ついに30%を割った安倍内閣支持率、その悪あがきにご注意!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2017.7.15  ついに、安倍内閣の支持率は3割を切る危険水域に達しました。「時事通信が7~10日に実施した7月の世論調査で、安倍内閣の支持率は前月比15.2ポイント減の29.9%となった。2012年12月の第2次安倍政権発足以降、最大の下げ幅で、初めて3割を切った。不支持率も同14.7ポイント増の48.6%で最高となった。学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる問題が響いた。東京都議選で稲田朋美防衛相が、自衛隊を政治利用したと受け取られかねない失言をしたことなども影響したとみられる」ーーすでに先週の読売・朝日・NHKなどで支持率30%台、不支持率急増の傾向がありましたから、驚くには値しませんが、10日の首相不在の国会閉会中審査でも、とりわけ加計学園獣医学部問題での安倍首相への疑惑が深まったことを意味します。加計学園加計孝太郎理事長日本にいることが確認されましたから、安倍首相自ら出席を決断したと演出されている予算委員会の閉会中審査には、ぜひとも参考人招致すべきでしょう。いや国権の最高機関としての国会は、和泉総理補佐官前川前文部科学事務次官のほか、関係する官僚・政治家を全部呼んで、臨時国会で審議すべきです。

自民党支持率も、21%まで落ちました。<内閣支持率+政党支持率>が50ポイントを切ると政権交代が近いとされていますが、ギリギリの水準です。 ただし注目すべきは、自民党から離れた世論は、野党の民進党や共産党に向かったわけではなく、圧倒的な第一党「支持政党なし」になったことです。民進党にいたっては、自民党と共に支持を失い、政権交代の受け皿どころか、党存亡の危機に向かっています。そのためマスコミは、政権交代の担い手を自民党内部の「安倍一強」批判勢力に探り、東京都議選で組織力を示した公明党に安倍政権へのブレーキ役を求めます。アメリカや韓国の大統領のような劇的な政権交代は難しく、フランスのような既成政党の再編に「受け皿」を想定することになります。東京都議選で自民党に圧勝した「都民ファーストの会」の国政版、いわゆる「小池新党」待望論が浮上します。安倍首相にしてみれば、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」「政権を任せるわけにはいかない」と公言・恫喝 した「野党共闘」派ではなく、もともと支持基盤であった「政党再編」派に対して、THIS isAn ABE’s DefeatT= 豊田真由子衆院議員のパワハラ暴言、H=萩生田光一官房副長官の加計学園獣医学部疑惑、I=稲田朋美防衛大臣の自衛隊政治利用、S=下村博文党都連会長・元文科大臣の加計学園献金疑惑の暗い部分を切り捨て、ないし隠蔽し、 ABEにはまだ実行力・リーダーシップがあることを、正面突破で示そうとしています。近く開かれることになった首相の出席による衆参予算委員会の 閉会中審査と、8月初めという内閣改造・党役員人事です。そこで内閣支持率も政党支持率も反転しなければ、保守政治内部の政局となり、安倍首相の捨てていない改憲構想も、少しはテンポが遅れるでしょう。

