西にウクライナあれば、東に台湾海峡で・・・などとなっては大変、というのは、国籍を問わず年頭にあたっての多くの人の思いであったろう。ところが、新年早々の日米首脳会談で「台湾有事」がまるで既定の事実であるかのように、防衛費の大幅増加、武器の大量増強を約束した岸田内閣が、その重荷をまるでお年玉でももらったようにはしやいでいる姿はまことに奇態ではある。
当の中国はと言えば、中国人同士で殺し合う「台湾有事」を一般国民が望むはずはないが、政権の危機には「国より政権」という選択もあり、の風土だから、お上のすることに口を出せない民衆はハラハラドキドキというのが本当のところではないかと思う。
そんな中で18日、中国の劉鶴副首相と米のイエレン財務相が折から恒例の「世界経済フォーラムの年次総会」が開かれているスイスのダボスで会談した。もっとも米中間では昨年11月14日にインドネシアでのG20に出席したバイデン大統領と習近平国家主席が対面で会談しているし、今月中にはブリンケン国務長官が訪中して中国の秦剛新外相と会談する予定だから、対決状態とはいえ、なにもそれほど険悪な間柄というわけでもない。第三国で経済閣僚が会談しところで驚くほどの事ではないはずなのだが、、。
驚いたのは、19日に劉鶴・イエレン会談を社説で取り上げた『環球時報』(『人民日報』系国際問題紙)が、この会談をきわめて明るい、好ましいニユースとして伝えたことである。
会談は2時間半にわたったそうで、「専門的で、深く、率直、真剣で、建設的であった」。双方は「マクロ政策で協調し、経済、金融などの領域での挑戦にともに対処することは、中米両国と全世界に有利である」と考える。また、中国側は米の対中国経済・技術政策について、「米側がその政策の両国に対する影響を重視するよう」希望した。
もう少し読み進む。共に見せた積極的な態度は、「数年間にわたって緊張している中米関係にとってはなかなかやって来なかった緩和と修復であり、暗雲が立ちこめる2023年の世界経済と安全保障からいえば、長く乾ききった大地に久しく望んだ降雨である。ここからさらに多くの平和と発展に関する良いニュースが聞こえて来ることを希望する。衝突と対抗でなく、両国が今年、分裂をコントロールし、互恵合作の面で一段の飛躍を見せることを期待する」と、明るい前途を期待する。随分大げさに聞こえる。
社説は同時に米国内の反中勢力の活動や経済面での対立にも触れて、ワシントンは政策の重心を「ゼロサム政策」の博打から「ウインウインの両者勝ち」に移すべしとのべ、「中米関係は複雑であり、ワシントンの対中政策の基調は依然として消極的である」として「その調整を望む」と述べる。
そして最後をこう締めくくる。「今、中米関係は手詰まりの地点にある。後ろに下がるわけにはいかない。そこは恐るべき衝突の断崖絶壁である。しかし、前に進もうにもワシントンの意思の強さと行動能力に足を取られる。ただ疑いを入れない一点がある。それは往復貿易額7000億ドルを超える中米関係は、戦争さえ起らなければそれでいいという状態に満足することはできないということだ。ワシントンにはする必要があり、するべきことが、なおたくさんある」。
はたしてこれは、今年の中国の対米政策を先取りするものなのであろうか。ウクライナをめぐってロシアと米をはじめとする西側諸国の対立が深まる中で、昨年は中ロ蜜月とでも言うべき路線をとった中國が、今年は別とばかりに、米との協調路線にのり出すことは可能なのだろうか。
あるいは昨年は「台湾有事」論が加熱しすぎたとしてしばらく冷却期間を置こうするものか。結論を急がずに目を凝らしていよう。(230120)
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