パナマ文書から見えてくる新自由主義の闇 

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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かと 2016.4.16   熊本大震災の被災者の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。稼働中の川内原発、本当に「異常なし」でしょうか。16 日未明におきた「本震」の規模、午前10時現在の報道では、気象庁HPはマグニチュード7.1、日本のテレビ・新聞報道は7.3、米国CNNは7.0コンマ2違うとエネルギーは2倍といいますが、いったいどれを信じたらいいのでしょうか。


かと 2016.4.15  4月の新学期に入って、情報戦の超弩級爆弾が飛んできました。世界のジャーナリストが解析中の、パナマ文書です。日本の新聞報道・ウェブ情報も多数ありますが、まずは、Google に panama papers と入れるとすぐ出てくる、ICIJ (TheThe International Consortium of Investigative Journalists, 国際調査報道ジャーナリスト連合)の“THE PANAMA PAPERS” サイトに直行しましょう。モサック・フォンセカ社Mossack Fonsecaへのパナマ警察捜索など最新のニュースを眺めて、中央の ”The Panama Papers: An Introduction” を見てみましょう。”VICTIMS OF OFFSHORE“と題する、動画です。この調査報道の目的が、たんなる政治家・大企業・著名人の課税のがれにとどまらず、一握りの財産亡者の脱税・マネーローンダリングの陰でおこなわれる、戦争・兵器・麻薬ビジネス、人身売買、児童労働、売買春、飢餓と貧困と格差を浮き彫りにするものだと出てきます。各国語版字幕入りが早くもyou tube に出ましたから、英語の苦手の人も、そちらからどうぞ。そして、”reporting partners” としてトップに出ているのは、パナマ文書を最初に入手してICIJの世界のジャーナリストに提供した南ドイツ新聞に加えて、イギリスの高級紙ザ・ガーディアンと公共放送BBC。報道の信頼性を担保します。80カ国以上、100社以上の約400人のジャーナリストが解析に加わっています。その下の”The Power Players”の頁をクリックすると、Panama Papers に登場する世界の著名人たちが、イラスト入りで数十人。 各国の首脳にアラブの王様、その家族・親族・友人らが出てきます。すでにアイスランドの首相が辞任に追い込まれ、イギリス首相もピンチ、大国ロシアと中国のトップは火消しに大わらわ。底知れぬ闇の世界の一端が明るみに出ています。トップページの1番下に ”LEAK TO US: ICIJ encourages whistleblowers to securely submit content that might be of public concern”. つまり、内部告発歓迎の通報窓口がついています。

かと パナマ文書は、早くもウィキペディアにも立項されましたが、モサック・フォンセカ法律事務所が1970年代から2016年初までに作成した、合計2.6TBの1150万件の機密文書で、21万4488社のオフショア法人に関する情報が含まれているといいます。Wikipediaでは、日本語版ばかりでなく、すでに数十の言語で立項されましたから、英語版中文版ほか、いろいろな言語での反応をみることができます。すると、日本とアメリカの反応が、世界的にみれば鈍いことが見えてきます。アメリカは、大統領選の真っ最中で、トランプやクリントンの関係者がまだ出てこないということでしょう。ただし、CIAの諜報活動・陰謀工作の資金洗浄・出所隠しに、タックスヘイブンが使われていたようです。いや、今回のヒーロー ICIJ 自体が、CIAや米国政府機関、ソロスの「オープン・ソサエティ財団」などと間接的に関わっているという報道もあります。 日本については、400の個人・企業が関わっているといいますが、セコムとか兵庫県の医師とか、まだ断片的な報道です。大物政治家はいないといいますが、まだわかりません。なにしろパナマ文書そのものが膨大で、解読の最中ですから。一部の報道では、日本の大企業・銀行、というより多国籍企業は軒並み名が出ているといいます。何よりも、この間日本の小泉・安倍政治、自民党劇場政治を演出してきたグローバル広告代理店・電通が入っているようですから、大企業の広告・スポンサーがらみで、テレビ・大新聞は慎重にならざるをえないでしょう。かのBBCとは大違いの、籾井NHKは、もちろんのことです。

かと この問題も、週刊文春・週刊新潮に期待するしかない、悲しき日本のジャーナリズムになるのでしょうか。共同通信・朝日新聞などICIJの解読に加わっている記者もいるようですから、日本の調査報道の試金石として、注目しましょう。日本のパナマ文書報道は、プーチン・習近平のスキャンダル、北朝鮮の核ビジネスにシフトしていますが、資料の出ている時期は、1970年代からバブル経済、日本企業の多国籍化と生産拠点流出・空洞化、何よりもグローバルな新自由主義勃興、金融工学とIT技術に依拠した金融資本支配=カジノ資本主義の台頭、冷戦崩壊、ソ連・東欧社会主義崩壊・自由化、湾岸戦争・9/11・アフガンイラク戦争、1987年のブラック・マンデーから1997年アジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックなどに及んでいますから、周期的な金融危機下での資本の歴史的動きを見るにも、格好の材料が含まれているでしょう。原発関連企業や、武器密売の痕跡もありえます。政治学者ばかりでなく、経済学者・財政学者の出番です。メッシ選手、FIFAの元事務局長他サッカー・ビジネスも文書にあり、欧州チャンピオンズリーグ本部にはスイスの捜査当局が入りました。スポーツ社会学や文化経済学にも、貴重な素材になるでしょう。この間、文部科学省は、日本の社会科学・人文科学が役に立たないといわんばかりのバッシングを繰り返してきました。ジャーナリストはもちろんですが、日本の社会科学者・人文科学研究者も、タックス・ペイヤーと社会的弱者の視点から問題を解明し、言葉の正しい意味での社会貢献、社会的有用性を、国民に示そうではありませんか。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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