い者が勝つ、典型例。辺野古基地訴訟の和解は、冬の陣後の和睦を思い出させる。もちろん、アベがタヌキおやじの役どころ。
今日(3月7日)午後、石井啓一国土交通相が、県の埋め立て承認取り消しは違法だとして翁長雄志知事へ是正を指示する文書を郵送した。
4日記者会見のアベ発言を思い起こそう。
「本日、国として、裁判所の和解勧告を受けて、沖縄県と和解する決断をしました。20年来の懸案である普天間飛行場の全面返還のためには、辺野古への移設が唯一の選択肢であるとの国の考え方に何ら変わりはありません。しかし、現状のように、国と沖縄県双方が延々と訴訟合戦を繰り広げているこの状況のままではこう着状態となり、家や学校に囲まれ市街地の真ん中にある普天間飛行場をはじめ、沖縄の現状がこれからも何年も固定化されることになりかねません。これは誰も望んでいない、そうした裁判所の意向に沿って和解を決断すべきと考えました。」
多くの人が、「国と沖縄県双方が延々と訴訟合戦を繰り広げているこの状況」を抜本的に解決するための和解受諾で、誠実な協議によって事態の打開をはかろうとしたものと考えたことだろう。NHKの岩田朋子(解説委員)なども、アベの「真意」をその言のままに解説していたのだから、NHKを一人前のメディアと信じる善男善女が「法的手続は脇に置いて、これから国と県との円満解決に向けた協議が始まるのだ」と、そう思い込んだのもむりはない。
ところがどうだ。和解成立が4日の金曜日。土・日をはさんでの週明けの今日、舌の根の乾かぬうちの宣戦布告である。早くも、「国と沖縄県双方の延々と訴訟合戦」再開を告げる鏑矢を打ち込んだのだ。その矢の射手となった石井啓一が公明党議員だということを確認しておこう。
国交相から、翁長雄志知事への文書の内容は、「3月15日までに、辺野古海面の埋立承認の取り消し処分を取り消す」べしとする是正の指示だという。
公用水面の埋立は県知事の承認がなければ着工できない。防衛施設局の埋立承認申請に、仲井眞前知事が承認を与えた。そのために、仲井眞は民意の支持を失って知事選に敗れた。代わって辺野古新基地建設反対の民意を担って新知事となった翁長雄志が、前知事の承認には瑕疵があるとしてこれを取り消す処分をした。「この『取消処分』を取り消せ」というのが、石井の指示なのだ。
まったくなんの話し合いもしないうちのアベの宣戦布告である。結局は、敗訴のリスクが高かった訴訟を取り下げ、最も安全な訴訟1本に絞るという思惑だけでの和解受諾であったことを満天下に示すことになった。
それでも和解によって沖縄県側が得たものは小さくない。
何よりも埋立工事が中断した。これからしばらく、工事の着工はできない。翁長県政の努力の成果が目に見える形となった。これは大きい。
また、アベ政権の無理は必ずしも通らないという自信にもつながっている。閣議決定までして拳を振り上げた代執行訴訟は結局取り下げざるを得なかった。このままでは敗訴となることを恐れての和解だと国民みんなが知ることとなったみっともなさ。アベ政権の強権的コケオドシ恐るにたりず、と印象づけられた。
さらに、この性急な宣戦布告は、アベ政権の狡さと汚さ、酷薄さを国民に強く印象づけるものとなった。県民世論だけでなく、心ある国民の多くの怒りを呼び起こし、拡大し、強固にするという効果ももたらすだろう。必ずや、国民の支持は大きく沖縄に向かうことに違いない。
さて、今後である。和解の内容に従って、3月15日に沖縄県は、国交相の指示に不服として、「国地方係争処理委員会」(係争委)に審査を申し出ることになる。そして、係争委の結論がどうなっても、訴訟合戦が続くことになる。
右手の拳を振り上げて、左手で握手はできない。アベの姿勢は、到底「円満解決」に向けた協議を行おうという姿勢ではない。
翁長知事は、本日県庁で会見して、「『大変残念だ』と不快感を示した」と報じられている。抑制した談話だが、本心は「はらわたが煮えくりかえる思い」なのだろう。それでも、アベ流「ダ・マ・シ・ウ・チ」は両刃の剣だ。酷薄なアベ自身をも窮地に陥れることになるだろう。
(2016年3月7日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.03.07より許可を得て転載 http://article9.jp/wordpress/?p=6495
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