ハンガリーが10億ユーロのEU補助金を失う

―オルバン東方政策の代価とFidesz政治家のやり放題

1月初めになって、ハンガリーは支払い停止措置を受けていたEU補助金10億ユーロを失うことが最終的に決まった。EUが定める基本的人権と法治性の条件について、改善が見られないことに伴う最終的決定である。

その理由として、以下の4点があげられている。①司法の独立性が保証されていない②性的マイノリティの機会均等を脅かす法律が維持されている③大学管理のモデルチェンジが学問の自由を侵している④難民保護の手続きが十分に整備されていない。

これによって、ハンガリー政府は4000億Ft(フォリント1Ft=約0.41円)の財源を失うことになった。明らかに、オルバン首相が展開する東方独自外交と国内支配体制が、EUからノーを突き付けられた。このため、補助金を当てにして予定していた学校教員の給与引上げや病院の赤字解消が難しくなった。ハンガリーはスポーツ施設を次々と建設し、欧州選手権や世界選手権を招致しているが、病院や学校の政治拡充が放置されている。

たとえば、ブダケスィ音楽学校 (常勤・非常勤40名)の冬のボーナスの支給枠は400万Ftだった。単純に計算して、一人当たり平均10万Ft(4万円)である。ハンガリーの地区総合病院(たとえば、ヤーノシュ病院)には、CTスキャンが1台しかなく、MRIなど保有していない。ヤーノシュ病院は広大な土地に、全診療科がある総合病院である。そこに旧式のCTが1台しかないのである。信じられないほど、医療設備が不足している。

ヤーノシュ病院だけでなく、ほとんどの総合病院は財政 赤字に苦しんでおり、とても設備の更新にまで手が出せない。にもかかわらず、学校と病院への財源投入は優先順位が低く、常に後回しにされてきた。政府は国民の批判をかわすために、EU 補助金が入れば、財源投入ができると説明してきたが、その実現は遠のいてしまった。

無駄遣いする閣僚、政治家

一般国民の窮状に比べて、政府要人や政治家、政権周辺の実業家は羽振りが良い。国民の生活水準に合わせて質素に、慎ましく振舞うべきだが、ハンガリーの要人たちの豪遊ぶりには開いた口が塞がらない。まるで当然の特権のように振舞っている。まず1月11日に政府批判を展開する「444.hu」(新聞名)は、大統領府からの回答を公にしている。大統領府はパリ五輪期間中のホテル予約のために、2億2800万ft(およそ1億円)を支出したことが明らかになった。ノヴァク大統領時代に予約したが、ノヴァク大統領辞任の後、大統領職を引き継いだシュヨク大統領はそのパリのホテルに3泊しか宿泊しなかった。予約の変更もキャンセルも不可能で、お金は戻ってこないという。

その辞任したノヴァク大統領には3名の事務官と公用車(運転手)付き個人事務所が与えられている。もちろん、すべて公費で賄われている。リノヴェイトされた古い館が事務所になっているが、月の事務所維持経費(人件費込み)は2000~2500万Ft(800-1000 万円)に上ると思われる。とても貧困に苦しむハンガリーの引退政 治家の生活とは思われない。

さらに、ナジ・マルトン経済大臣は2024年1月17-18日にパリを訪問し、1日半だけ滞在したが、この宿泊料金は350万Ft、付き添い1名の宿泊料金が100万Ft、プライベート・ジェット代金 1466万Ftであることが明らかになった。1日半のパリ旅行に2000万Ft(900万円)弱の経費がかかったことになる。

また、「444.hu」によれば、2024年1月18-19日(1日半)のスイス・ダヴォス会議の出席のために、ナジ経済大臣はプライベート・ジェットを使ったが、この費用は1540万Ft、ホテル費用は167万Ftだったというデータが、経済省から得られたという。中東の王族並みの旅行である。とても財源の捻出に苦しむハンガリー政府要人の振舞いとは思われない。

もっとも、オルバン首相自身が、EU 会議出席時に、ポケットマネーとして札束を5万ユーロ程度携帯していることを考えれば、この程度のことで綱紀粛正が問われることもない。オルバン首相のポケットマネーはロシアや中国との取引で得られた ブラックマネーだと考えられるが、政府要人の出張費用は国民の税金で賄われている。そういう意識は皆無である。

ロガーン・アンタルがアメリカの制裁リストに

オルバン首相の片腕として、各種の裏金ねん出のスキームを編み出し、自らも汚れた金で大富豪になったロガーン・アンタル首相官邸統括大臣が、2025 年1月7日付で、アメリカ合衆国財務省 Office of Foreign Assets Control (OFAC)の制裁リストに載 せられたことが明らかになった。

