[パンデミックの政治3]  いよいよパンデミック、文明史的検証に[パンデミックの政治3]  いよいよパンデミック、文明史的検証に

2020.3.15 かと  3月の予定が次々にキャンセルされ、今日はもともと3/11から9年目の福島にいる予定でしたが、高齢者ゆえの自宅蟄居になったので、予定外の臨時更新。3.1ビキニデー、3.8 国際女性デー、3.10東京大空襲、それに3.11震災・原発関係のイベントも、軒並み中止ないし縮小です。いうまでもなく、世界保健機構(WHO)の「パンデミック宣言」を受けてのものです。コロナウィルスCOVID-19は、世界120ヵ国以上、14万人にまで感染が広がりました。ライバル中国での感染がピークを越え、「対岸の火事」と見ていたアメリカで市中感染が増え、秋の大統領選向けにトランプ大統領が突然欧州からの入国禁止を言い出したところで、WHOの「パンデミック=世界的大流行」です。WHOのエチオピア元外相テドロス事務局長の「管理されたパンデミック」発言から、中国への配慮で宣言が遅れたという見方もありますが、私は2009年新型インフルエンザの経験から見て、欧州とアメリカでの広がりが決定的であったろうと思います。実際は、「パンデミック」を管理できたのではなく、米中両大国での広がりと動きを見て、「宣言」のタイミングが管理されたのです。

かと パンデミックは、世界経済を直撃しています。リーマンショック以来、いや1929年に匹敵する世界恐慌を招くという見方さえ出ています。アメリカでは1987年のブラックマンデー以来の株価暴落ですが、私はその時米国滞在中でした。日本はちょうどバブル景気の真っ最中で、一度は世界と同じく大幅株安を経験しましたが、すぐに戻して米国の企業や不動産・国債を買いあさり、危機脱出の牽引国ともてはやされました。それがバブル崩壊の始まりでもあったのですが。今回は、アメリカ・ウォール街の危機を救う「白馬の騎士」は、見当たりません。リーマンショックは、中国経済の成長があって何とか収まりましたが、その中国が、今回は危機の発火点でした。サウジアラビア、ロシアも関わる原油価格暴落が伴って、アメリカのシェールオイル産業が倒産の危機です。金融政策の効果はすでに限界にきており、製造業の回復には時間がかかります。ましてやアベノミクスで失敗し、消費税で景気が冷え込んだ日本は、ひとたまりもありません。非正規雇用を3分の1にして格差を拡大し、教育や医療、基礎科学への投資を削り続けたツケが、まわってきたようです。

かと そこで、各国の権力者は、何とか自国民だけは感染から隔離するという出入国管理ばかりでなく、自国経済を守るための貿易・ 金融・財政政策を優先し、強行します。そのために、時の権力者は、緊急事態を理由に自由と人権を制限し、情報を統制しようとします。前回まで、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)流行の経験に即して、①WHOのパンデミック宣言には、国際政治のバイアスが入ること、②各国の医療保健システムと 初動体制が、感染と犠牲者の規模・広がりにとって決定的であること、③国際的にも国内でも、人種差別や経済格差が作用し、貧困国、社会的弱者・底辺層に犠牲が強いられることを、いわば「パンデミックの政治学」の公理として仮説的に析出し、今回のコロナウィルスでも、その通りになりました。本格的パンデミックはこれからですが、これまでの世界の動きからしても、④パンデミックに際して各国は自国中心のナショナリズムを強め、閉鎖的・排外主義的政策が採られる傾向がある、⑤時の権力者は緊急事態として、権力を集中し情報統制に走りがちである、を仮説として追加できそうです。 ただしこれらは、戦争や大災害のような危機でも同じで、パンデミックが人類史的な文明の危機、民主主義の危機の重要な一つであることを示します。石弘之『感染症の世界史』(角川文庫)や、本サイトで1月にお勧めしたマルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン『未来への大分岐ーー資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(集英社新書)のスケールで、考えるべき問題です。

かと 3.11フクシマから9年目の今年に「復興オリンピック」を設定したのは、もともと「フクシマはアンダーコントロール」という安倍晋三の世界的フェイク演説を経てでした。汚染水処理も、廃炉プロセスも、何より郷里を奪われた人々の帰還が、いっこうに進んでいません。「安倍ウィルス」の情報隠蔽・操作・フェイク発信は、以後も増殖してきましたが、感染症対策を遅れせてまで開催しようとした東京オリンピックに、赤信号が灯りました。今度は世界的大流行で、世界中からアスリートを受け入れるのですから、日本だけコントロールできても、どうにもなりません。IOCは WHOに従うとのことですが、パンデミック収束宣言が夏までに出る可能性は、まずありません。214ヵ国に広がった2009年の新型インフルでは、1年以上かかりました。日本がオリンピックのために初動検査をサボタージュし、いまなお1日6000人分のPCR検査能力しかなく、しかも実際の検査は1000人程度で、感染の実態を把捉し得ていないというのは、いまや世界の常識です。トランプ大統領は、武器を買ってくれる安倍首相へのリップサービスはありましたが、実際の感染対策は、早期の幅広い検査、ドライブスルーまで含む素早い韓国方式です。ただし、検査も受けられない無保険者が社会の下層に沈殿して、隙だらけですが。日本では、医療用マスクばかりでなく、防御服も消毒液も準備できなかった厚生省=感染研「専門家会議」の右往左往、官邸主導の医療保健戦略のお粗末が、次々に明らかになっています。 1940年の「幻の東京オリンピック」については、昨年の講演記録の一つが活字になりましたので、アップロードしておきます。1940年の東京オリンピックは、「紀元2600年建国祭」を盛り上げるための行事の一つ、日中戦争泥沼化により「返上」を余儀なくされました。一緒に計画された東京万博は「延期」でした。2020年は、オリンピック憲章により開会宣言をするはずの「国家元首」新天皇と共に、どうなるのでしょうか。後生の人類のために、これらの記録は、厳密に残され、公開されるべきです。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html

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