米国・トランプ政権が対ロシア・融和主義の「和平」をウクライナに強要している。ウクライナはこれにどう対応するのか? 「代理戦争論」はこれを批判できるのか? 「祖国防衛戦争論」の立場でトランプ「和平」を批判し、新しい情勢をどう見るかを考えたい。
・ある「代理戦争論」 これを批判して論点を整理し確認したい
「…民族解放論を支持しない。…ロシア対NATO諸国の代理戦争の性格を持っている…ロシア、ウクライナともオルガルヒのもとでの戦争である。またロシア―ウクライナ関係は共通にロシア帝国として抑圧側を担った側面もある。…ロシアの侵略戦争に対抗する時…オルガルヒと『共闘』……しても明確な独自の立場を堅持しなければならない。」
・ウクライナ戦争論の原点 ウクライナの人民はどう行動? そこから考えたい
何百万何千万のウクライナ人民が、自国の政府・軍と共にロシア軍と戦っている。そこに真実がある。ロシアは侵略戦争であり、ウクライナは反侵略・祖国防衛戦争である。
もし本当に米国・NATOの代理戦争であれば、ウクライナ人民に、自国の戦争に反対し政府と軍に反対し内乱に転化するよう言うのが論理。本当にそう言えるのか? とても言えないと思う(基本の論理に矛盾する一語=「ロシアの侵略戦争」もある)。
(1)第1論点 帝国主義の米国・NATOがウクライナを支持し援助している問題
米国・NATOとロシアは帝国主義と帝国主義の関係。ロシアとウクライナは帝国主義と被抑圧民族・被圧迫国家の関係。これは現代世界の3つの基本矛盾のうちの2つである。米国・NATOの対ロシアは覇権闘争、ウクライナは祖国防衛、目的と性格が根本的に異なる。
全ては米帝の支配、全ては反米、こういう20世紀の固定観念は捨て、頭を切り換えたい。21世紀の現在は反覇権であり、反米(欧日)と反中(ロ)である。
・トランプ「和平」は対ロシア・融和主義 第2の「ミュンヘン会談」 ロシアは止まらない
ウクライナ抜きでロシアと取引し、①領土からクリミアとドンバス(東部2州)、さらに南部2州を割譲させる。それどころか、②大統領選挙に介入してカイライ政権を樹立させ、属国化させる。ウクライナの国全体をロシアに売り渡す。これが「和平」の眼目である。
ウクライナを犠牲にして、ロシアを中国と切り離し対立させるのが目的である(「ロシアの侵略否定論」や「ロシア復帰・G8論」)。1938年「ミュンヘン会談」の再現である(チェコスロバキアを犠牲に英仏が対独・融和主義)。アメリカ帝国主義の露骨な本性である(ウクライナの資源略奪も)。ウクライナは米国の代理戦争ではない。これはもう明々白々である。
それでも、プーチンとロシア帝国主義は止まらない。帝政ロシアとソ連の失った勢力圏を奪還する大ロシア主義、中国と組みアメリカ覇権を打ち破る、これが戦略目的である。侵略と併合はウクライナだけでは終わらない。
トランプ「和平」は目的を達成できない。逆にアメリカ帝国主義の衰退と没落を進める。
(2)第2論点 ブルジョア階級のゼレンスキー政権が戦争を指導している問題
ロシアの侵略に対するウクライナの祖国防衛、これは一つの問題。その祖国防衛のヘゲモニーがプロレタリア階級ではなく、ブルジョア階級。これはもう一つの別の問題。ブルジョア階級の指導でも、「オルガルヒのもと」でも、ウクライナは反侵略・祖国防衛戦争である。
人民はまず自国の政府・軍と共にロシア軍と戦う。しかし、外からの観察だが……
・2023年の「反転攻勢」が失敗 ブルジョア階級のヘゲモニーが低下している
現在、戦線は大きくは膠着だが、ウクライナ軍が劣勢でロシア軍が優勢のようである。世論調査では、「戦争継続・全領土奪還論」が後退し、「領土割譲・和平論」が伸長し、ゼレンスキー政権の支持率も低下しているようである。軍事戦略が失敗し、国民の政治的統合が低下しているのではないか。合憲とはいえ、ゼレンスキー大統領の「任期切れ」もある。
・持久戦と人民戦争 国民統合の統一戦線と政府 プロレタリア階級のヘゲモニー
中国の抗日戦争をモデルに考えてみる。短期決戦ではなく持久戦。正規戦だけでなくゲリラ戦(とりわけロシア占領地)も含めた人民戦争。米国・NATOの援助よりも自力更生。
こういう転換が必要なのではないか。そうすると、国民統合の統一戦線(言わば抗日統一戦線)。ロシアに対する反侵略・祖国防衛を目的に、労働者階級からブルジョア階級まで全階級を結集し、ウクライナ人だけでなくロシア人を含めて全ての民族を結集する。この統一戦線を基礎とする国民統合の政府(身近なモデルはミャンマーの「国民統一政府」)。
こういう構想が必要なのではないか。ゼレンスキーの「任期切れ」に対しては、単純な大統領選挙に止まらず、もっと大きな構えが必要なのではないか。
国民統合では、ロシア系をはじめとする少数民族に対する自己決定権(自治~分離・独立を自由に決定)が最重要だろう。現在は戒厳令で制限されている民主主義の回復、労働組合の拡大なども重要だろう。これらは社会主義ではなく、民主主義と民族主義である。
しかし、プロレタリア階級の社会主義革命の党による主導が必要であろう(中国の抗日戦争は共産党があってこそ)。ただ、ソ連に続く中国の変質(民族自決権の否定が一因)と社会主義の挫折がある。困難で長期にわたる事業ではある。
・トランプ「和平」を拒否できるのか受け入れざるをえないのか いずれにせよ戦略転換
それはウクライナの政府と人民が決定する。しかし、どう決定しようと、持久戦と人民戦争および国民統合の統一戦線と政府、こういう戦略転換が必要なのではないか。
(3)実は根本にある第3論点 ソ連・東欧体制の崩壊は革命か反革命か 歴史的分岐点
「ロシア帝国として抑圧側」は無茶苦茶(誰も沖縄を「大日本帝国として抑圧側」とは批判しない)。しかし、問題が突き出された。現在のロシアは依然、「諸民族の牢獄」である。
ロシア革命はブルジョア革命と資本主義化に終わり、封建制を土台とした帝政ロシアの帝国主義は官僚制国家資本主義を土台にしてソ連に受け継がれた(スターリン主義)。1990年前後のソ連・東欧体制の崩壊は、社会主義の崩壊ではなく、帝国主義の崩壊であった。
東欧~コーカサス~中央アジアに多くの独立・主権国家が出現した。西欧に大きく遅れたが、ブルジョア革命の大波であった。ところが、ロシアは縮小したが、資源を基礎に帝国主義が復活した。プーチン・ロシアの勢力圏奪還は、革命に対する反革命でもある。
「代理戦争論」は、その根本に、ソ連崩壊はカッコ付きだが「社会主義」の崩壊=「反革命」という考えがある。そこから、「NATO東方拡大論」でプーチン・ロシアに同調する。
・展望は「西」よりも「東」 ロシアに対する民族解放・国家独立の闘争と革命が拡大する
プーチン・ロシアの勢力圏奪還は、現状、突破口のはずであったウクライナで足止めされている。大ロシア主義に対するウクライナの抵抗と闘争は、いずれ、コーカサス~中央アジアで、さらにロシアの国内で、国家独立と民族解放の闘争と革命を強め拡大する。ウクライナの展望は、EUやNATOよりも、「東」にあるのではないか。(おわり)
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