その理由は以下の 5 点である。①国家資産の私物化②個人的利益のための私的財産収用③公共調達での不正④自然資源の私物化⑤収賄。

ロガーンはFidesz(キリスト教民主国民党=政府与党)政治家や党の裏金形成の首謀者であり、Fidesz政府のマスメディ ア統括管理、公安諜報部門の統括責任者である。定住権付の国債(Golden Visa)をロシアと中国で販売し、巨額の裏金を形成しただけでなく、これら両国との裏取引を指揮している人物である。パクシ原発増設にかかわる裏金の形成にも関与しているとみられている。

反政府系のメディアに掴まらないように、公の場には姿を見せず、自宅から迎えの車に乗り込み、フリーな状態でメディアに掴まらないようにしている。裏の仕事に専念しているが、各種の汚れた金を扱い、自らもブダペストの高級住宅地に豪邸を構え、バラトン湖畔の1haの土地に館を構えている。

イスラエルのスパイウェアを駆使して、反政府系の人物の諜報活動を行い、政府系メディアを定期的に集めて報道指針を示すなど、Fidesz権力の維持管理に絶大な力を発揮している人物である。もっとも、トランプ大統領就任に合わせて、オルバン首相はリストからロガーンを外すことを求めると推測されている。しかし、オルバンの私財形成にも貢献している右腕を切り捨てることはしないだろう。裏金形成のすべてを知る男を切り捨てるリスクを犯さない。

ヴァルガ・ユーディットが200万Ftの報酬を取得

マジャル・ピーテル率いるティサ党は、すでに1党だけで、Fideszに匹敵する有権者の支持を受けている。これはティサ党が支持されているというより、腐敗したFidesz政権に勝てる党はティサ党しかないと考える旧左派の支持者たちが、こぞってティサ党を支持しているからである。

このため、Fideszはあらゆる手段を使ってマジャル・ピーテルを貶める攻撃に全力を注いでいる。その一つが前妻のヴァルガ・ユーディット(Fidesz政府の法務大臣を歴任)の懐柔であり、いま一つがマジャル・ピーテルの元ガールフレンド(ヴォゲル・エヴェリン)が密かに録音した私的会話の暴露である。まるで旧体制時代の諜報活動と類似したことが、Fidesz政権によって行われている。マジャル・ピーテルはこれを指揮しているのは、ロガーンだとしている。この二人の女性はFidesz政権に近い実業家の会社(Tigra Zrt)から報酬と住居を与えられていることが判明している。ヴォゲルの月額報酬は500万Ft(200万円)だと報道されている。個人的秘密の暴露の報酬がこれである。

ヴァルガの報酬がどれほどかは明らかにされていないが、今年になって、ヴァル ガが出身大学であるミシュコルツ大学からも月額210万Ft(およそ90万円)の報酬を受け取っていることが暴露された。もちろん、ミシュコルツ大学の常勤研究者ではない。大学付属の研究所の客員研究員の扱いを受け、年数回の講演と執筆を行っているとされている。ただし、大学の公式 HPに彼女の名前は記載されていないが、大学は彼女への報酬支払いを認めている。

資金繰りに苦慮している国立大学が非常勤研究者に200万Ftのお金を払えるわけがない。明らかに、政府が特別枠として大学にお金を支給し、それをヴァルガに渡している。国立大学を使って、機密保持のための報酬を支払っている。民間企業と異なり、完全には秘匿できない情報なので、大学は支給を認めるしかなかった。

このように、Fidesz政府は自らの不都合な情報が漏れないように、機密保持報酬を支払っているが、その目的のために国立大学を恣意的に利用している。ヴァルガ・ ユーディットはTigra Zrt.からの報酬とミシュコルツ大学からの報酬で、月額200万円を下らない所得を手にしている。Fidesz政権が続く限り、今の生活が保障されるが、オルバンに懐柔された履歴を消すことはできないから、Tisza党が政権を握った場合 には恥ずかしい思いをすることになろう。もっとも、そのことを恥じる人格を保持 しているとは思われないが。

ロガーンにしても、ヴァルガにしても、地方の田舎町の出身者である。典型的な 地方出身の成上りである。稼ぐことができれば、手段を選ばない。もっとも、オル バン自身も、地方の成金の息子である。お金ですべてが解決すると考えている。 Fidesz政治家で汚れた金に手を出し、贅沢三昧している連中は、ほとんどが地方出身者である。ナジ経済大臣も田舎町ソルノーク出身である。

フォーブス長者番付:メーサーロシュがトップで、ティボルツは27位

Forbes(2025年1月号ハンガリー版)は恒例の長者番付を発表した。トップはオルバン首相の同郷で、政府の公共事業を一手に引き受け、一介のガス配管工からハ ンガリーの長者番付トップに上りつめたメーサーロシュ(盛田『体制転換の政治経 済社会学』127-135 頁参照)である。彼とその家族の資産総額は5913億Ftで、1年間で実に1500億Ftも増やしたと推定されている。

