9月25日にイラク・クルド人自治区政府が実施する予定の「クルド人自治区と自治区外のクルド人地域の国家独立の賛否を問う住民投票」の公式な運動が5日、始まった。投票を管理する公的機関―高等選挙及び住民投票管理委員会(IHREC)は既に1日から、海外でのネットによる電子投票のための有権者登録をドイツなどで開始している。クルド人移民や居住者が多いドイツでは8月26日、独立を支持する2万人のクルド人集会が開かれている。
住民投票が行われる「自治区外のクルド人地域」とは、自治区に隣接する世界的油田地帯のキルクーク県と一部の隣接地域。クルド人住民が多数を占め、自治区政府が実効支配している地域で、イラク政府は自治区外と主張している。キルクークは、2014年にイスラム国(IS)勢力に短期間占領され、駐屯していたイラク軍は少し抵抗しただけで撤退した。しかし間もなくクルド人自治区の公的武装勢力ペシュメルガがISを駆逐し、以後実効支配している。キルクークの県議会は8月29日、同州でもクルド人独立投票を実施するかどうかを採決、賛成24、棄権2で可決した。
このように、クルド人独立投票の準備は着々と進み、実施されれれば、賛成多数で可決されることは必至だが、投票が実施されるか、実施されて可決されても、バルザーニ議長(大統領)がクルド人独立をいつ宣言するかは、全く予測できない。
前回書いたように、8月中旬から下旬にかけてバグダッドでおこわわれたアバデイ首相以下政府側と自治区政府代表団の交渉は、双方の立場を主張し合い、クルド側代表は「双方の立場は近づいた」と語り、2週間以内に自治区の首都アルビルで交渉を再開すると述べている。再開交渉では、住民投票の実施を1年程度先延ばしにして、いまだキルクーク南部のハウィジャなどイラクのごく一部に残っているイスラム国(IS)の支配地域を完全に一掃してから、前向きに対応するといった妥協になるかもしれない。
アバディ・イラク首相はクルド代表団との会談後、「憲法上、独立の可否はあくまでイラク議会だけが決定することができる。住民投票は無意味だ」と従来の立場を繰り返す発言を外国メディアに対して行った。一方、住民投票プランを推し進めてきたクルド自治区のマスード議長(クルド側では「大統領」と呼ぶ)は8月30日、アルビルでの学術的な会議での演説で、イラク政府が独立を問う住民投票の実施そのものを受け入れ、米国か国連がそれを保証するならば、住民投票を2018年後半まで延期してもよいとまで発言した。
モスル解放作戦はじめ対IS包囲網、膨大な難民受け入れで、イラク政府、国連、各国の信頼が大きく高まっているクルド人は、長い民族の歴史の中でかってなかったほどの、民族独立の好機にあるのではないだろうか。日本政府にも物心両面での支援を求めたい。
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