ハンガリー通信
先日のトランプ・ゼレンスキー会談をどう見るか。トランプ大統領の登場によって、ウクライナ和平が近づくと予感された。少なくとも「毒をもって毒を制する」効果があると考えた人は多いだろう。ところが、トランプ大統領のウクライナ戦争観が公になるにつれて、彼には歴史的公正観や戦争犠牲者への思いやりがないことが明らかになった。
ロシアがウクライナに侵略したことすら認めないというトランプ大統領の姿勢は、ゆがんだ歴史観というより、モスクワでの過去の行状について、KGBに好ましくない情報が掴まれているのではないかと推測されるほど、親プーチンそのものであった。
トランプ大統領の政治姿勢は確固としたイデオロギー的背景をもつ帝国主義というより、ブラック企業や創業社長が陥りやすいワンマン(世俗の王)独裁である。強い大国相手に正面切って喧嘩することはないが、自分より下の者に対しては軽蔑した態度で、いかなる反論も批判も許さない。政治を金儲けの手段としてしか考えていない。
トランプ大統領にとってウクライナ和平とは、ロシアへのウクライナ領土の割譲を認めさせ、その仲介料として、レアアースの利権を取得するというディールなのである。そこには歴史的公正観念など一片もない。まるで悪徳商人か、死の商人だ。
こういう相手とまともに議論するのはほとんど不可能である。反論することが自体がけしからん、無礼だと言われるのなら議論が成り立たない。まるでやくざに絡まれたような状況だ。通訳を介さないで、副大統領や国務長官まで加わってゼレンスキー大統領を批判する状況は、3人のやくざが一人の素人を相手に喧嘩を吹っ掛けるようなものだ。
いかに言語が話せても、外交交渉では通訳を介するのがふつうだ。相手は母国語で、しかも3名が代わる代わる話し、対して、こちらは一人で外国語を話す状況は避けるべきだった。しかもアメリカ人の多くは外国語を勉強したことがないから、外国語で議論することの難しさを理解できない。不用意に発せられる言葉尻を捕らえて攻撃するのはいかにも大人気がない。通訳を付けなかったウクライナ側に油断があり、そこを上から目線のトランプ政権幹部に付け込まれた。
この事件に小躍りしているのがプーチン政権であり、ハンガリーのオルバン首相そしてスロヴァキアのフィッソォ首相だ。旧東欧の政治家でプーチン政権に肩入れしているのは、皆、プーチンから巨額の裏金をもらった連中だ。彼らの歴史観もまた、トランプ大統領と五十歩百歩である。
オルバン首相は、ウクライナの挑発が戦争の原因だと考えている。だから、ウクライナが戦争を始めたという議論に同調している。そしてトランプ大統領と同様に、オルバン首相にも歴史的公正観や戦争犠牲者への思いやりが欠如している。
しかし、少なくとも第二次オルバン政権発足前までは、オルバンは現在とは180度異なる考え方を披露していた。その姿勢を変えたのは、権力維持への執着(権力維持の自己目的化)とロシア・マネーである。親プーチンへと転換したオルバンの最大の転機は、Paks原発拡張工事を公開入札なしで、ロスアトムに引き受けさせたことだ。
この突然の決定の背後には、莫大な裏金が流れている。権力維持を自己目的にし始めたオルバンにとって、ロシアからの裏金は自らの思想信条を放棄してでも受け取る価値があるほど巨額なものだった。
政治家の思想信条など軽いものである。Forbesの億万長者番付のトップは、オルバン一家の盟友メーサーロシュであるが、裏の長者番付のトップはオルバン・ヴィクトルである。メーサーロシュは各種の公共事業を一手に受注して巨額の富を蓄えたが、オルバンは原発拡張工事の決定を行っただけでロスアトムから巨額の裏金を得た。その隠れ資産はメーサーロシュの資産をはるかに超える。しかし、その事実は何重もの秘密のヴェイルに包まれている。
今回のことではウクライナ側に油断はあったが、上から見下す相手に簡単に利権を渡さない姿勢は高く評価されるべきだ。日本の政治家や経済人のように、トランプ大統領の顔色を窺い、「なんとか日本だけ例外にしてもらえないでしょうか」などと卑屈な外交を続けては、国際舞台で馬鹿にされるだけだ。
いったい日本政府はアメリカに何を要求しているのか。手ぶらでご機嫌伺しているだけだから、会談のマナーや食事のマナーだけがマスディアで騒がれ、トランプの逆鱗に触れなかったことが「成功だった」などという卑屈な論評が幅を利かせている。情けない限りだ。当のトランプ大統領からも「日本の政治家など、脅せば、簡単に折れる」と見られているだろう。これでは永遠にアメリカ従属の轡を外すことはかなわない。
初出:「リベラル21」2025.03.07より許可を得て転載
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