ほどほどの対米批判にとどめた中国

――八ヶ岳山麓から(557)――

アメリカとイスラエルは3月2日、イランを突然攻撃し最高指導者ハメネイ師らを殺害した。今年1月のベネズエラに次ぐ蛮行である。しかも6日、トランプ米大統領はイランに「無条件降伏」を要求し、「親米政権なら民主化は不要」などと言いだした。これが正当化されるなら国連憲章も国際法もあったものではない、小国の主権はないに等しい。

ところが我国の首相高市早苗氏は、5日、ドイツのメルツ首相との電話協議で、イランが周辺国の民間施設などを攻撃していることを挙げ、「イランの行動を非難する」との立場を示したという。何を考えているのか、この首相は!

日本政府はイラン当局に拘束されている2人の日本人を救わなければならない立場にある。この際イラン当局に対する非難は控えるべきだ。そのくらいのことがわからないのだろうか。

茂木外相もひどい。日本共産党田村委員長の質問に「アメリカは国連決議51条に基づいて(軍事)行動を行っていると承知している」と答弁した。こんなバカな話はない。国連憲章51条は国連加盟国が外部から攻撃を受けた際、国連が対応を取る前の一時的な措置として個別的・集団的自衛権を認めるものである。51条に基づけば、非難されるべきはアメリカとイスラエルである。

NATO諸国の反応はまちまちである。ドイツは奇襲攻撃に理解を示し、フランスはイランに責任があるとし、イギリスは最善の方法は協議だと強調した。欧州連合(EU)は、国際人道法の遵守を訴えたがいずれも及び腰である。カナダのカーニー首相に至っては、先に「大国の横暴に対抗する中堅国の結束」を訴えたのに、この度はアメリカ支持を表明した。トランプ氏に反抗しすぎると後が怖いという感情が見え見えである。

明確にアメリカに反対したのは、スペインのサンチェス首相だけだ。これに対しトランプ氏はスペインとのすべての貿易を断つと脅したが、サンチェス氏は屈せず、戦争そして「国際法の崩壊」に反対する姿勢を改めて表明した。

イランの友好国中国は、アメリカ・イスラエルの奇襲をどうとらえているか。

中国共産党の準機関紙「環球時報」は、3月2日「国際社会はより明確にジャングルの法則に反対すべきだ」と題する社説を掲載した。その主旨を以下とびとびに引く。

「この週末、アメリカとイスラエルがイランに奇襲攻撃を仕掛け、イランの最高指導者ハメネイ師と複数の高官が死亡したことで、中東情勢は危険な深淵へと突き落とされた。国際社会をさらに震撼させたのは、この攻撃がイランとアメリカの交渉プロセスの中で行われたことであり、多くの分析が『イランは騙された』と指摘している」

「さらに受け入れがたいのは、アメリカ・イスラエルが公然と主権国家の指導者を殺害し、政権交代を煽動しながら、これを『成果』として得意気にしていることだ。これらはすべて、国際関係の基本原則に対する公然たる軽視と蹂躙である」

「ホルムズ海峡が封鎖されたことで、世界のエネルギー供給と海上輸送網も不透明な状況に陥っている。軍事行動を直ちに停止し、戦火の拡大と波及を防ぎ、事態が手に負えなくなるのを避けることが急務である」

「この一方的な攻撃が露呈したのは、むしろ危険な傾向である。少数の国々が長期にわたりジャングルの法則を奉じてきた結果にほかならない。かつてアメリカは国連を迂回してアフガニスタン戦争やイラク戦争を開始し、一方的な制裁や管轄を恣意的に実施してきた。これにより現地に終わりのない戦乱と苦難を残しただけでなく、国連を中核とする国際体系を深刻に蝕み、国際関係の基本原則を揺るがした」

「少数の国や国家グループが、いわゆる実力に基づく立場から強権的ないじめを行うことは、今日の国際秩序における最大の破壊的要因である。なぜ彼らはこれほどまでにのびのびと振る舞えるのか? 重要な理由の一つは、現行の国際秩序の拘束力が弱すぎる点にある」

「もし覇権的行為が強力な国際的圧力と高い政治的代償を伴うようになれば、この世界は公平と正義に一歩近づだろう。国際社会はより一層団結し、正義を守り、法の支配を擁護し、多国間主義を実践することで、強権政治の土壌を根絶できる。戦火にさらされ、苦難を経験してきた中東の地は、真の平和と安寧を切望している」

わたしは社説を読んで「あれ?」と思った。一見筋が通ったことを主張しているようだが、拍子抜けした。本来ならば、この暴挙に対して、3月末からの習近平・トランプ会談は中止、あるいは延期するというべきところだ。

ところが、社説はアメリカ・イスラエルを非難し「ジャングルの法則」を排除せよなどと、使い古したことばを並べただけで大変おとなしい。ホルムズ海峡封鎖の「軍事行動を直ちに停止し、戦火の拡大と波及を防ぎ、事態が手に負えなくなるのを避けることが急務である」という。報道によれば、海峡封鎖はイラン軍の手によって行われた。これでは、イランがアメリカに対抗するために取った戦術を批判したのと同じではないか。

また、「彼らがのびのび振舞えるのは、現行の国際秩序の拘束力が弱すぎる点にある」という。「国際秩序の拘束力」とは何だろうか。この惨状はアメリカとイスラエルが軍事力を振り回しているからではなかったのか。

イランは中国とロシア主導の上海協力機構(SCO)や新興国グループ(BRICS)の加盟国である。従来、加盟諸国はイランから原油を輸入して支援してきた。そのSCOによる「イラン・イスラム共和国情勢に関する声明」も「上海協力機構加盟国は、中東地域の情勢発展とイラン・イスラム共和国が武装攻撃を受けたことに対し深刻な懸念を表明する」というもので、「断固反対」というのではない(新華社3月2日)。

3月6日、信濃毎日新聞の中国全国人民代表大会(全人代)についての解説記事は、イラン奇襲について引き気味の中国を次のように分析している。

「本来なら、『覇権主義への反対』を唱えてきた中国が真っ先にイランをかばい対米批判の外交を展開してもおかしくはないが、動きが鈍い。トランプ氏の訪中を今月末に控え、アメリカと対立する事態を避けたいのが習氏の本音だからだ」、そして「友好国の危機に目をつぶり、アメリカとの関係を優先しているとも言え、『大国外交』のメッキがはがれかねない状況となっている」

同記事によると、李強首相は全人代の政府活動報告で「覇権主義と強権政治に断固反対する」と記された部分を読み飛ばした。さらに「(2025年に)国際経済貿易の環境が急激に変化し、一国主義や保護主義がエスカレートした」、「保護主義や一方的ないじめ行為に断固反対した」といった部分も省略したという。

これは李強氏が「うっかりした」のではない。中国は、今年1月以来のおのれの気に入らない小国の政府は戦争をやっても取り換えるという、トランプ氏の「きちがいに刃物」的なやり方を容認するメッセージをアメリカに送ったのである。最近でも、中国の王毅外相は、8日の記者会見で米国によるイラン攻撃の即時停止を改めて求めたが米国批判は控え、米中関係は安定していると対米関係を優先する姿勢を鮮明にしたという(朝日ネット)。

習近平氏とトランプ氏は今年4回会う予定だが、トランプ氏の提唱する「G2すなわち米中両大国が主導する国際秩序」がテーマになる可能性は十分にある。日本政府はアメリカに追随するだろうが、我々は、両大国による世界支配を警戒しなければならない。(2026・03・09)

初出:「リベラル21」2026.03.18より許可を得て転送
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-7005.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14729:260318〕