コロナの次は汚職高官退治 ― なぜか目まぐるしい中国政治

 去年秋まではあんなに厳しく「ゼロ・コロナ」を唱えて、「隔離」だ「ロックダウン」だと、人を縛る政策を事もなげに強行していた中国がここへきて、突如、いわゆる「乙類乙管」と称する緩和政策に転じたために、今度は開いた門からあふれ出てくる中国人を迎える諸外国が慌てて規制をきびしくし、それに中國政府が「中国人を政治的に差別するな」と抗議するといった、連想ゲームのような騒ぎが続いている。
 「乙類乙管」とは今月8日から実施された政策で、中國政府によれば、コロナ対策の重心が「感染防止」から「健康保持」、「重症防止」に移ったことによる政策変更で、危険地区や人間を管理することから健康のためのサービス、管理が中心になったのだそうである。
 ただ感染そのものは一向に収まる気配は見えないから、いつまた方針が変わらないとも限らない。現在は入国48時間以前内にPCR検査が陰性であれば、入国後の隔離は不要になったが、中國に出かける方はニュースにくれぐれもご注意を。
 これで昨年10月の共産党大会以来のなんとなく落ち着かない空気がおさまるかと思った矢先、8日の晩に中国のテレビは、昨年、大きな注目を浴びた公安汚職の大物、傅政華(フ・セイカ)死刑囚(執行猶予中)の懺悔録を放送した。
 中国では警察(公安)、検察、司法の三部門を総称して「政法」部門と呼ぶが、法律の番人であるはずのこの部門にも汚職が多い。むしろほかよりも多いような気がする。
 習近平は総書記に就任した後、まずこの部門の汚職にメスを入れ、前任の胡錦涛総書記時代に政法部門担当の共産党中央政治局常務委員だった周永康という人物の汚職を摘発した。この事件は「刑不上大夫」(刑罰は高官に届かず)という伝統を打ち破ったとして、習近平の人気を高めたのであった。
 それにあやかったわけではないかも知れないが、習近平は2年ほど前から再びこの部門の腐敗摘発に力を入れ、大物で司法部長(閣僚)まで務めた前出の傅政華死刑囚(執行猶予付き)をはじめ、孫力軍死刑囚(元公安次官・同)、王立科死刑囚(元江蘇省公安庁長・同)を摘発し、この6日にも山東省泰安市の中級人民法院(中級審)で李文喜・元遼寧省公安局長に執行委猶予つき死刑が言い渡されたばかりである。
 警察だろうと裁判官だろうと法律を犯したものを裁くのは当然だが、中國ではこの分野の人間を裁くことには、法律の公正という以外に別の意味もある。この分野の幹部はほかの分野の人間たちの腐敗汚職を摘発するのが本務であるから、当然、多くのことを知っている。汚職、不正を摘発するうえで、こういう人間たちが知っている知識は極めて有用である。
 それを当局は公然と明らかにした。昨年の9月23日、当時、政法汚職の頂点とされていた孫力軍被告に「執行猶予つき死刑」の判決、というニュースを伝えた新華社電は、被告の不正蓄財は6.46元(現在のレートでは日本円で120億円以上)にも上るが、「被告はその他の重大案件について捜査の手がかりを提供し、その面で重大な功績を立てた」とつけ加えて、死刑の執行を猶予する理由を明らかにしている。
 中國の執行猶予付き死刑というのは、3年とか5年とかの猶予期間を無事に過ごせば、「保釈なし」という条件つきながらも、無期懲役に減刑されることになっている。つまり、例えば他の案件の捜査に役立つ情報を求められたときに、それに協力することは命をとりとめることが出来るかどうかのカギなのである。
 中國での汚職の広がりは有名である。摘発された人も多いが、逃れている人も多いはずだ。逃れている人には、どこかに自分についての疑いの記録があるかも知れないと考えることは相当な恐怖のはずである。
 私はこのニュースを見た時に、9月23日という共産党大会の開幕まで3週間という日付から、これは習近平執行部が大会を平穏に終わらせるための消火剤ではないかと考えた。そのことはこのブログにも書いた記憶があるが、警察、検察の大幹部が大勢、捕まっていて、その人たちは聞かれればなんでも答えるつもりでいるのだから、脛に傷をもっていれば、あるいは持っていなくても、過去に疑われるようなことがあれば、とても怖くて大会で発言などはできないからだ。
 今度も政治的雰囲気が微妙である。これは私の邪推かもしれないが、昨年10月の党大会は「習一強体制の確立」などと、外ではさかんに言われた。ところが、その後はコロナ対策の混乱から始まって、学生たちが白紙を掲げて「言論の自由」を要求するデモ久しぶりに起こるなど、なにか国内に「習体制、もうたくさん」、「習一強、もううんざり」といった空気がただよっていることは確かである。
 汚職重大犯の懺悔テレビ番組は4回続きだそうだから、どんな人々が登場するか、その人たちはなにを知っていそうか、いろいろ想像するのが、楽しみである。(230110)
 
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