「グリーンランド」や「パナマ運河」は目くらまし

―じつはトランプ・習にはすでに密約が?!

いよいよ米トランプ大統領の二度目の登板である。現職大統領で再選に敗れながら、再度、共和党内で候補者の地位を勝ち取って、さらに選挙にも勝ち、大統領職に復帰するというのは、米でもそうあることではないらしいし、同氏がそれなりの資質の持ち主であることを認めるにはやぶさかではない。

それにしても氏の就任前の言動はなんだったのであろう。ほかでもない、グリーンランドを売れとか、パナマ運河を返せとか、「メキシコ湾」を「アメリカ湾」に改名しろとか、なんの前ぶれもなしに、突然、言い出したところでどうなるものでもないことは明らかなのに、あえてそれをした腹の内がさっぱり分からない。

いちばん簡単なのは、就任前に勝手なことを言い続けて、「この男なにをやらかすか?」と世界を緊張させ、じつは就任後はすっかり真面目になって、「やれやれよかった」と世界を安堵させる、という陳腐なこけおどしかなとも思えなくはない。

ウクライナ紛争について、この間まで自分が当選したら1日だか、半日だかで解決して見せると言いながら、当選したらとたんに「半年で」と言い直したようだから、ただのこけおどし説も捨てがたい。

でも、それで安心していていいか、となると、この男なにか企んでいるのではという疑念も捨てきれない。その際、よもやと思いながら、それでも万一という疑念が残るのは、トランプはひょっとして台湾を習近平に投げ渡すのではという不安である。

私の不勉強かもしれないが、トランプが台湾についてなにか重要なことを言った記憶はない。もともと主義主張には関心がなく、実利が洋服を着ているような人間だから、それこそかねて執心の「中国製品に60%の関税」をかけるという突拍子もない要求を中国に認めさせて、その代償に「台湾海峡には米軍はいっさい関わらせない」と世界に約束する。こんなディール(取引)を持ち出さないとも限らないと思うのだ。

もしそうなれば、これには習近平は乗りそうな気がする。なにしろ今の習近平にとっては、経済よりなにより、飽きられ始めた自分に対する求心力を持ち直すことが一番の関心事であり、それには「80年ぶりに祖国統一を実現した指導者」という勲章が最高の特効薬だからだ。

密約の中身は・・・習近平が台湾の頼清徳総統へ「北京へ統一の話し合いに来い。来なければ人民解放軍を台湾へ上陸させる」という命令を出す。

これに対してトランプは「わが国は台湾を武力で守ると約束したことはない」とうそぶく。「台湾はもともと中国の物だ」と・・・

これには誰も文句はつけられまい。頼清徳総統もこうなると抵抗のしようがないであろう。習近平は名君となって、終身国家主席の座を保証され・・・こんなストーリーが思い浮かぶ。

これが最後までうまくいくかどうかは、予測の限りではないが、グリーンランドだの、パナマ運河だのは、じつはこの台湾ディールを実現するための世界の耳ならしだったではないのか、そんな気がするのだが。

こんな筋書きに思い至ったのは、じつは1本の新聞記事を読んだからである。それは1月13日の『人民日報』に載った「中米関係のウインウインの本質を十分認識しよう」という論説である。「ウインウイン」と訳したのは「互利共赢」という中国語で「赢」は「勝つ」の意味である。日本語のウインウインは「両者勝ち」であるが、この中国語には「互利」、双方が儲かると言う意味が含まれている。

その記事がどうした、と言われそうだが、じつはこの論説には「鐘声」という署名がついている。勿論、筆名だが、「鐘」は「中」と発音が同じである。つまり「筆名」といっても、「中国の声」という意味をすぐに連想させる。そしてこの筆名はまさにそういう意味であることを裏付けるように、もう何十年も前から『人民日報』紙上で使われてきた由緒ある筆名なのである。米のマスコミに例えれば「VOA」(VOICE OF AMERICA)と似た響きと言ったらいいだろうか。

では、そこには何と書いてあるか。まず冒頭、「中米関係はいかなる角度から見ても、そこには幅広い共同利益、ウインウインの関係があるのが本質的な特徴である」と言い切る。

そして両国の経済関係の密接さを次々と例示する。ついこの7日から10日までネバダ州ラスベガスで開かれた電子機器見本市に出展した中国企業は1300余社に上り、全体の27%を占めたことをはじめ、昨年、中國で開催された経済貿易関係の展示会3800回以上において、米企業は参加面積、参加企業数でいずれもトップであったと書く。

また同じく昨年は、米テスラ車の中国での売り上げが前年比+8.8%の65.7万台と、年間最多記録を更新したこと、スターバックス・コーヒーの店舗は昨年第4・4半期の中国における新規開店数が290店に上り、78の新しい県に進出したことを紹介し、昨年までに中国に設立された米企業は7.3万社、総投資額は1.2兆ドルに達したと書く。

そしてその業種は電子通信、自動車製造、消費財、金融サービスなど多岐にわたることを挙げ、米企業が中国に投資することは利益をもたらすだけでなく、両国人民を幸福にすると説く。

記事は最後に、利益の結びつきが深まれば、矛盾・対立が生まれるのは当然だが、それを協力の障害としてはならないと説き、両国はウインウイン関係の本質を把握し、相互成果、共同繁栄、世界の大事のために力を尽くすべしというのが結論である。

別に外から文句をつける必要も理由もないのだが、中米関係といえば経済的結びつきの一方で、台湾を巡って曰く言い難い緊張がついて回るのが常なのだが、このような厄介な一面にはことさら眼をつぶったような文章を見せられると、ついなにか裏があるのではないかと勘繰りたくなってしまう。

なにはともあれ日ならずして、米ではトランプ大統領が改めて登壇する。その直前に世界を惑わしたグリーンランド発言には果たして何の裏もなかったのか。あるいは・・・。

目をこらしていよう・・・。

初出:「リベラル21」2025.01.17より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6657.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14055:250117〕