アフガニスタン 2001年以来最悪の危機に(上)  首都で最大のテロ、反政府デモ、トランプも及び腰

 アフガニスタンの首都カブールで5月31日に発生した爆弾テロは、死者150人以上、負傷者数百人となり、2001年の米同時多発テロ事件をきっかけとした米国主導のアフガン戦争でタリバン政権が崩壊し、カルザイ政権が樹立されていらい、首都で最悪のテロ事件となった。カブールは厳重な警備下に置かれ、中心部の政府・外交区画はとくに出入りが厳しく制限され、外国の大使館や援助組織の要員も安心して生活できるはずの場所だった。それだけに、大量の爆発物が運び込まれ、爆発されたことへの恐怖の衝撃は深刻で、大使館や援助組織の駐在員多数が争って帰国した。
 犯行組織は、現在まで名乗りを上げていない。中東からアフガニスタンに進出し、拠点を築いてテロを繰り返し始めた宣伝好きの「イスラム国(IS)」も名乗りを上げず、最大の反政府武装勢力のタリバンは関与を否定する一方で、タリバンから離脱したより過激なハッカーニ派の犯行だといっている。
 おそらく、攻撃した組織が狙ったタイミングは、6月6日、7日の2日間、アシュラフ・ガニ大統領が主催してカブールで開いた国際和平会議。2014年に発足したガニ大統領の“挙国一致”政権に参加する政党、パシュトゥン、タジク、ハザラ、ウズベク各民族の政治・武装組織の指導者らと、米国はじめ支援各国の代表、援助機関代表が参加する、いわば危機突破のための国際会議だった。会議は予定通りカブールで開かれたが、大規模テロ事件で出席するはずだった各国代表、大使館員らが参加を取りやめ、あるいは急きょ帰国し、さびしい会合になってしまった。
 そのうえ、事件直後から、首都でガニ大統領の辞任を求める大規模な反政府デモが始まり、アフガニスタンの危機の深さがさらに露呈した。
 ▽政治的危機:アフガニスタンでは2001年9月の米同時多発テロ事件直後の10―11月、米国主導のアフガン戦争でタリバン政権が崩壊。暫定政権、移行政権を経て、04~14年の11年間はカルザイ政権。14年4月の後継大統領選挙では、国内最大民族パシュトゥン人のガニと、パシュトゥン人の父・タジク人の母を持つアブドラが厳しく争った。選挙結果は当初、アブドラの勝利が発表されたが、パシュトゥン人勢力から不正集計だとの激しい反対が起きたため、米国が仲介して選管の集計をやり直し、逆にガニの当選が確定。ガニを大統領、アブドラを対等な立場の官房長官として、各民族の軍閥や有力者が政権の要職を占める“挙国政権”が発足した。米国の支援もあり、当初は順調に進むかにみえたが、間もなくガニ大統領の傲慢、能力不足、民族の違いの悪用などへの不満が高まり、アブドラとの協調関係も失われてしまった。それでもオバマ政権下の米国はガニ大統領を支援してきたが、トランプ政権は少なくともこれまでのところ、米軍増派の方針を一応表明しただけ。ガニ政権への支援の姿勢はあいまいで、対アフガン政策は不明のまま。「イスラム国(IS)」支配地を実験場にして大規模爆風爆弾モアブを投下しただけだ。
 ▽軍事的危機
現在、アフガニスタンの国軍は16万500人、国家警察隊14万8300人。外国からの戦闘支援部隊は米軍8400人だけ。他にNATO諸国の部隊2、3千人程度が国軍の訓練に残留している。しかし、ここ数年、反政府武装勢力タリバンの攻勢が拡大、今年に入ってからは3か月で国軍が1千人以上死亡、4月にはタリバンに攻撃された基地で200人以上の国軍兵士が死亡した戦闘も発生した。アフガン政府が実質的に支配している地域は、2015年末の72%から昨年末の57%に減少したと、米政府は推定している。減少した大部分は、タリバンが支配する地域になった。
かっては米軍とNATO諸国中心の国際支援部隊(ISAF)が計14万人以上いた外国軍隊は、2015年までにほぼ撤退を完了している。
 トランプ米政権発足後、アフガニスタン政府は米軍増強を改めて要請したが、これまでのところ、マクマスター安全保障担当大統領補佐官が3000~5000人の米軍増派に同意しただけ。政権内に増派反対があり、トランプ大統領もアフガンへの軍事介入強化には消極的だといわれている。他のNATO諸国は、アフガンから手を引いた状況。
 日本も多額の資金協力をして、合わせて31万人の国軍と国家警察隊を作り上げた。それなのに、武装勢力は1万人にも満たないといわれるタリバンやその他の武装勢力に国土の半分近くの支配を奪われたのは、なぜなのか。その理由の納得できる説明を読んだことも、聞いたこともないが、米国が支援してきたガニ政権への国民の反感の広がりが、根底にあることだけは確かだ。
(続く)

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