クルド人国家独立への住民投票迫る(下) 自治区首都アルビルで交渉つづく

著者: 坂井定雄 さかいさだお : 龍谷大学名誉教授
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クルディスタン(クルド人の主な居住地域―英語版ウイキペディアから)

イラクのクルド人自治区政府が9月25日に予定している、独立の可否を問うクルド人住民投票についてのイラク政府・与党と自治区政府代表団の交渉は、14日から20日まで1週間、首都バグダッドで行われ、さらに2週間以内に、自治区の首都アルビルで再開することになった。
クルド代表団側は、イラク政府・与党が求める住民投票延期の可否についての最終的決定は、あくまで9月25日実施を主張しているバルザーニ議長(大統領)の下、アルビルで行わなければならないと主張。政府・与党側も同意したという。クルド代表団のシャゥエイス代表は20日、双方の立場はこれまで以上に近づいたと記者団に語った。
一方、イラク政府与党・代表団のクザイ代表は、「双方の立場は近寄りつつあるが、これ以上の交渉はアルビルで行わなければ進まないだろう」と語った。
クルド代表団に近いロイター通信は、クルド代表団の発言として、「相手側は、独立投票の延期をあくまで求め、その代わりに政治的、経済的譲歩を行うと主張している」と伝えている。
政治的譲歩とは、すでにクルド自治政府が独立国並みに得ている行政的、軍事的決定権さらに周辺諸国や国連機関との交渉権限を拡大することであり、経済的譲歩とは国家予算の配分の確定と石油輸出の問題など。石油については、世界的な油田地域キルクークからトルコのジェイハン港に輸出する原油収入の取り分の確定とその実行問題だ。何度も書いたが、イラク国家の1州であるキルクークをモスルに続いてIS(イスラム国)が占領し、クルド人武装勢力がすぐに取り戻し、そのまま自治区が編入した既成事実をどうするか。自治区政府は、来るべき独立住民投票にキルクークを含めているが、イラク政府はとうてい認められないだろう。今回のバグダッドでの交渉でも、キルクーク問題が協議された形跡はなく、棚上げされたままなのかもしれない。
 (主なクルド人居住地域クルディスタン)イラク、トルコ、シリア、イランにまたがる山地がクルド人の歴史的居住地域。面積は日本の1.5倍の約50万平方キロ。
クルディスタンのクルド人の正確な人口は不明だが、英語判ウイキペディアによるCIA(米中央情報局)の最近の国別推定人口はー
トルコ 1,450万人
イラン   600万人
イラク   500~600万人
シリア   200万人以下
計2,800万人に近い。どの国も、イラクでのクルド国家独立に反対している。
他に国外移住者が150万人うち半数はドイツ。ロシア、コーカサス・中央アジア諸国に40万人。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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