オルバンの強硬姿勢がことごとく裏目に

― 大規模な Pride 行進が政府の規制を打ち破る

今年に入って、オルバン首相は Tisza 党の躍進に見られる野党の台頭にたいし、政 治的な強硬姿勢で立ち向かおうとしているが、それらはことごとく裏目に出ている。
年初には「性的少数者の集会禁止」令を出し、保守層の支援を獲得し、野党を窮 地に追い込むことを目指した。また、3 月 15 日の革命記念日には、反政府的言動を 展開する知識人・学者・裁判官を「社会の蛆虫ども」と非難し、春の大掃除でこれ を退治すると宣言した。それにともない、外国から支援を受ける反政府組織を取り 締まる「ハンガリー版プーチン令」を国会に提出した。さらに、焦眉の課題でもな い「ウクライナの EU 加盟反対」投票を実施し、国内外にアピールしようとした。ま た、科学アカデミーから人文系の 4 つの研究所を分離し、ELTE に移管することを決 めた。オルバン首相やその顧問であるシュミット・マーリアの意見(科学アカデミ ーは人文系のスターリニストに支配されているという時代錯誤の認識)にもとづい て実行したものである。

これらすべての政策強硬はオルバン・ヴィクトルの焦りの現れであり、それが当 事者たちの怒りを買い、オルバン政権離れを加速している。他方、Fidesz 政権内部で も、強硬策の実行への慎重論が高まり、オルバン首相の性急な対応策を抑制する動 きも見られる。

6 月 28 日のプライド行進

ブダペスト市が主催する 6 月 28 日の Pride 行進について、欧州委員会はハンガリー 政府にたいして、強硬措置を取らないことを求め、欧州議会議員や EU 加盟国の大使 館員が Pride 行進に参加することで、警察力による排除を防ごうとした。これにたい して、ピンテル内務大臣は首相に進言し、力による排除は行わず、顔認識ソフトを 使って参加者を特定し、罰金を科すことを提案した。
罰金は 6000-200,000Ft に設定されているが、実際に特定人物への罰金が科せられる かどうかは不透明である。Pride 行進の後、監視カメラの取り外しが行われている
https://www.youtube.com/shorts/5ogvP5DCciM)。

Pride 行進の経路に急遽取り付けられた監視カメラ

6月28日の Pride 行進は、ハンガリーでは近年にない盛り上がりを見せ、およそ 20 万人が参加した。ラーコツィ通りからエリザベート橋へ向かう行進は、圧倒的な参 加者で埋め尽くされた(https://www.facebook.com/watch/?v=1451558556021836)。

ラーコツィ通りからエリザベート橋を埋め尽くす参加者

これにたいして、Fidesz 別動隊の極右政党の Mi Hazánk(わが祖国)は Pride 対抗 集会を開き、鎖橋を占拠したために、Pride 行進はエリザベート橋を渡ることになっ た。
警察は極右組織集会と Pride 行進との間に警官の壁を作り、不測の事態を避けるこ とに務め、直接的な衝突はなかった。

Mi Hazánk が主催した極右勢力の集会

政府系メディアは、今回の Pride 行進を「オルバン首相が野党勢力を罠にかけた」 と論評したが、予想以上の Pride の盛り上がりを前に、負け惜しみ的な言い訳に聞こ えてしまう。
政府は Pride 参加者を特定して、罰金を科すかどうか検討している模様だ。行進参 加者を罰することになれば、政府批判がさらに高まり、長期の裁判沙汰になること を覚悟しなければならず、政府の出方が注目される。

人文系研究所を ELTE に統合する措置

アカデミー創立 200 周年記念への参加を断念せざるを得なかったオルバン首相は、 親戚付き合いをしている似非学者シュミット・マーリアの口を通して、アカデミー の人文系研究者を非難していたが、腹いせともとれる措置を講じた。科学アカデミ ーとの協議なしに、4 つの研究所(人文研究所、社会研究所、言語学研究所、経済・ 地域研究センター)を HUN-REN 組織(アカデミーに代わる研究所集合体)から切 り離し、ELTE の管轄下に置くことを決定した。
これにたいして、1200 名の研究者、4つの研究所勤務員の 90%がこの措置に反対 する意思を表明し、68 名の HUN-REN 研究所のリーダーが、オルバン首相宛に抗議 の公開書簡を送付した

https://drive.google.com/file/d/1JSUeoew_BUxEZlUuHP8Qr_IPktv3X-8)。 科学アカデミーは4つの研究所をアカデミーが引き取ることを提案しているが、 政府(オルバン首相)は問答無用で、政府批判者が多い人文社会科学系の研究所を 研究組織体から切り離すことで、自らに向けられた批判に回答することにした。こ こでも、オルバン・ヴィクトルは批判者への執念深い攻撃的姿勢を明確にしている。

6月の世論調査結果―Tisza がさらにリードを広げる

21 Research Center (21 Kutatóközpont、https://21kutatokozpont.hu/index2.html)の世論調査によれば、マジャル・ピーテル率いる Tisza 党支持率は Fidesz 支持率をさらに上回り、その差が広がっている。有権者全体でみると Tisza は Fidesz を 6%上回り、政党支持者に限定すれば11%上回り、確実に投票すると答えた人々に限定すれば 18%リードしているという結果が得られた。Fidesz 支持者の絶対数は 200 万が上限だが、Tisza党はそれを 50 万上回っているという調査結果が示されている。

21 Research Center が 6 月 24-27 日に 1000 名の有権者に行った調査結果

Fidesz の基礎票は200万と推定されるが、その内の岩盤的支持者層は100万と推定される。政府が巨額のお金をかけて実施した「ウクライナの EU 加盟反対投票」では、 最初の1か月に集まった数(およそ 100万)が岩盤支持層と考えられる。残りの100万票は強固な支持層ではなく、状況によって棄権あるいは別の政党を選択する稼働 的な層だと考えられる。これまでのハンガリーの総選挙をみると、ジュルチャーニ率いる社会党が 2010 年 の総選挙で 100 万票を失ったことを考えれば、流動的に動く 100-150 万票が政権樹立 を左右すると考えられる。「奢るオルバン Fidesz、久しからず」という歴史の教訓が、ハンガリーにも貫徹 しつつある。(6月30日)

初出:「リベラル21」2025.7.03より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6806.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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