しかし、予算委への出席が「首相の決断」の見え見えのアピールであるように、安倍首相と官邸は、まだまだ手を打ってくるでしょう。外遊帰国後の13日の「首相動静」に、「午後0時2分、二階俊博自民党幹事長、政治評論家の森田実氏と昼食。……6時49分、東京・紀尾井町のホテル「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」。レストラン「WASHOKU 蒼天」で曽我豪・朝日新聞編集委員、山田孝男・毎日新聞特別編集委員、小田尚・読売新聞グループ本社論説主幹、石川一郎・BSジャパン社長、島田敏男・NHK解説副委員長、粕谷賢之・日本テレビ報道解説委員長、田崎史郎・時事通信特別解説委員と食事。10時10分、東京・富ケ谷の自宅」とあり、これは大手マスコミ対策の作戦会議。国民の税金についてウソと隠蔽の答弁を積み重ねた財務省佐川理財局長が、安倍官邸の眼鏡にかなって国税庁長官に抜擢されたばかりでなく、例の安倍昭恵夫人が2015年クリスマスの「男たちの悪巧み」と呼んだ4人組の会合写真の、加計学園加計孝太郎理事長と安倍首相の間でワインを飲む三井住友銀行元副頭取の高橋精一郎が、金融庁参与に就任。「オトモダチ」人事は続いています。すると東京都議選開票日に 高級フランス料理店に集った最新の4人組の一人、 大臣室で現金50万円を受領したも間近でしょう。 11日から共謀罪法(組織犯罪処罰法等の改定)が施行されました。韓国並みの倒閣運動とまでは行かずとも、せめてアメリカ並みの政府批判が行動で示されるべき時に、監視国家への更なる一歩です。おまけに労働者の権利を守るべき組合組織・連合が、「残業代ゼロ」容認で政府の成果型労働制導入に屈服、全体として左表の「ファシズムの初期症状」は、安倍首相個人の首のすげ替え程度では済まないほどに日常化し、構造化されています。「ファシズム前夜」は、続いています

国連では122カ国の賛成で核兵器禁止条約が採択されました。「ヒバクシャ」という日本語が入ったにもかかわらず、唯一の被爆国と称する日本は、アメリカなど核保有大国に追随して、交渉そのものに加わりませんでした。 日本の戦争の記憶が、世界から問われています。7月7日は、日中戦争本格化の発端となった盧溝橋事件の80周年でした。神戸新聞に、100歳の元日本軍兵士の「無謀な戦いだと当時から分かっていた」「みんな兵隊にとられとるし、嫌がったら国賊や。お国のために死ぬ善しあしなんて考えもせんかった」という回想が出ています。前回、 6月30日の毎日新聞に出た、「731部隊:父の覚悟の証言、後世に…元高校教諭が出版」という記事を紹介しました。愛知県出身で731部隊に従軍した作者の父は、1997年に82歳で死亡する約3年前、初めて息子に事実を明かし、「終戦時、命令により全ての証拠を破壊・焼却処分し、戦後も「話したら殺される」と思っていた。証言したのは、死んでいく年齢と覚悟し「もう、殺されても構わない」と考えたからだ、といいます。私の新著『「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、満州侵略の関東軍731細菌戦部隊の、敗戦後における隠蔽・免責・復権のメカニズムを分析しました。それは4月の講演記録「飽食した悪魔の戦後」として、要約されています。

◆ 7月29日(土)午後、早稲田大学20世紀メディア研究所の第113回研究会では、 新著のもうひとつの目玉である、731部隊医師・二木秀雄『政界ジープ』対佐和慶太郎『真相』の戦後10年にわたる対決・興亡を、「戦後日本の時局雑誌 『政界ジープ』対『真相』」として報告します( 2時30分3号館809)。 731部隊の「3つの掟」=①郷里へ帰ったのちも、731に在籍していた事実を秘匿し、軍歴をかくすこと、②あらゆる公職につかぬこと、③隊員相互の連絡は厳禁する、という戦後の歩みの実際を解析した副産物です。メディア史ですが、ご関心の方はぜひ。 本サイト学術論文データベ ースの常連、神戸の弁護士深草徹さん「ニワトリからアヒルの帝国軍隊−−憲法9条の果たしている役割」(2017.6)は、戦前帝国軍隊においても、自衛のためという名目の軍隊が、いったん海外に出ることで侵略の軍隊に変わっていくメカニズムを見出し、安倍改憲に警鐘を鳴らしています。拙著『「飽食した悪魔」の戦後』は、400頁税込み3780円とやや高価ですが、アマゾンやお近くの書店で、お求めください。『週刊金曜日』6月9日号に吉田則昭さんの書評が出ていますが、本サイトの「情報収集センター」に特別研究室『「飽食した悪魔」の戦後』特集を設けて、ウェブ上での参照を求めた「参考文献一覧」、「731部隊に関与した医師・医学関係者」名簿輿論』『政界ジープ』暫定総目次、それに2017年4月9日加藤講演録、刊行後にみつかった誤植・誤記訂正、補足点、書評などを、収録していきます。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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