7月のクーデターで、モルシ政権を打倒し、軍が樹立した暫定政権は11月24日、クーデターの本質をまざまざと見せつける、抑圧的なデモ規制法を制定、即日実施した。満3年を迎える「アラブの春」。独裁政権を打倒したのは、民衆のデモだった。デモの自由は、「アラブの春」で民衆が獲得した、自由と権利の象徴だった。エジプトでは「1月25日革命」以来、毎日のように、首都カイロをはじめ全国各地で大小のデモが繰り返されてきた。さまざまな団体やグループが、組織の呼びかけで、あるいは自発的に集まり、デモを展開した。当局の許可申請など考えることすらなかった。そのデモの自由と権利を、デモ規制法は奪ったのだ。
その内容のあまりのひどさに、国連のピレイ人権高等弁務官は異例の声明を発表、「用語のあいまいさ、過剰な制裁、抗議者に対して治安部隊が使用する手段をはじめ、法的に重大な欠陥がある」と指摘、「国際法は、法によって禁止される個々の行動を、詳細に示すことを要求している」と述べて、エジプト政府に修正を求めた。
しかし、暫定政権と治安警察は、制定発表直後、イスラムの最高学府であるアズハル学内での、同大学生たちのデモを激しい放水で離散させた。26日には、カイロ中心部のジャーナリスト同盟本部前に集まった、リベラル派の青年組織「4月6日運動」など数百人の同法反対デモを放水と催涙ガスで追い払い、連鎖的に市内各所で始まった抗議デモを次々と潰した。
一方、同法とともに、1月までに国民投票が行われる修正憲法案の制定委員会(50人)で、軍事裁判で民間人を裁けることを定めた条文が多数決で決められたことに対しても、軍と暫定政権への抗議が高まっている。大規模なデモも予定されており、新デモ規制法の下で、軍と暫定政権そして内務省と治安警察の対応次第では、重大事態になる。
施行されたデモ規制法「抗議行動とデモに関する法律」は全文25条。「公的な場所・道路・広場」でのすべての政治的行為、集会、行進などを対象にしている。同法の要点は次の通りー
▽抗議行動、集会やデモは、3日前に文書で警察書に届け、許可を得なければならない。許可申請書には日時、場所、行進ルートのほか、目的、要求、スローガンを記載しなければならない。
▽治安、公的秩序、生産活動、公共交通機関や交通の流れの妨害、警察官への攻撃、さらには覆面した参加者も禁止される。
▽宗教施設やその付属建物での集会やデモは禁止される。
▽内務大臣と各地の治安責任者は、集会やデモの禁止、あるいは延期やルート変更を要求できる。
▽違反した参加者への罰則は、2-5年の投獄および5万―10万ポンドの罰金刑。集会やデモに武器や爆発物を所持して参加した者には、7年の投獄および10万―30万ポンドの罰金刑(1ポンドは約12円)
▽抗議行動、集会やデモに参加して、金を受け取った者、それを示唆した者は投獄と10万―20万ポンドの罰金刑。
▽覆面をした参加者は、1年以下の投獄と10万―20万ポンドの罰金刑。
▽集会やデモの参加者が、治安当局の解散要求に従わず続ける場合は、治安部隊は放水砲、こん棒、催涙ガスを使用する。それでも解散しない場合は、順次、警告発砲、ゴム弾の発砲を行い、さらに実弾発砲を行う。もし、集会やデモの参加者が武器を使用する場合は、治安部隊は、対応した方法で危険に対処する。
クーデター後のエジプトは、満3年を迎える独裁政権打倒「1月25日民主革命」を帳消しにするような、反革命が進み始めた。モルシ政権打倒を歓迎した同胞団以外の民主勢力(リベラル派、世俗派、左派など)は、軍と暫定政権、復活し始めた旧支配勢力と、再び戦わなければならない状況になってきた。(了)
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