米国がアブディ司令官率いるSDF(シリア民主軍)と手を結んだのは5年前、IS(イスラム国)に対する米軍の空爆を地上で効果的に支援する、シリア人の地上部隊を求めていた時だ。同盟関係の下で、米軍はシリアの少数民族クルド人が主導する戦士たちに兵器を供与し、訓練をおこなうとともに、彼らが戦いの優先順位を自分たちの利益から、米軍の利益へと変えるよう強要した。
米国は彼らに、ISとの戦闘の場所をクルド人の伝統的郷土の外側に拡大するよう要求、その結果、彼らの死者が増加した。米国は、彼らがシリア政府と交渉することを抑制し、米国と密接な関係にあれば、ISに勝利したのち、彼らがこの国の将来で有力な立場を得るだろうと説得した。
元米特殊作戦軍、中央軍司令官のジョセフ・L・フォテル将軍は「勝ち組にいたほうがいいのだ」と電話インタビューに語った。
米国はトルコをなだめるため、トルコ軍の攻撃に備える防衛施設を壊すよう、クルド人たちを説得した。さらにイランとの戦いを支援するようクルド人に求めた。
クルド人主体の武装勢力にとって、米軍がシリアから撤退することは痛くない。いずれそうなることを彼らは知っている。それは、ISとの戦いで米軍とともに戦い始めてから5年の後に起こった。トランプが突然、電源プラグを抜いたのだ。彼らには次に起こることへの準備がなかった。
「背後からグサッと刺されたのよ」とクルド女性民兵軍の広報官ネスリン・アブドラはいったー「アメリカ人は、いつも、トルコの侵入を許すことはない、と常に言い続けてきた」
問題の一部は、米当局者が、米国はいつまでシリアに居るのか、なんのために居るのか、
について相矛盾するメッセージを送ってきたことだ。
オバマ政権の当局者たちは、クルド人同盟者たちに、米国とのパートナー関係はIS打倒まで続く、彼らが将来シリアで果たす役割についても支援する、と告げてきた。米国からのメッセージは昨年、トランプ氏がシリアからの撤退を約束する一方、他の政権内当局者はイランがシリアから撤退したら米軍も撤退する、ダマスカス(訳注シリア政府)は政治的解決ができる、などと語るなど、混乱していた。米国の外交官たちはクルド人たちに、統治と安全の改善プログラムを助言したが、それは、撤退が迫っていることを示唆するものではなかった。
10数人の米国およびクルド当局者たちとのインタビューから、強力な協力関係の素早い解消は、シリアのクルド人だけでなく、IS打倒のために共に働いた米国人たちをもひどく悲しませたことが分かる。
シリアでのISとの戦いが、米国の構想に奉仕するものであったなら、クルド人たちはそのために死んだのだ。シリアでのISとの戦いで1ダースより少ない米国人が死亡したが、クルド人が主導する武装勢力は1万1千人が死んだ
「我々は死亡者を我々以外に求めたのだ」と、これらの問題で公に発言することが許されていない、シリアで働いてきた米国当局者は語った。その人はこうも語ったー「最後にわたしは、我々がいままでそのために働いてきたすべて-彼らの郷土の安全保障、彼らの政治計画、彼らの人民を放棄していくのか、と質した。我々が確かめることができたのは、かれらの1万1千人の死は無駄だったということだけだった」(続く)
NYタイムズ電子版10月28日付の特集記事の併用写真
クルド人戦士たちによる同志の葬儀式典(2017年)。5年にわたるISとの戦いで、クルド人戦士たち1万1千人が戦死した。米兵の死者は1ダース以下だった。クルド人武装組織YPGには女性の戦士もかなりいる。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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