トランプ米政権とアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンは2月29日、2018年10月から中東カタールで断続的に行ってきた和平交渉を妥結、首都ドーハで正式な調印式を行った。それに基づき米国は、同国に残留してタリバンと戦ってきた1万3千人の米軍の撤退を開始、14か月以内に撤退を完了すると発表した。11月の米大統領選挙を目指し、米国民が熱望してきたアフガンからの米軍撤退を実行するのだ。英BBCによると、3月3日には、トランプはタリバンの交渉団長と電話で会話したという。
しかし、アフガニスタン全土で、停戦を即時、完全に実施するのは難しく、アフガン内務省によると、ヘルマンド州で3月3日、4日に政府軍のチェック・ポイントなどにタリバンの攻撃が計43回あり、兵士や市民ら15人が死亡したという。これに対し、米軍は11日ぶりにタリバンへの爆撃で反撃した。
BBCによると、米国とタリバンが調印した和平協定では、政府側が収容しているタリバンの捕虜5千人とタリバン側が収容している政府軍1千人を釈放することが決められている。しかし、アフガン政府は和平協定の交渉、調印には参加しておらず、捕虜釈放を渋っている。何としても、大統領選挙の日程に合わせて、アフガンからの米軍撤退を進めたいトランプは、ガニ・アフガン大統領への圧力をさらに強めるだろう。
この「史上最長」となった19年間の戦争で、米国防総省によると、米国は約2、400人の兵士、国際支援部隊全体では3、500人以上が死亡。支出した戦争経費は2019年3月までに7、600億ドル。
アフガン戦争の人的損失、戦争経費を系統的に調査しているブラウン大学ワトソン研究所によると、米国は1兆ドル近くの戦争経費を投入、アフガン政府軍5万8000人、タリバンの戦闘員4万2000人が死亡した。
ガニ大統領によると、2014年以来、アフガン政府軍4万5000人以上が死亡、国際治安支援部隊約3,500人(うち米軍は2,300人以上)が死亡した。
2019年2月の国連機関報告によると、これまでに民間人3万2000人以上が死亡、6万人以上が負傷している。
2001年9月11日に米同時多発テロ事件が発生。米ブッシュ政権が犯行グループだと断定した、アラブ人の反米テロ組織アルカイダの本拠地がアフガニスタンにあったため、米国は10月、英国など同盟国、友好国の参加も得て、アルカイダを保護していたアフガニスタンの原理主義的なタリバン政権に戦争を開始。タリバン政権は12月に崩壊、残党がパキスタンに逃れた。
米軍と国連決議に基づく国際支援部隊がアフガンの国内治安体制を再建、その治安・経済支援のもとに暫定政権が発足した。以後、暫定政権、移行政権を経て04年にアフガン史上初の大統領選挙が行われ、カルザイ大統領の政権が発足、国家再建が進んだ。2014年8月、カルザイ大統領の任期満了に伴い大統領選が行われ、ガニが当選、ガニ大統領のもとに挙国一致内閣が発足した。
一方、パキスタンに逃れたタリバンの残党は、パキスタンの支援も受けながら組織の再建を始め、アフガン国内で政府軍や警察などへのゲリラ攻撃を開始。15年には、パキスタン政府の仲介でアフガン政府との和平交渉に着手した。交渉が遅々として進まない一方でタリバンは、国内での政府軍、米軍との戦闘を拡大。首都カブールや全国の主要都市は依然、政府側の支配下にあるが、タリバンの支配下に置かれた村や町は半数を超え、最近では、国土の七割以上がタリバンの支配下だという情勢分析が有力になっている。
2001年にアフガン戦争を開始したのは、共和党のブッシュ(息子)政権。19年後の今年2月から14か月以内に、アフガンからの全駐留米軍1万3千人を撤退しようとしているのも共和党のトランプ政権だ。一昨年10月から、タリバンとの和平交渉を行ってきたトランプ政権。本来、最も重要なアフガン政府のガニ政権は交渉から外され、米国側交渉団長のカリルザーデから報告がされてきただけだった。
トランプ政権は、タリバンとの交渉に合意し、駐留米軍の撤退を進め、アフガン戦争に“バイバイ”しようとしている。今年2月に2期目の大統領に再選が確定したばかりのガニ・アフガニスタン大統領は、いわば“蚊帳の外”に置かれてはいたが、米国とタリバンとの和平交渉合意に続いて、タリバンとの和平交渉が必要なことを十分認識しているようだ。タリバンの側も、公表されている指導部は、頑迷なタリバン流のイスラム原理主義からある程度は脱却し、ガニ大統領が率いる政府との和平協定から、連立政権まで協議する可能性がある。タリバン指導部は、米国との1年4か月に及ぶ断続的な和平交渉で、かなり柔軟な姿勢、理解力を示してきた。誰もが内戦に疲れ果てている。(了)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion9510:200306〕