オーブダ矯正少年院の売春・買春事件は、Fidesz政権にとって頭の痛い問題になっている。昨年、ビチケ児童養護施設の性的虐待事件被告の恩赦を巡って、政府の不手際があったにもかかわらず、再び同様の事件が明らかになり、政府の監査や対策が進んでいないことが明らかになった。さらに、今回の事件に閣僚あるいは政府高官が絡んでいる疑惑が浮上し、政府首脳やFidesz幹部はハンガリー版「ミニ・エプスタイン事件」の対処に苦慮している。著名な政治評論家トゥリュック・ガーボル(Török Gábor)は、「昨年のビチケ事件でFidesz政府は傷口に絆創膏を張ったのだが、絆創膏がずれて、さらに血が流れだしている状況だ。Fideszはこの問題の釈明にかなりの時間を浪費することになろう」と分析している。
Fidesz国会議員団長コチシュ・マーティは、Fideszが創設したネットチャネルFighting Clubで、与党Fideszサイドの見解や姿勢を明らかにしている。
その一つが、オーブダ事件は単なる売春案件であって、ペドフィル案件ではない(ペドフィル犯罪者には最大の刑罰が罰せられるが、ハンガリーでは売買春それ自体は犯罪にならな)。オーブダの施設には、罪を犯した12歳から18歳の少年のみが収容されており女子はいない、施設は厳重な管理の下に置かれており、外部から簡単に侵入できない構造になっていることを強調している(したがって、政府の管理に瑕疵があったわけではない)。
しかし、それにもかかわらず収容されていた少年だけでなく、少女の売春がどのようにして実行されたのかは解明されないままである。具体的な犯罪行為の詳細が明らかになっていないにもかかわらず、国会の議論から2日で準備された「政治家の関与は認められなかった」という法務大臣の報告は噴飯ものと嘲笑されている。オルバン首相からの指示で、慌てて3ページの報告を作成したと揶揄されている。
二つは、たんなる売春事件であるにもかかわらず、野党や反政府メディアは理不尽な政府攻撃を行っている。内閣を構成する大臣に根拠のない嫌疑をかけて非難するのは、政変を狙う野党の策略である。明らかに、これは仕組まれた陰謀であり、政府は無責任なメディアや政党・政治家に断固とし法的措置を取ることが必要だ。「ジョルト叔父さん」の情報を流した人物は、10年前にMI6と関係があった企業の人物から資金提供を受けており、外国の諜報機関が反政府メディアを操っている。
現在のFideszの反論はこの2点に集約できる。
ただ、非常に奇妙なのは、このチャンネルのインタヴューで、コチシュは野党の攻撃を受けている大臣を複数形で述べたことだ。反政府メディアは、「副首相のほかの大臣とは誰か」と疑問を呈することになった。
この疑問は先週末の政府の対応で解けた。
若い売春婦とFidesz政治家
先週末、政府はYouTubeにアップロードされたある動画(https://www.youtube.com/watch?v=XAkln7dO6bs)を閲覧禁止にした。幸い、私は最初の動画をダウンロードすることができた。すでにダウンロードされた動画はタイトルを変えて現在もネットで公開されている(写真を一部削除したもの)。この動画は、ナンスィーと呼ばれた若い売春婦(当時18歳)が2015年春に、アカーツファ通りのアパートで、残忍な方法(灰皿で殴られ、首を絞められ、包丁で刺された)で殺害された事件にかかわっている。彼女を殺害した中国人は翌日に中国へ逃亡した。犯人の氏名はすぐに特定されたが、中国政府が引き渡しを拒否したために、事実上、この事件は闇に葬られた。
殺害された女性の本名はHorváth Nancy。8年生の小学校を卒業し、高校入学と同時に(14歳)でエスコート会社(事実上の売春仲介業者)の仕事でお金を稼ぐようになった。2015年の殺害から3年経った2018年3月に、彼女の父親Horváth ErnestがBlikk紙に娘の生い立ちや売春の仕事を始めた頃の状況を語っている。先週Facebookにアップロードされた父親の音声が、2018年の当時のものか、現在のものかは判断できないが、その動画ではBlikk紙に掲載されなかった売春相手の政治家の名前をあげている。これが閲覧禁止措置になった原因である。
