オルバン城館(ハトヴァンプスタ)をめぐる応酬

Source: atlatszo.hu

オルバン父へのインタヴュー
オルバン城館(ハトヴァンプスタの館)をめぐる疑惑は、与党 Fidesz 陣営の頭の 痛い問題になっている。この城館のリノヴェートは 10 年前から始まっており、オルバンを初めとする政権幹部には、「なぜ今になって話題の焦点になるのか」という 思いが尽きない。実際、これまで、この城館改修工事は一部の反政府メディアが時たま取り上げる問題の一つに過ぎなかった。ところが、本年に入ってからこれがオルバン城館の建設として、Fidesz 腐敗の象徴になってしまった。来年の総選挙を控え、改修工事の完成が間近に迫り、他方で反 Fidesz の Tisza 党が伸長した結果、勢いづく反政府メディアの格好の標的になったのである。ネット空間にハトヴァンプスタの情報が次々と溢れだし、Fidesz 陣営もだんまりを決め込むことが出来なくなった。それでも、オルバン首相は「あれは親父の農場だ。自分から言うことは何もない」と主張するばかりで、それならと各メディアがオルバンの父親(Orbán Győző、オルバン・ジューズー)へのインタヴューを試みることになった。しかし、反政府系のメディアへのインテヴューを受付けなかった。

結局、オルバン父は政府系メディアにインタヴューを受けたが、その理由を「外国から金をもらっているメディアのインタヴューを受けるなと息子に言われたので 、 愛国的なメディアのインタヴューを受けた 」と答えている 。
https://www.borsonline.hu/politika/2025/08/orban-viktor-edesapja-hatvanpusztarol
このインタヴューで、オルバン・ジューズーは、「この農場には長年の思いが詰まっており、モデル農場を再生したいという思い」から改修工事を決めた。「倉庫やゲストハウス、地下ガレージを作り、(オルバン・ファミリー)家族・親族が一堂に集まれる場所として作った」。「オルバン家は総勢 50 名にもなり、12 人の孫や 7 名のひ孫がいる。プールで彼らが遊ぶのを見るのが楽しみだ」と話している。

研修生の受け入れを話していながら、主要な目的はファミリーが一堂に会する館であると吐露している。ハドハーズィ議員が9月1日に Facebook に暴露したハトヴァンプスタ城館の図面には、バス・トイレ・台所付きで 35-80m2 の豪華な客室が 10室用意されている。研修生の受け入れなど想定していない。50 名のファミリーが快適に過ごせるように設計されている。地階には暖炉を備えたダイニング・ホール(190m2)があり、その隣に 140m2 のロビーが繋がっている。もちろん、多数の客人をもてなすことができる大きなキッチンが設置されている。上階には 160m2 と 90m2のロビーがあり、そこは喫煙可能になっている。中世風の図書室にはフレスコ絵が張られ、ここにオルバン家の蔵書が並べられるという。

キッチン、ダイニング、ロビーの見取り図
オルバン家の蔵書を収納する図書室

ハドハーズイ議員が現地で働く労働者に聞いたところ、オルバン・ヴィクトル夫人アニコー(Lévai Anikó)が頻繁に(ほぼ毎日)ここを訪れ、造庭状況、建物施工状況や使用材料・材質を厳しくチェックしているという。たとえば、貼り付けたタイルを剥がして、高品質のタイルに張り替えるように指示されたという。オルバン首相ファミリーの主導でこの城館の建設工事が進められている。

いずれにしても、封建領主の城館のような建物の建設費用がどこから出ているのか興味深い。ファミリー一同が会して宿泊する場合にはどこかのレストランのシェフたちを呼ぶことを想定しているのだろう。それを含めた館を維持管理する費用は馬鹿にならないが、オルバンには 15 年の政権維持下で貯め込んだ莫大な資産があるから、この程度の支出は端金なのである。私はこの城館の建設はロスアトムから取得した裏金のローンダリングの一つだと見ている。しかし、この城館の建設費用は 100億円程度なので、莫大なロシアの裏金のほんの一部に過ぎない。オルバン女婿ティボルツ・イシュトヴァーンはブダペスト中心部の高級ホテルの所有権を軒並み取得したが、ここにもロシア資金がつぎ込まれていると見ている。ハンガリーがロシア輸出入銀行に返済しなければならない借入金は、オルバンが取得したロシアの裏金を含むものだ。要するに、オルバン・ファミリーの富は、ロシアを経由させた国民の税の巧妙な略奪なのである。

