トランプ政権、最後の1年(23) 金子敦郎論文紹介―鋭く明快なトランプ黒人差別批判

 米大統領選挙まで2か月を切った。「リベラル21」にも随時執筆していただいている国際問題ジャーナリスト金子敦郎さん(元共同通信ワシントン支局長)が、オンライン誌「現代の理論」最新号に、「トランプ、苦し紛れの強硬策、バイデン政権誕生なら、南北戦争“総決算”への道開くか」と題した、明快・平易な論文(1万2千字程度)を発表した。オンライン誌なので、読者登録して誰でも読むことができると思う。ここでは、金子さん、同誌矢代編集長のお許しを得て、リード部分を全文、他の各9項を一部分ずつ紹介します。

トランプ、苦し紛れの強硬策
黒人差別は世界のリーダーを自他ともに認める米国にとっては恥部だ。南北戦争(1861-65年)で奴隷制度は廃止したが、白人至上主義の執拗な抵抗で「隔離」という別の差別制度に移行する結果となった。1世紀後の公民権運動では差別解消のための法的枠組みを整えたものの、彼らの抵抗で十分な効果は挙げられていない。それからまた半世紀余りの今、「黒人の命は大切」を掲げる運動が米国を揺るがしている。黒人差別をなくするための3回目のチャンス到来である。
大統領選挙および議会・知事選挙を争う11月選挙で、民主党がトランプ再選を阻み、さらに上院を制して下院の多数と合わせ両院支配を手にすれば、米国は黒人差別の解消へ大きく進むことになる。それは南北戦争の総決算になるだろう。
主要な世論調査はそろって、トランプ再選に黄信号を出している。しかし、民主党首脳部は選挙までまだ100日あるし、トランプの岩盤支持層は揺らいでいないと、引き締めに懸命だ。
南部連合の英雄たち
南北戦争から1世紀半を経た今も米国が黒人差別から抜け出せないでいるのは、南北戦争が奴隷制度を廃止して終わったはずなのに、本当には終わっていないからだ、それを象徴的に示しているのが、南部諸州に広く展開されている南部連合の政治、軍事のリーダーたちを称賛し、顕彰する彫像や、記念碑、あるいは彼らの名前を付した軍事基地、図書館・博物館、大学、公園、道路などの存在である。その数は約1,000か所にのぼる。
「白人警官に気をつけなさい」
南北戦争が終わっていないことを象徴するもう一つが、白人警官の暴力的な「職務執行」によって黒人が殺される事件が後を絶たないことだ。
「黒人の命は大切」
5月下旬、ミネソタ州ミネアポリスで起きた事件では新しい状況を生み出した。G・ロイドさんが町の商店で偽造20ドルを使った疑いで白人警官に後ろ手に手錠をかけられ、首筋を膝で地面に押し付けられて(訓練を積んだ逮捕術)「息ができない」と8分46秒も喘ぎあえぎ訴えた末、死亡した。ロイドさんの容疑は、こんな目にあわなければならない重罪だろうか。
リベラルな若者たち
この6年で何が変わったのか。グローバリズムの下で、貧富格差が極端に拡大、誰にでも成功のチャンスがあるという「アメリカン・ドリーム」が、まさに夢になった。リベラル民主主義を嘲笑し、人種差別意識を隠さないトランプ大統領の登場、そしてコロナ禍という時代の変化がある。トランプ支持層を見ると高齢に多く、若い世代ほど批判あるいは反対が増える傾向がはっきりしている。
動き出した「警察改革」
「黒人の命」は警察の改革を要求している。警察は州の組織である。知事や警察部長を民主党が握っている州では、すでに具体的に取り掛かっている。警察改革が進むか否かは、大統領選挙と同時に行われる州知事や州議会の選挙で、民主党がどこまで勢力をのばせるかにかかってくる。
(以下の各章は黒人差別のすべてにわたって詳論しており、原文を読んでください。
奴隷制度廃止―「隔離」へ移行  「隔離しても平等」  「合法的差別」  公民権運動で「隔離法」無効に  「白人至上主義」  「トランプの新南北戦争」)

オクトーバー・サプライズ
トランプの勝利も零ではない。デモの一部が暴走して全米各地でワシントンンら建国の父の記念像などの破壊に乗り出す、あるいは失言僻のあるバイデンの大失言という民主党の自滅。トランプの「オクトーバー・サプライズ」が成功するケースもある。舞台は朝鮮半島、南シナ海、台湾、香港、中東などだろうが、可能性が最も高いのは、トランプ同様に窮地に追い込まれている、ネタニヤフ・イスラエル首相と組んだイラン核・ミサイル関連施設に対する軍事攻撃である。しかし、「大義なき軍事介入」で戦争疲れしている米有権者が惑わされる可能性は低いとみられる。むしろ自滅に近い結果を招くのではないだろうか。(了)

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion10094:200909〕