アメリカも東京都政も日本の国政も黄信号!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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かと 2016.10.1  雨の続いた9月からすっきりと秋晴れへ、とはなかなか行かないようです。政治の世界も、どんよりと曇り、霞がかかっています。世界の注目は、アメリカ大統領選挙。11月8日の投票を控え、二大政党候補者のテレビ討論が始まりました。既成権力エスタブリッシュメントの代表・民主党のヒラリー・クリントンと、宗教差別・人種差別・女性差別を公言する共和党ドナルド・トランプ、 つまり「不安」対「絶望」という「史上最も人気のない大統領候補」同士の争いですが、さすがにトランプでは世界に恥ずかしいと、8400万人が見たテレビ討論後の世論調査では「不安」なヒラリーやや有利の数字。しかしマイケル・ムーアは、「絶望」に軍配。ヒラリーの健康問題があり、テロや銃撃事件も頻発していて、まだまだ予断を許さぬ展開、あと2回のテレビ討論も、注目州ごとの世論の動きも、見逃せません。私の注目したのは、アメリカ最大、というより唯一の全国紙USA Todayの「反トランプ」態度表明。創刊以来34年間、大統領選には「中立」をキープしてきた発行部数200万の大衆紙ですが、今回はついに、「トランプ・ノー」の旗幟を鮮明にしました。編集委員全員一致とのことですが、「ヒラリー・イエス」ではありません。そもそも英語の新聞など読まない人々は、テレビとインターネットで態度を決めるでしょう。そんな危うい大国に、一蓮托生で安全を委ねる数少ない国・日本にとって、「対岸の火事」ではありません。もっともこれだけ時間をかけて、公開討論でトップを選ぶ「選挙」のあり方には、ちょっぴりうらやましい感も否めません。
かと  日本の方では、前回論じた東京都庁の「伏魔殿」、ヒラリーにあやかりたいらしい小池知事の強い指示にもかかわらず、豊洲市場移転問題の設計変更問題で出てきた内部の報告書は、だれが、いつ、どのような権限で決めたかはわからない、灰色のファイル。わかったことは、「食の安全・安心」よりも「コストと工期」という「空気」が優先されていたという、予想通りの 無責任。なぜ東京ガスから豊洲の汚染地を高価格で購入することになったのか、という事の始まりまで遡って暗雲を晴らしていきたいものです。 もっともその先頭にたつべき東京都議会では、豊洲移転をストップできる可能性のあった2009年都議会議員選挙民主党大勝のさい当選した一人の民主党都議が、11年3.11直前、何者かに動かされ見返りを約束されて移転賛成派に「転向」石原独裁知事・都議会自民党のドンが作った流れを、反転させることができませんでした。無責任都政に翻弄されてきた、築地の業者の皆さんと消費者のためにも、調査ジャーナリズムと市民の出番です。富山市から全国に波及しつつある、地方議会議員の政務活動費横領領収書改竄・白紙領収書問題も、市民とメディアの追究によるものでした。歴代都知事と都庁官僚制の政策過程を疑い、東京都議会議員の一人一人を徹底的に洗った「築地から豊洲への政治学」を、若い政治学者に期待します。

かと  東京都の伏魔殿失態やオリンピック競技会場問題で目立たなくなっているが重要なのは、両院改憲勢力多数を占めての初の国会論議。安倍首相の所信表明演説台本に「拍手」「水を飲む」とト書き、「表す」に「あらわす」のふりがなつきで、「海上保安庁・警察・自衛隊」(アルチュセールのいう「国家暴力の抑圧装置」!)に感謝のスタンディング・オベーション。ドイツ「ワイマールの教訓」を知る人には、衝撃的! 野党の代表質問はパッとしませんでしたが、首相の秘蔵っ子・稲田防衛大臣への集中質問は、意味があります。「日本独自の核保有」、戦没者追悼式欠席、南スーダンPKOばかりでなく、夫名義の軍事産業株保有、それに富山市議そっくりの「同じ筆跡の領収書」26枚520万円 政治資金疑惑もあります。野党は徹底的に追究して、与党のTPP国会改憲準備国会へのペースを、乱してもらいたいものです。それでなくても、日経新聞さえかつて危惧したいつか来た道」を歩みはじめているのですから。

かと  老舗IIJのホームページ事業撤退に続いて、しょうがなく本サイトが移転したJCOMも、来年にはHPサービスから撤退との知らせ。どうやら、ハードのスマホやタブレット普及、各種Cloudサービス、you tubeなど動画台頭、ソフトのSNS, Twitter, LINEの流れに合わせて、ウェブ上の外観とデータの大移動・離合集散が始まっているようです。やむなく本「ネチズンカレッジ」も 、独自ドメインを取得し移転を準備中ですが、新年新規開店に向けて、データの集中管理方式に整理・移行中。研究室には、ka「連合国の戦後アジア構想」(『岩波講座 東アジア近現代通史 第6巻 アジア太平洋戦争と「大東亜共栄圏」1935−45年』岩波書店、2011年1月) 、「日本共産党とコミンフォルム批判」(『岩波講座 東アジア近現代 通史 第7巻 アジア諸戦争の時代」1945−60年』岩波書店、2011 年2月)ka(井関正久と共著)「戦後日本の知識人とドイツ」工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』東京大学出版会、2014年6月 、ka戦後ゾルゲ団、第二のゾルゲ事件 の謀略?」(第8回ゾルゲ事件国際シンポジウム報告、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年ー新たな真実」2014年11月8日、東京・明治大学)日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第42号、2015年2月ka「米国の占領政策ーー検閲と宣伝」波多野澄雄・東郷和彦編『歴史問題ハンドブック』岩波現代全書、2015年6月)ka「占領期における原爆・原子力言説と検閲」(木村朗・高橋博子編『核時代の神話と虚像』明石書店、2015年7月) 、 kaコミンテルンと佐野碩」(菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』藤原書店、2015年12月)、ka「第9回ゾルゲ事件シドニー国際シンポジウム参加記」英文報告kaRichard Sorge Case and Unit 731 of the Imperial Japanese Army(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第45号、2016年2月)、講演記録ka「戦争の記憶ーーゾルゲ事件からシベリア抑留へ」(日露歴史研究センター『ゾルゲ事件外国語文献翻訳集』第46号、2016年5月)、それに、政治学研究教養課程カリキュラムに講演「戦後70年の世界と日本ーーどうなる私たちの地域とくらし」付属ppt「資料」(国分寺市もとまち公民館講演録、2015)の記録とデータを新たに入れて、一挙公開です。ご関心のテーマから、どうぞ。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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