オルバン擁護の理屈

政府首脳はハトヴァンプスタの説明に苦労している。「オルバン父の農場だから、政府に無関係だ」と突っぱねるだけだ。政府からの発注事業を一手に引受け、豪華な生活を享受している一部の実業家に苦言を呈しているラーザール大臣は、自らも出身地で取得した城館改修問題を抱えているから、ハトヴァンプスタ問題については歯切れが悪い。「人々は城館取得問題を騒いでいるが、国にとってもっと重要な政治経済課題があるはずだ」と、メディアに苦言を呈している。
この問題に対するFidesz 陣営からの反論は少なく、Fidesz 支持者の間でも困惑が広がっている。ところが、最近になって積極的にハトヴァンプスタの城館リノヴェーションを支持する意見が出るようになった。

Fidesz の顧問として TV などの司会者としてオルバンを称賛し、ハドハーズィ議員やマジャルTisza 党党首を貶すメッセージを精力的に発信しているRákaly Filip(ラーカイ・フィリップ)は、廃墟の城館を改修したオルバン一家の努力を高く評価している。彼のFacebook は 19 世紀のハトヴァンプスタの城館を想起させる版画風の絵をアプロードし、10 年以上の時間をかけて倒壊寸前の城館を再建したのは素晴らしいとオルバン・ジューズーを褒めたたえている。

ラーカイが Facebook に載せたハトヴァンプスタの絵

ところが、この版画に似せた絵はつい最近制作されたもので、Photoshop を使ってラーカイ自身が作ったか、第三者に作らせたものである。そのベースになったのは、反政府系メディア HVG に掲載された下の写真である。

HVG 誌に掲載された改築中の実物写真

HVG 編集部はラーカイがこの写真をベースに版画風の Photoshop 画を制作したと断言している( Itthon: Átrajzolt HVG-fotóval próbálja bizonyítani Rákay Philip, hogy Hatvanpuszta egy helyreállított műemlék, de így sem sikerült)。なぜなら、HVG の写真に は現在の改修された天窓付きの館が映っているが、改修前の城館には天窓などなかったからである。ラーカイの著作倫理が問われる。

ラーカイの Photoshop 画像を揶揄する風刺画

美術史家のボヤール・イヴァン・アンドラーシュ(Bojár Iván András)はラーカイの Photoshop 画像を真似た風刺画を Facebook に載せている。

ソーセージとタイル

農場に過ぎないと言いながら、中世風の図書室を作るというのは矛盾している。それとも図書室でソーセージを作っているから農場だと強弁するのだろうか。オルバン父の所有物であると言いながら、オルバン夫人は連日、建築現場に出かけてあれこれ指示している。タイルの張替えを命じたオルバン夫人を風刺したもの。

プールとシマウマ

城館内の水場は家畜の水飲み場だと強弁したが、孫やひ孫が遊べるプールだった。ハドハーズィ議員はプールにおもちゃのアヒルが置いてあることから、すでにオルバン・ファミリーの子供たちを遊ばせたに違いないと推測している。そのアヒルと戯れるオルバンを描いたものだ。城館に隣接するメーサーロシュの広大な敷地は個人サファリになっており、そこにはオルバンが身請けしたシマウマが飼われている。

ハドハーズィ議員の車に幅寄せしてひっくり返った警備会社の車。メーサーロシュの個人サファリのシマウマやアンテロープが、それを見つめている。

ハトヴァンプスタの城館をめぐるネット空間は面白い。この空間ではオルバン・ファミリーを擁護する一部の議論は揶揄の対象になるだけだ。だから、 Fidesz 幹部は焦っている。ネットや Tisza 党は 2026年総選挙が新たな体制転換になる、つまり領主が支配するオルバン啓蒙君主制からヨーロッパの近代社会への転換だと気勢を上げている。(2025年9月3日「ブタペスト通信」から)

初出:「リベラル21」2025.09.11より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6863.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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