やっと武漢へ、注目されるWHOコロナ調査団の結論 ―あらためて考える中国(3)

 すでに世界をまる1年、「コロナ・パンデミック」に陥れた、その新型ウイルスのモトを突きとめる使命を担ったWHO(世界保健機関)の調査団が14日、いよいよ中国、そして武漢へ入ることになった。ぜひともこれまでのもやもやを晴らしてほしい。
 今度のコロナ騒ぎが中国から始まったことは疑いのない事実である。その起源について当初からよく言われたのは、武漢市の海鮮食品市場で蝙蝠由来のウイルスがヒトへ感染したのではないか、ということであった。また、それとは別に武漢にある科学院のウイルス研究所で何らかのミスがあり、そこから外部に洩れたのではないか、さらにそれに尾ひれがついて、その研究所では新型細菌兵器の研究が行われていて、その研究材料が洩れたのだといった、ためにするような議論までおこなわれた。
 武漢が発祥地であることははっきりしているのだから、本来なら中国政府はすすんで国際的に信用される調査団を受け入れて、事実を究明すべきであったのだが、さまざま言を左右にして、それを受け入れようとしなかった。
 それどころか、中国外交部の報道官という立場の人間が、記者会見で確たる根拠も示さずに、「ウイルスは米国兵が持ち込んだもの」などと口走り、怒ったトランプ大統領が最後まで「チャイナ・ウイルス」、ポンペオ国務長官は「ウハン(武漢)・ウイルス」と言い続けることにもなった。
 中国政府はまた「国際的な調査団を受け入れるべきだ」と提案したオーストラリアに対して、同国からの食品(肉類、ワインなど)その他の輸入品に高関税をかけたり、手続きにかこつけて通関を遅らせたりと、さまざまな報復行為に出て、世界を驚かせた。
 こういう中国の態度をどう見たらいいのか。勿論、それを正面から解き明かす説明は中国側からなされてはいない。しかし、コロナをめぐる中国のさまざまな動きと照らし合わせて考えればおよその見当はつく。
 昨年来、中国におけるコロナ関連の報道を思い返してみると、悪いニュースよりいいニュースとして扱われたほうが圧倒的に多い。もともと感染症が発生し、被害が出ているのだから、基本的にいいニュースであるはずはないのだ。ところが、報道ではコロナへの共産党や政府の取り組み、なかんずく習近平総書記の陣頭指揮がいかに素晴らしかったか、そのおかげで感染を武漢だけに封じ込めて被害の拡大を抑え、コロナとの闘いで中国は貴重な実績を積み上げた、と話はどんどんいいほうへ進んで、真っ先にコロナと戦って大きな成果を上げた中国に全世界は感謝すべきだという方向へ展開してきた。
 そしてこの物語に実態を盛り込むべく、昨年の後半から中国はいわゆる「コロナ外交」を広範囲に展開した。不自由している国々へマスクをはじめ医療品を送り、さらには医療奉仕団を多くの国へ派遣した。それ自体は文句のつけようのない善行である。しかし、一方で各国からの習近平総書記に対する感謝状が毎日のように報道を飾るとなると、第三者としてはなんとなく鼻白む思いにとらわれる。
 昨年、本ブログでも紹介したが、ピュー・リサーチ・センターという米の世論調査機関が先進12か国を対象に中國に対する見方の最近1年間の変化を調べた結果を発表した(10月6日)。その結果は、2019年と20年を比較して、12か国すべてで中国に対して否定的な見方をする人の割合が増えた。そのうち80%以上が否定的な見方をしている国が日本、豪、スウェーデンの3か国、70%以上が米、英、仏、独、加、韓、オランダの7か国、60%以上がスペイン、イタリアの2か国であった。ちなみに否定的な見方をする人が一番多かったのは日本の86%である。
 中国の「コロナ外交」の相手は主としてアジア、アフリカ、中東、中南米などの諸国だったから、この調査の対象には入っていない。それらの国で調査をすれば、勿論、ちがった結果が出るであろうが。
 そこで話はWHOの調査団に戻るのだが、どうしても中国が発表する見解や報道記事には政治宣伝臭がつきまとうので、われわれはなかなか素直に受け取れない。これには我々と中国の双方に責任があるはずだが、かみ合う議論が交わされるためには双方が信頼できる形での調査が行われなければならない。その点でWHOの調査団には期待が持てるはずだ。
 と思って、期待していたら、今回も調査団が手続きの遅れとかで、入国が延びたと伝えられたので、ああやっぱりだめか、とあきらめかけたところ、中国もやっぱりまずいと思ったか、14日に訪中と決まったそうである。中国と関係のいいWHOのテドロス事務局長も訪中延期となったところで、さすがに「失望した」と感想を述べた(1月5日)のが利いたのかもしれない。
 調査団員の構成は日本、カタール、米、独、ベトナム、オーストラリア、オランダ、英、デンマーク、ロシアなど、となっている。WHOのミシエル・ライアン緊急事態主任は「調査は科学のためであって、政治のためではない。動物と人類の間の仲介者を探し当てることが重要で、かならず目的を達成したい」と述べているそうだが、まさに誰もが知りたい「コロナはいつ、どこで発生したのか」を科学的につきとめてほしいものだ。それがどういう結論になったにせよ、中国もそのまま受け入れてほしい。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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