プーチンとオルバン政権の醜い関係

EUの対ロシア第6次制裁(2022 年6月)で、ハンガリーがロシア正教会キリル総司教の制裁リスト 掲載に反対したことは、すでに本通信でも触れた(https://www.morita-from-hungary.com/j-07/07-01/2022/220604_024.pdf)。この背景に何があったのかが、次第に明らかになってきた。

ロシア正教会はブダペストに派遣されたヒラリオン府主教の助手だった通称ゲオルギ・スズキ(Georgij Suzuki)が、チェコのメディアに掲載されたインタヴュー(https://denikn.cz/1883446/uzival-si-luxus-na-jachtach-oligarchu-lobboval-u-orbana-svedectvi-o-sefovi-ruskeho-pravoslavi-v-cesku)で、ヒラリオン府主教の蓄財や性的虐待について語っている。ゲオルグ・スズキは日本人で、18歳の時にヒラリオンとの文通を通して助手となり、ハンガリーで生活を共にしてきた(2022-2024年)。ところが、ベッドを共にすることなどを強要する性的虐待が続いたために、日本へ戻ったとされている(https://eng.obozrevatel.com/section-news/news-metropolitan-of-russian-orthodox-church-who-was-called-kirills-successor-accused-of-harassing-18-year-old-male-assistant-all-details-07-07-2024.html#goog_rewarded)。その彼が助手時代のヒラリオンとの生活をチェコのメディアに語ったことが、ハンガリーで話題になっている。

ロシアのウクライナ侵攻が始まる1年前、ヒラリオン府主教はプーチンから勲章を授与された(denikn.cz)

ロシアのオルガルヒから定期的に賄賂を授受
ブダペストに派遣されたヒラリオンはEU制裁リストに載ったオリガルキにたいして、ハンガリー国籍を取得できるようにハンガリー政府との仲介役を務めた。その見返りに、オリガルキから巨額の報酬を受け取った。スズキはヒラリオンと常に行動を共にしており、ロシアのオリガルキからの報酬はドバイ、サウジアラビア、イスラエルで現金で渡されたと証言している。ただ、その受け渡しの現場にだけはスズキを同席させなかったという。さすがに現金の授受を第三者に見られたくなかったようだ。ヒラリオンはこうして獲得した巨額の富で各地に別荘を保有し、最高級ワインのコレクションを収集していた。スズキはヒラリオンがハンガリー北部(ヴァチュカ)に購入した邸宅(不動産価格200 万ユーロ超)に住まわされ、寝室を共にすることを強いられたため、日本へ逃げ帰った。

ヒラリオンの降格
昨年6月、ロシア正教会はスズキの訴えにもとづきヒラリオン府主教の尋問を実施し、蓄財不正があったとして、府主教の肩書をはく奪した。そして、昨年暮、ロシア正教会はヒラリオン府主教をチェコのカルロヴィ・ヴァリの聖ペトロ・パウロ正教会への転勤を命じた。スズキのインタヴューによると、ヒラリオンは現在もなおハンガリーに住んでおり、ミサの時だけカルロヴィ・ヴァリを訪れているという。ヒラリオン府主教はハンガリー着任から3か月もしないうちにハンガリー国籍とパスポートを取得しており、ハンガリーを安全で裕福に暮らせると感じているのだろう。明らかに国籍取得はオルバン首相の指示によるだが、府主教への国籍付与ついて政府は説明を避けている。

宗教者を自認する生臭坊主:シェンミエン副首相とヒラリオン府主教(2022年9月18日)

ヒラリオン府主教が収集していたワインコレクションの一部は、ハンガリーの政治家との会見用のお土産として使用された。スズキによれば、府主教は定期的にハンガリーの政治家と会っていたという。オルバン首相とはもちろん、シェミエン・ジョルト副首相とは頻繁に会見し、キリル総司教を制裁リストから外すようにハンガリー政府に依頼していた。

ヒラリオンと懇談するオルバン首相(2019年9月)

ヒラリオン府主教はロシアの諜報機関である FSB とも関係が深く、モスクワのFSB本部の射撃場で射撃訓練をする府主教のビデオが Facebook にアップロードされている(https://www.facebook.com/watch/?v=1540231970551901)。実際、スズキが府主教の許から離れたいと話した時に、府主教は FSB との関係を持ち出して脅迫したという。府主教のもう一人の助手だった Vyacheslav Li は FSB の諜報部員で、ハンガリー警察にスパイ容疑に拘束された経緯がある。この時、府主教はシェンミエン・ジョルトにかけあい、Li が釈放されたことを話したという。

FSB 本部で射撃訓練をする府主教

このように、ヒラリオン府主教は生臭坊主で、プーチン政権のフィクサー役を果たしてきた。そして、オルバン政権はプーチンのみならず、ロシア正教会やロシアのオルガルキとも密接な関係を保持し、自らの権力維持に利用している。

その契機になったのは、2013年にプーチンと個人的に合意したパクシ原発の拡張工事であり、同年に始めた「滞在許可(Golden visa)付き国債発行」(拙著『体制転換の政治経済社会学』日本評論社、121-126 頁に詳述)である。前者で巨額の富を得て、後者ではロシアや中国の影の権力者やマフィアと繋がりを結んだことが、オルバンの対ロシア姿勢を 180度転換させた。以後、オルバン政権はプーチンとの個人的関係を深め、中国とも積極的に外交関係を結び、反 EU・東方外交政策を展開している。

オルバン政権の闇は深い。(ブタペスト通信2025年11月7日から)

「リベラル21」2025.11.13より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net
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