エネルギー基本計画閣議決定は、「原子力ムラ」復興宣言

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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symbolnonuke2014.4.15  安倍内閣は11日、「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。立法府である国会の審議はおざなり、政権与党と経済産業省エリート、その背後の電力業界の談合の産物です。原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ「規制基準に適合した原発は再稼働を始める」、核燃サイクルも継続してもんじゅは「高レベル放射性廃棄物の減容化の国際拠点」として残し、「高温ガス炉」という新型原子炉を研究開発する、といいます。もちろん最高責任者は安倍首相、東京オリンピック誘致のためにフクシマは「アンダー・コントロール」と世界に公言したうえに、経済成長の鍵は原発輸出=「原発インフラの国際展開」、あたかも3・11などなかったかのような「原子力ムラ」と原発推進政策の「復興」です。この国は、またしても、主体性なき「つぎつぎとなりゆくいきほひ」(丸山眞男)の道に、戻ったのでしょうか。フクシマでは高濃度汚染水200トンが「誤って送水」、除染迅速化の新政策はどうやら放射線許容量の方の修正、オランダでの核サミットでは、「なぜ日本は9トンもプルトニウム持っているのか」と外国紙記者から質問され、米国からも「持ちすぎ」濃縮ウランとプルトニウムの返還を求められる事態、本当は核兵器も作りたい、安倍首相の原発再稼働の狙いは見抜かれています。
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◆最も遺憾なのは、故郷を奪われたまま復興も補償も進まない福島県民を置き去りにした閣議決定による「原子力ムラ」復興、世論調査では、なお原発「再稼働反対」が多数派です。しかし、消費税増税を経てもなお過半数の安倍内閣支持率が、「閣議決定」の乱発を許しています。「武器輸出3原則」から「武器」の名だけ消し、「防衛装備移転3原則」と呼び変えて輸出を可能にし、「集団的自衛権」については、政府の憲法解釈で行使を可能にしようとしています。官邸主導という名の右傾化、戦争準備が、ウクライナや朝鮮半島で国際的な緊張が高まる中で、進んでいます。オバマ大統領のアジア訪問の日程に何とか2泊3日の国賓待遇を組み込んだものの、TPP交渉での日本の譲歩引き出しの狙いは見え見え、歴史認識の問題での日本=安倍内閣への警戒は、中国・韓国はもちろんのこと、アメリカ・メディアも緩めてはいません。明文改憲に直結するこのあたりの問題は、本サイト学術論文データベ ース、神戸の弁護士深草徹さんが、「特定秘密保護法廃止のために―問題点をえぐる5本のメス」(2014.1),核燃料サイクルから撤退を(2014.2),戦前秘密保全法制から学ぶ(2014.2) とこの間警鐘を鳴らしてくれていますが、新たに砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権の行使が認められるとの俗論を排す(2014.4)という論考を寄せて、法的問題を整理してくれています。安倍内閣のナショナリズム昂揚策は軍事・外交・政治の多方面で進められ、残念ながら国会内の野党はほとんど抵抗できずにいますが、市民社会にいきる私たちは、その一つ一つに、生活者の視点から、対抗していくしかありません。

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◆ エネルギー基本計画に「高温ガス炉」などいう新型原子炉の話が出てきて、またまた「原子力ムラ」に飼い慣らされた「最先端科学者・技術者」たちの、予算獲得の蠢動が始まりそうです。日本のマスコミは、原発「安全神話」に長く騙されてきたばかりでなく、最近では、理研のSTAP細胞問題を、ワイドショーの視聴率獲得競争のハイライトに仕立て上げています。この問題は、アカデミックな意味では、決着がついています。11jigenさんの「論文捏造&研究不正」ツイッターでの検討は、さまざまな領域の自然科学・技術学の専門家の皆さんが、「専門家」であることの良心を賭けて、実名・匿名、日本語・英語入り乱れて、問題の所在を次々に明らかにしてくれます。多くの新聞・テレビの「科学記者」の皆さんがアクセスするのは、当然でしょう。STAP細胞問題ばかりでなく、理研を頂点とした科学技術予算獲得競争、多くの大学研究室での論文不正やコピペ学位についても、次々に事例が紹介され、参考になります。ただ、私たち人文・社会科学の研究者にとって物足りないのは、問題の歴史的背景のこと。いつ頃から特許権に結びついた論文発表競争が始まったのか、論文、ラボ・ノートの書き方は、いつ頃から誰によってマニュアル化されたのか、それは日本の自然科学のアメリカ化とどう関わるのか、理研は、なぜいつ頃から国策産学協同の中心になったのか、といった問題は、あまり論じられないようです。『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)で、戦時日本軍の原爆開発に従事した理研の仁科芳雄、米国占領下の学術研究体制づくり・研究予算配分、「原子力の平和利用」と科学技術庁出発の問題を追いかけてきた社会科学者としては、もっと歴史的な要因も、知りたいものです。そうそう、最新著『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社)については、公刊にあたって細心の注意と校正を期したつもりでしたが、熱心な読者の皆さんから、さまざまな誤記・誤植のご指摘をいただいております。尾崎秀実と異母弟尾崎秀樹の誤記、三重県の旧い地名の表記などですが、現時点での正誤表を本サイトに公表して、「論文捏造&研究不正」さんのような深い解読、厳しいご批判に対しても、万善を期したいと思います。同じ3月刊の、私の「国際歴史探偵の原点である国崎定洞研究の到達点「国崎定洞ーー亡命知識人の悲劇」(安田常雄他編『東アジアの知識人』第4巻、有志舎)と共に、ぜひご笑覧ください。次回更新は、緊迫するウクライナ情勢次第ですが、定例5月1日は久しぶりのモスクワのメーデーの予定ですので、ロシアから帰国後、5月15日としておきます。

 

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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