上記は、国際的メディアとして、シリア内戦、国際的イスラム過激派武装組織「イスラム首長国(IS)」の残酷な悪行、崩壊の過程を、おそらく最も、正確に早く世界に報道してきた英公共放送BBC電子版(12月20日)の総括的な分析の見出しだ。
その前日の19日、トランプ米大統領は「われわれはISとの戦いに勝利した。われわれの息子たち、若い女性たち、男たちすべてが、いま、帰国しつつある」と宣言した。米軍は、ISとの戦いで空爆の主力になり、シリアでもイラクでも大きな役割を果たしてきた。ただし、その無差別爆撃でISだけでなく、ISの残酷な支配下に暮らす一般市民まで、おおくが殺傷されたことも事実だ。
トランプ政権下の米国は、世界での経済協力協定やUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)、ユネスコ、地球温暖化へのパリ協定など様々な国際条約、協定から次々と脱退。シリアでも、まだISがイラク国境に近い一部の地域に残り、中東諸国や北アフリカ、アフガニスタンなどに逃げ込んで、組織を再建する動きもあるにもかかわらず、イスラム国(IS)との国際的な戦いから、いち早く一方的に撤退するというトランプ宣言なのだ。それへの、BBCの抗議を込めてのこの日の報道だと思う。2011年の「アラブの春」でのシリアの民主化運動の高まりとアサド政権の暴虐な弾圧に始まったシリア内戦、その中でのISのシリアとイラクでの拡張と残酷な支配の下での民衆の苦難を、総括した報道でもある。以下に、その主要部分を紹介しようー
イスラム首長国その後 ISは打倒されたのか(BBC電子版2018.12.20)
米国はシリアから軍の撤退を始めようとしている。シリアで米国は、現在、イスラム国(IS)がなお抵抗しているシリア東部の残されたポケット地域で掃討作戦を展開している、クルド人中心のシリア民主軍(SDF)を支援してきた。
4年前、ISはシリアとイラクの広い地域を支配し、「イスラム首長国」の樹立を宣言し、およそ800万人に野蛮な支配を実施した。現在はその1%を支配しているに過ぎない。その首長国の実態はなくなったが、ISが永久に敗北したと確証はできない。
SDFは、トランプ大統領の決定に強い警戒を示し、「テロとの戦いにマイナスの影響を与え、テロリストとその支援者たちが再生するのを助けるだろう」と警告している。それに関して、IS打倒世界同盟の米大統領特使、ブレット・マクガーク氏も12月11日「
首長国が物理的に敗北したので、われわれは帰国出来るというだけなら、それは思慮がないことになる」と記者団に語っている。
▼ISの今後は?
マクガーク氏は、SDFがイラクとの境界のユーフラテス河中流のシリア側の町ハジンをISから奪う数日前、この戦いは一年以上前から対IS作戦で、最も厳しい戦いになった、と語っていた。ハジンはシリアでは最後のIŞの砦だった。ハジンを失ったが、その周辺のユーフラテス河渓谷の周辺にはなお2千人以上のIS戦闘員が残り、最後まで抵抗する構えだ。シリア全体では、数千人のIS戦闘員が残っている。
米国防総省は昨年8月、ISは全面支配地域をすべて失ったが、戦闘員がシリアに約1万4千人、イラクに1万7千人程度残っていると推定した。その多くが地下に潜行、彼らの出身地に戻り組織の再建に努めながら、爆弾テロ、暗殺、誘拐などを実行している。(続く)
(注)BBC電子版が転載した米中央軍の資料。
2014年~18年の米軍主導連合軍の対IS空爆回数。グラフは対イラク(青)、対シリア(赤)に色分けされている。(青)は2016年半ばまで上位、(赤)は2016年半ば以後が上位になっている。
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