先日のロシアにおけるロシア・ハンガリー首脳会談でのテーブルの距離、記者会見における両首脳の距離は、ロシア側のハンガリーに対する冷遇をこれ見よがしに演出したものであった、とハンガリーでは受け取られている。
ロシアを全面的に支持する国の首脳には、通常、距離が近いソファーでの会談を用意し、記者会見でも距離を縮め、会見の終わりには客人に歩み寄り、握手して客人の背中を押して退場させる。下の写真はオルバン首相の過去の訪問時のものである。
オルバン首相も、これまではこのような扱いを受けてきた。ところが、この2月初めの訪問では、テーブルも立ち居も、距離が置かれた。これは決してコロナ感染の予防策ではない。なぜなら、翌々日のアルゼンチン大統領との会談や記者会見では、まったく異なる対応が示されたからである。アメリカとIMFに見切りを付けて、ロシアを頼ってきたアルゼンチンには、全面的な支援を示すという態度を見せたのである。
とくにハンガリーで話題になっているのが、プーチン大統領が延々とNATOの東方拡大の不当性を訴えた後に、オルバン首相に発言の機会を与えることなく記者会見を終え、オルバン首相と握手することも、背中を押して退場を促すこともなく、さっさとオルバン首相一人を会場に残して、会場を後にしたことである。オルバン首相は主のいない舞台を一人で去ることになった。
ハンガリーでは今回のプーチン大統領のオルバン首相への対応を、大国ロシアがハンガリーとハンガリー人を見下している証左だと見ている人が多い。「ヴィクトル、勘違いするな。俺とお前は同等の立場にはないのだぞ。主従の関係を忘れるな」と。
プーチンがそのような大国意識で小国ハンガリーを扱っていることは事実だろう。とくに、今回のように、ロシア側の好意を得ようとする行脚であれば、なおさらのことである。しかし、ロシアの大国意識だけが今回の冷遇の原因だとは思われない。
ハンガリーが懇願の行脚に来るなら、プーチンとしてはその見返りを要求する。「それほど要求するなら、ロシアの政策を全面的に支持しろ」と考えるのは自然である。しかし、いかにオルバン首相とて、今次のウクライナ危機で、ロシア側の立場を全面的に支持することはできない。EUおよびNATOの加盟国として守るべき一線がある。ウクライナのハンガリー人少数民族を保護するためにも、隣国ウクライナとの友好関係の維持を蔑ろにできない。だから、オルバン首相は「平和的解決を望む」だけで、具体的な提案をすることができなかった。プーチンはこの中途半端で煮え切らない姿勢が不満だったのだろう。「それなら、お前は黙っておけ。俺が全部喋るから」ということだ。
こう考えれば、今回の冷たい仕打ちを理解することができる。プーチンとしては、EU加盟国でロシアを頼ってくるハンガリーを無碍(むげ)に扱うことはできないが、かといって、今次のロシアの最大の懸案にたいして、明確な支持態度を表明できないハンガリーに良い顔はできない。だから、「お前の要求は分かった。前向きに考えておく」とだけ答え、後はハンガリーが懇願してきた事実を利用したということだ。
もともと、緊急性の低い課題で、何も軍事的緊張が高まっているこの時点で、協議しなければならないものではない。政治的判断が必要なものもあるが、ほとんどは実務協議で済ますことができるものであった。だから、何ものこのことロシアに出かける必要はなかった。4月の総選挙を控え、オルバン首相の国際政治舞台での役柄を有権者に見せて、現政権の外交的重要性を示そうとしたのだろう。しかし、今回のロシア訪問では、オルバン首相が失った物の方が、得た物より大きいと言えよう。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion11759:220216〕