メーサーロシュはパクシ原発拡張の基礎工事を引き受け、ブダペストーベオグラード間の鉄道建設工事をほぼすべてを引き受けている。ロシアの融資と中国の融資で賄われている事業である。建設事業費の30%は下らない利益を取得し、儲けた金で次々と不動産を買い占めている。裏金を含んだロシアと中国の融資は国民の税で返済されるが、利益はメーサーロシュ一家に流れる仕組みだ。テレビのキャスターと再婚し、整形美容手術を受けて若返りを図り、プライベート・ジェットと豪華ヨットを購入し、我が世の春を謳歌している。

さすがにFidesz政治家の中には、もっと慎ましくやってもらわないと、Fideszの支持者が減ると心配する者もいるが、当人たちは意に介すことはない。公共事業で焼け太ったメーサー ロシュの資産形成のために、国民は将来にわたって税を払わなければならない。不合理極まりない。

オルバン首相の女婿であるティボルツ・イシュトヴァンも、長者番付に初めて顔を出した。27位(資産総額 753億Ft)にランクインした。2024 年の総選挙時には、野党統一候補が勝つかもしれないと考え、スペインのマルベーリャに一家で逃亡した。マルベーリャでホテル経営を学ぶという名目だったが、ELIOS事件(詳細は、盛田『体制転換の政治経済社会学』111-118頁)で訴追される可能性を恐れたものだ。Fidesz政権が続くことが分かって、すぐにブダペストに戻ってきた。オルバン首相がFidesz勝利に異常に歓喜したのにはこのような事情がある。それからもせっせとブダ ペストの一等地の不動産を買い続け、長者番付に顔をだした。

マジャル・ピーテルは総選挙で勝利した場合には、Fidesz政権下の公共事業費の支出が適正に行われたかどうかを調査するとしており、メーサーロシュやティボルツがまず調査対象になる。Fideszがマジャル・ピーテル潰しに躍起になっている理由である。

メーサーロシュの銀行が欧州右派政治家に融資

メーサーロシュが公共事業で得た資金を元手にMKB銀行(現MBH銀行)の株式を入手し、利益をすべて配当に回し、途方もない利益を得ている。それだけにとどまらない、オルバン首相はこの銀行を、あたかも自分の銀行のように扱い、欧州右派の政治家に次々と融資させている。銀行幹部は外部からの指示はないというが、まともな民間銀行が国外の政治家や政党に融資するはずがない。

オルバン首相は民間商業銀行であるMBH銀行を国策銀行のように扱っている。フランス大統領選挙のために、マリア・ルペンに1060万ユーロを融資したことは、すでにこの通信でも伝えた。これがMBH銀行による最初の国外の政治家(政党)への融資である。オルバン首相がメーサーロシュを通じて、融資を指示したと考えるべきだろう。異常な融資だ。

オルバン首相はEU内で自らの地位を確保するために、右派政治家の結集を図っている。ところが、欧州右派政党の中で政権を維持しているのはハンガリーのFideszだけなので、ハンガリーが活動資金を工面する必要がある。EU内で1人当たりGDPが最下位になったハンガリーが、オルバン首相の政治趣向に沿って、太っ腹な融資を行っているが、公私混同も甚だしい。

昨年の欧州議会選挙後に、Fideszは欧州議会会派(Patriots for Europe)を立ち上げた。しかし、資金を出せるのはハンガリーの党だけなので、オルバン首相はMBHにたいして、会派の事務所建物の購入費用(多分、会派の運営資金も)を融資させた。スペインの右派政党Voxにたいして、2023年の選挙時に、MBHは920万ユーロを融資した。Voxはスペインの銀行から融資を受けられないので、オルバンがMBHに融資を指示した。貧しいハンガリーが行うべきことではない。疑惑のある融資を調査したり、規制したりする制度や管轄機関がない(あっても骨抜き機関)という状況は、とてもEU国とは言えない。国立銀行も財務省も、トップがオルバン首相に逆らえるはずもないので、やり放題になっている。

さらに、HVG(2024年9月12日)によれば、政府は中国から取得し10億ユーロの融資枠から5億ドルを引き出して、北マケドニアの政党(ハンガリーに亡命しているグルエフスキ元首相が率いる政党。本人は本国で訴追されている)に融資した。明らかに、中国からの直接融資ではなく、ハンガリーからの融資だと見せかける操作である。こうやって、オルバン首相は自らの勢力拡大のために、ハンガリーが取得した融資金(国民の税金で返済されるもの)や商業銀行の融資を、自らの資金のように扱っている。やり放題、好き放題とはこのことである。

メディアを支配し、要所に金をばら撒いて権力を維持するオルバン政権の無法支配が終わる日は来るのか。心ある人々がTisza党に期待を寄せる理由である。

初出:「リベラル21」2025.01.18より許可を得て転載
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