ファッショ化する日本で、どんな獣医学が出てくるのか?

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2017.11.15   安倍ファッショ内閣の奢りは、メディア支配から学術支配へと、広がり、深まっています。総選挙における自民党大勝、安倍晋三内閣の継続、野党の分解・新体制づくりのもとで、ようやく開かれた国会は、奢る与党が質問時間の配分は民意による議席構成を反映していないと難癖をつけ、ようやく与党1・野党2の暫定合意です。その合意が出来る前に、総選挙前から国会論議の最大争点であった加計学園獣医学部の来年度開設を、文科相は大学設置審答申を受け、正式に認可しました。首相とゴルフ友達の加計学園理事長との関係も、国家戦略特区の四条件との適合性、今治市の土地無償譲渡と建設費半額負担、「総理の意向」や「官邸の最高レベル」が飛び交った内閣府と文科省の政府内交渉過程、何も国民に説明されず、解決していません。そのうえ、定員140人の内20人を韓国人留学生枠とし、国内(特に四国)の獣医師不足をうたって発足したのに、真偽は不明ですが正式認可前に募集要項を配った疑いも。この問題は、21世紀になって進む大学の研究教育への政府の介入、日本の科学技術の国家主義的再編の一環です。分散した野党の調査と追及の力が、試されます。
 大学設置審でも最後まで疑念出されたようですが、獣医学部の新設は、52年ぶりです。獣医学は、医学の一部でしょうか? 医学は、古代ギリシャ以来の伝統があり、それが「敵味方の区別なく戦傷者を救護する」赤十字の人道活動につながります。「 病人を治療し,病気を予防し,健康を増進することを研究する学問」として発展してきた医学が、第一次世界大戦時のドイツの毒ガス化学兵器をもたらしたことから、1925年のジュネーヴ議定書は、戦争における化学(C)兵器・生物(B)兵器の使用を禁止しました。ところが開発、生産、保有が制限されていなかったので、ナチス・ドイツのホロコースト、軍国日本の関東軍防疫給水部731部隊の生体実験・細菌戦が実行されました。 ジェネーブ議定書に署名した日本が批准したのは第二次世界大戦後の1970年、アメリカの批准はベトナム戦争が終わる1975年でした。 その後1972年署名・75年発効の生物兵器禁止条約、1993年署名・97年発効の化学兵器禁止条約で、BC兵器の包括的禁止・検証が国際法化され、今夏国連での核兵器禁止条約採択で、ようやくABC兵器全体の国際法違反が明確になりました。ただし核兵器(A)禁止条約には、核保有国ばかりか、かの「唯一の戦争被爆国日本政府も反対しているため、12月10日にICANのノーベル平和賞受賞式が決まったにもかかわれず、批准への見通しは不透明です。このように、医学・化学・物理学などは、人類社会の発展のために生まれ貢献してきたにもかかわらず、20世紀に世界大戦での大量破壊兵器開発の推進力になることによって、戦争との結びつきが警戒され、人道的倫理・社会的責任が強く求められる科学になりました。私の「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」(花伝社、特設頁参照)は、731部隊に即して、その戦後の軌跡を追いかけたものでした。
 獣医学は、家畜やペットへの医学の応用とされていますが、日本における獣医学は、「黎明期においては犬・猫といった小動物に関する学問の発展は副次的なものでしかなく、本来の目的は明治維新以降における食生活の欧米化に対応した家畜の生産性の向上及び軍馬の生産・疾病予防であった」といわれるように、ABC兵器開発のための動物実験を含め、医学の軍事化と産業化のために発達してきたもののようです。それも、軍馬育成中心の陸軍獣医学校・学会が主導してきたものです。事実、歴史的には1936年の関東軍防疫給水部731部隊の公的新設のさい、一緒に関東軍軍獣防疫廠が発足し、石井四郎のハルビン731部隊若松有次郎新京(現長春)100部隊は姉妹部隊で、 ともに細菌戦研究・人体実験をしていました。また、731部隊にも、獣医や理学博士・農学博士が組み込まれていました。GHQ・米国・ソ連もそれを察して、ソ連のハバロフスク裁判では高橋隆篤・関東軍獣医部長らが戦犯とされましたが、日本ではGHQの戦犯追及、人体実験データ提供とバーターでの米軍免責が731部隊中心に進んだため、細菌戦獣医学者は、相対的にスムーズに戦後に生き残り若松有次郎が日本医学工場長になり、獣医学会やミドリ十字に伝統が残されたといいます。 だからこそ、加計学園が施設内にウィルス・細菌実験施設を作ろうとして、その安全性のみならず、生物化学兵器開発施設ではないかと疑われたのです。こうした問題まで国会で追及できるかは、安倍内閣全体のファッショ的性格、「戦争のできる国」への道を、野党がどれだけ深刻に受け止めるかにかかっています。
 前回更新で、トランプ来日に狂騒する日本のメディアを批判し、焦点は北京での米中会談だと述べておきましたが、 世界の評価も、その通りだったようです。横田基地からの入国も、ゴルフ中の首相の醜態も、豪華な肉料理でのおもてなしもエピソードに過ぎず、トランプ最大の成果は日本への米国兵器売り込みでした。中国では桁違いの大型商談で、米国国内向けには貿易不均衡是正の圧倒的アピールです。安倍政権が総選挙の目玉に使い、最大のテーマにしようとした北朝鮮への「対話でなく圧力」は、米軍に従属した忠犬日本の好戦的姿勢を世界に示しただけでした。その間に、米国サンフランシスコ市は、中国系米国人が求めた慰安婦像受け入れを決定、国連人権委員会は対日人権調査を始動。女性の人権が一つの焦点なのに、大手マスコミは性暴力被害者の声を無視、新資料で裁判に臨んでも高裁は砂川事件再審棄却。どうやら、日本社会全体が萎縮し、ナショナリズムに毒され、安倍型ファシズムに飲み込まれそうです。特に、若い世代の歴史認識と、政治選好が気になります。ちょうどロシア革命100年「1968」50年、いろいろな議論が出ていますが、私自身の論考も、徐々に発表しますので、次回以降に。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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