クルド人国家独立への住民投票迫る - モスル解放と難民支援で自信深めた自治政府 -

著者: 坂井定雄 さかいさだお : 龍谷大学名誉教授
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イラクのクルド人自治区政府が9月25日に設定している、クルド人国家樹立の是非を問う住民投票が迫ってきた。自治区の独立に反対してきたイラク政府は住民投票自体に反対、クルド人が少数ながら国民の一部を占めるトルコ、イラン、シリア政府も独立に反対をしている。しかし自治政府は、あくまで9月25日に投票実施の姿勢を崩さず、イラク政府との公式な協議のため、8月14日、与党指導者を団長とする高級代表団を首都バグダッドに派遣した。イラク政府のアバディ首相、与党指導者のマリキ前首相と会談する予定だという。自治政府の最高指導者バルザーニ議長(大統領)は、代表団派遣に先立ち、ロイター通信の取材に応じ、住民投票実施プランから引き返すことはありえないと断言、「(独立賛成の)投票結果がでたうえでのイラク政府の交渉は、無期限ではない」と強調した。
バルザーニ議長は、昨年2月に独立への住民投票実施の意図を表明したが、イスラム国(IS)に占領されたモスルをはじめ、他の都市や地域からの難民が急増してクルド自治区に流入しきた、などの事態で延期されてきた。しかし、昨年10月にイラク政府軍と2万人を超えるクルド人武装組織ペシュメルガが作戦分担をして協力し、米軍はじめ多国籍空軍の空爆に支援されてモスル奪還作戦を開始し、ペシュメルガが大きな役割を発揮。その一方でモスルからの難民94万人はじめイラク各地、一部はシリアからも難民計180万人がクルド自治区に避難。自治区では国連機関の支援もえて、これら自治区人口の半数近い難民を受け入れたことも国際社会に高く評価されてされた。
このように大きな役割を果たしたことにクルド人自治政府は自信を深め、バルザーニ議長は今年6月、9月25日にクルド人自治区の独立の可否を問う住民投票を、自治区全域と自治区外のキルクークなど実効支配地区で実施することを発表した。キルクークは世界有数の油田地帯。14年6月、イラク北部の中心都市モスルがイスラム国(IS)に占領され、その南方のキルクークもISに占領されたが、間もなくクルド人自治区からペシュメルガが出撃して奪回。それ以来、クルド人自治区政府の支配下に入り、自治区経由の原油輸出も再開された。キルクークの住民多数はクルド人で、クルド人独立国家の一部になるとして住民投票を実施する。しかし、イラク政府の立場はあくまでキルクークはイラクの1州であり、その帰属をめぐり、クルド人独立国家の領域を決める際には重大争点になることは必至だ。
バグダッドでのイラク政府とクルド人自治区政府代表団の交渉は、共に戦ったモスル解放作戦の勝利の直後であるとはいえ、難航するに違いない。政府側の交渉代表の一人、マリキ前首相は、多数国民のシーア派優先の政策を強引に進めて、スンニ派国民の強い反感を生み、イスラム国(IS)が膨張する地盤を育てた剛腕政治家。クルド人独立投票については「軍を使って潰したらいい」と発言したこともある。それでも、9月25日のクルド人住民投票は実施されるのではないだろうか。(続く)

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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