パロディ:タケシ風「都知事選感想」

著者: 盛田常夫 もりたつねお : 在ブダペスト、経済学者
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 それにしてもオイラには分からないね。今回の都知事選だよ。何が争われたのか、さっぱり分かんないよ。要するに、人気投票だね。誰がなっても、東京都の巨大な官僚組織に1人で立ち向かうことなんかできないんでね。石原さんだって威勢の良いことを言ってたけど、週に2~3日程度の登庁で済ませられる要職なんて、パフォーマンスを見せるだけの仕事だな。その程度なら、オイラにだってできるね。
 鳥越さんは細川さんの惨敗から何も学んでいなかったね。いくらお飾りの仕事でも、無手勝流で、高齢で病み上がりだから、ふつうの人は「これで大丈夫か。とても任せられないな」と思うよ。線が細すぎるね。組織を動かした経験のない小池さんに期待できるわけでもないけど、あっちこっちと陽の当たるところを渡り歩いてきた度胸を買う人は多いさ。こんな元気なおばさんなら、少しは期待できるかなってね。

 それにしても、日本のマスメディアは低級だね。10年以上も前に、鳥越さんが女子大生を誘ったのが「淫行」だなんて。未成年の中学生や高校生を買春したわけでも女子大生を強姦したわけでもないのに、それがなんで「淫行」なのかね。そんな基準で見られたら、オイラなんか何度淫行したか分からないね。寄って集(たか)って「淫行の説明責任」を求めるなんて、どうかしてるよ、この国のマスコミは。少しは聖書でも読んだらどうかね。それほど「不倫」を断罪したければ、まず「罪なき者、石もて打つべし」だよ。アジアのどこかの国で、不貞行為の女性を親族が石を投げて処刑するってニュースを読んだけど、日本のマスコミがやっていることはこれと大差ないね。大人の恋に空騒ぎする日本は先進社会じゃないよ。
 もっとも、欧米と違って、日本の女子大生っても、まだ子供だからな。大人だと思って声をかけると痛い目にあうってことだね。ところがさ、子供のくせに、したたかな所もあるんだよな。何を思って、「有名人の男性に迫られました」と週刊誌の編集部に相談に行くんだろうね。オイラはそういう行動を取る女性の心理に関心があるね。親に相談せずに週刊誌の編集部に行くあたりは、子供ながらしたたかだよ。オイラの知人のなかに、不用意に女子大生に声をかけ、何にもなかったのに、女子大生の親父から「責任をとれ」なんてFAXをもらった奴もいるけどね。いい年をして、つまらぬことを親に相談する女性にもがっかりするが、まぁ、女性を見る目がなかったということだけは確かだけどね。
 だから、鳥越さんも、「別荘まで付いてくるから、恋だと勘違いした私の目が節穴でした。女房にひどく叱られました」とでも言い放って済ませれば良かったんだけどね。「橋下流」のかわし方がこれだよ。もっとも、マスコミは橋下さんに開き直られるとシュンとするけど、線の細い鳥越さんには容赦しないかもね。岸惠子との恋も「淫行」の延長上で報道するマスコミだから、どうしようもないね。

 マスコミだけじゃなくて、左の対応も大人げないよ。「鳥越氏は女性の人権をどう考えているのか」、その説明責任があるなんて大上段に構えている人もいるけど、オイラに言わせれば、大人の恋に人権を振りかざすのはどうかと思うね。結婚していようがいまいが、恋することは個人の自由さ。戦前には不貞行為を罰する法律はあったようだけど、それは個人の自立や自由が制限されている後進的社会の話だよ。個人で責任が取れるなら恋愛は自由さ。色恋沙汰は脅迫や暴力に発展しない限り刑事事件じゃなくて民事の話だよ。当事者で片を付ければ良いだけの話なんでさ、それを犯罪のように外野が大騒ぎするなんて、とても先進国じゃないね。右も左も、「女性の人権」を振りかざして「説明責任」を求める論調なんて戦前社会の名残だね。
 そうやって建前だけ大げさに振る舞っておいてさ、訳の分からない風俗産業が繁栄している日本を変だと思わない方が、どうかしてるよ。橋下さんが、自由恋愛は駄目だけど、風俗で楽しむ分には構わないと考えるのは勝手だけどさ、それは奥さんの尻に敷かれてるからそう言ってるだけの話でさ、コスプレで楽しむのに説明責任は要らなくて、女子大生を誘ったことに説明責任があるなんて、説得力はないね。橋下さんは「罪なき者」だと自負できるかね。オイラに言わせりゃ、その資格はないね。
 鳥越さんを恨んで、ぐだぐた言っている東(そのまんまひがし)の野郎にいたってはさ、「罪多き者、石もて打つ資格なし」だよ。

 それにしても、今の左は能がないね。ステレオタイプだな。直球だけしか投げられない投手だね。昔はそれでも良かったさ。戦前の沢村の時代か、戦後の堀内や江夏の時代まではね。剛速球があれば、変化球はカーブだけでも勝負できる時代もあったからね。だがね、この程度の球種で勝負できる時代はもうとっくに終わってるよ。それが分からないんだな、今の左は。
 今の球界じゃ、直球に威力があってさ、それに加えて何種類もの変化球が投げられなければ活躍できないね。政治も同じだよ。時代の流れや空気が読めなくて、何時でもどこでも「憲法を守る」の一本槍じゃ、勝負できないさ。民主主義の危機だけ叫んでいると、「オオカミ少年」だと思われて、飽きられるのが関の山さ。要するに、勉強不足なんだよ。だから、新しい時代を読む構想力や想像力が欠けるんでね、直球すらストライクゾーンを外れるってわけさ。有権者の側に問題がないとは言わないけどさ、政党や知識人の時代認識と勉強不足に原因があると考えないとね。もっと深く社会の変動と国民の本音に迫って、そこから政策を積み上げないと、勝負にならないね。
 それにしても、息苦しいね、日本は。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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