アルジャジーラ支局長ら20人を裁判に -エジプトでの報道弾圧に厳しい国際的批判-

著者: 坂井定雄 さかいさだお : 龍谷大学名誉教授
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エジプトの司法当局は11日、中東の国際的衛星TV局アルジャジーラのアデル・ファハミ支局長以下、カイロ支局員9人をはじめ関係ジャーナリスト計20人(エジプト人16人、外国人4人)の刑事裁判を20日から開始することを明らかにした。英BBC電子版によると、エジプト人の罪状は「テロ組織に所属」と「国家の団結と社会の平穏を害した」など。外国人の罪状は「資金、器材、情報を提供してエジプト人たちと協力」「世界に虚偽のニュースを放送した」など。外国人の4人は、カメラマンとしても知られる元BBC特派員のオーストラリア人ピーター・グレストのほかオランダの新聞パロールの特派員レナ・ネチェスとアルジャジーラの英国人記者2人。うち3人はエジプトから出国しているので欠席裁判となるが、グレストはファハミ支局長、プロデューサーのバヘール・モハメドと共に12月29日にカイロで逮捕され、拘留されたままだ。

この逮捕と起訴、裁判に対して、アルジャジーラは、「ばかげた、根拠のない、虚偽の罪状だ。われわれは、エジプトで完全に合法的に活動し、同国で起こっていることを事実に基づいて世界に報道してきた。われわれのすべてのメンバーは、経験を積み、最高のジャーナリズムの質と尊厳を備えている」と抗議した。わたしも、ほぼ毎日、アルジャジーラとBBCを電子版でみており、アルジャジーラの抗議を完全に支持し、エジプト政府に抗議する。
ニューヨークに本部があるジャーナリスト保護国際委員会(CPJ)は12日、「これは政治的裁判だ。彼らが暴力を扇動したという証拠はない」と非難した。
米政府はすで2月4日、「アルジャジーラのジャーナリストたちと学識者たちの罪状取消し、釈放、保護、仕事の自由な再開」を要求。英BBC,デイリー・テレグラフなどのメディアは共同声明で「エジプトで逮捕・拘留されているすべてのジャーナリストの即時釈放」を要求している。BBCによると、40人以上のジャーナリストがエジプトで逮捕・拘留されているとの情報がある。

 エジプト人ジャーナリストたちの罪状にある「テロ組織」とはムスリム同胞団を指す。エジプト政府は12月25日、クーデターで軍に監禁されたまま裁判にかけられているモルシ大統領の出身母体ムスリム同胞団を「テロ組織」と公式に指定した。この指定によって、治安当局による逮捕はじめ弾圧が、事実上無制限にできる。これについて国際人権団体アムネスティ・インタナショナルは1月に発表した報告書のなかで「エジプトでは大規模な弾圧を正当化するために、再び『テロとの戦い』という言辞が使われている」と批判したばかり。

アルジャジーラは、カタールに本社があり、アラビア語と英語のテレビ番組を中東全域に放送している衛星TV局で、最近は米国でも放送している。中東諸国に支局と特派員を駐在させ、現地からの敏速、綿密な取材と報道、英BBCと匹敵できる公正・中立な姿勢で信頼を高め、アラブ諸国では最も視聴率が高い。エジプトでも、国営TV・新聞よりもアルジャジーラの衛星TVかBBCのラジオ放送を信頼して、国内ニュースの判断の頼りにしている人が少なくない。それだけに、影響力が強く、各国政府はアルジャジーラに神経を尖らせている。

昨年7月のクーデターとそれに続くムスリム同胞団への非人道的な弾圧について、各国のメディアは批判的報道をしたが、なかでもアルジャジーラ、BBC,米国のCNNは、精力的に取材・報道、モルシ支持者たちの座り込み現場や、治安警察の強制排除による死傷者であふれた病院でのインタビューも重ねた。エジプト当局は、さすがにBBCやCNNの取材・報道に手を出すことは避けたが、アルジャジーラの支局を強制捜査、放送器材を差し押さえ、カイロからの映像発信を不可能にし、8月からは支局のエジプト人スタッフを逮捕し始めた。
 それでもアルジャジーラは取材を続けていたが、ファハミ支局長、モハメド・プロデューサーの逮捕で、エジプトでの活動は閉鎖状態に追い込まれている。(了)

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