今回アップロードされた動画の中で、父親は娘の顧客であった政治家の名前を告白している。
その一人はロガーン・アンタル(内閣官房統括大臣、国家安全・公安・宣伝担当)、もう一人がラーザール・ヤーノシュ(交通大臣)である。
ロガーンは今年初めに、腐敗による蓄財を理由にアメリカ政府の制裁リストに掲載された政治家である(その後、オルバン首相の要請でリストから外された)。また、ラーザールはFidesz政権下で富を成し贅沢を極めている実業家を「くず」と呼んで注目を浴びたが、自らも地元ホードメズーヴァーシャルヘイ近郊にある「狩猟の館」を居城のように改修し、高速道路からそこに通じる道路を公費で舗装させ、反政府メディアの批判の対象になっている人物である。
ナンスィーの父親によれば、娘の常連客はロガーンで、ラーザールは常連ではなかったようだ。主たる接客の場はコルヴィン広場近くの、リノヴェートされた家具が整えられているマンションの1室だった。ロガーンがナンスィーの客になったのは、2010年の権力奪取から間もない時期で、当時はブダペスト5区の区長を務めていた。ナンスィーがまだ14~15歳の頃である。
ところが、彼女が所属していた売春組織が某エリート客を脅迫したことから警察捜査が始まり、直接の相手ではなかったナンスィーも捜査対象になり、捜査員から尋問を受けた。それ以来、ナンスィーは自分の身に何か起こるのではないかと怯えていたと父親は語っている。
というのは、2014年3月、国際的な犯罪で訴追されているヴェルス・タマーシュが、連行されたパトカーの中で「自殺」を図る事件が起きたからである。「自殺」の詳細は明らかにされていないが、ナンスィーは警察に連行されると、同じことが起きるのではないかと心配していたという。だから、それを恐れて、父親に売春現場へ同行するように求めていたようだ。
その話があって間もなく、ナンスィーは中国人調理師に殺害された。ナンスィーの家族は娘の死が偶発的な殺人事件ではなく、誰かに依頼された嘱託殺人ではないかと疑っている。犯人はなぜ、事件の翌日に簡単に出国することができたのか。準備がなければ、そう簡単にはいかないはずである。当時、各種メディアは、この残忍な殺人事件を報道したが、深堀した記事はなかった。なお、この中国人は本国で自首したが、刑罰を受けることなく、自由の身になっているという。
この父親の再登場で、すでに闇に葬られた事件が、再び脚光を浴びる可能性がでてきた。習近平との親密な関係を誇示するオルバンである。その気があれば、堂々と犯人引渡しを要求できるはずである。しかし、この問題がFidesz政府で議論された形跡はない。

ロガーンは3度結婚しているが、3名の妻はみな小柄で細身という外見が似通っている。ロガーンの好みが分かる。ナンスィーもまた、小柄で細身だった。Fideszが初々しく、腐敗に汚れていなかった2000年前後は、ロガーンもFideszの一介の議員にすぎなかった。たまたま私はスペイン・マラガ行きのフライトで、往路復路とも、ロガーン一家と同じLCC機に搭乗した。ところが、2010年のオルバン第二次政権以降、巨額の私財を貯め込んで、プライヴェットジェットで旅行し、豪勢な住居やバラトン湖畔の広大な不動産を所有することで知られるようになった。その頃から売春組織を通して、買春し始めた。2番目の妻であるガール・セチリアは美人コンテスト入賞者をマネージする会社を立ち上げた。3番目の妻になるオブルシャンスキー・バルバラとは妻がマネージメントする会社を通して知り合ったか、別のマネージメント会社から紹介されたと思われる。ハンガリー最大の売春組織は美人コンテストの入賞者を使ったコールガール組織であり、最初に写真撮影と称した仕事を与え、その後、高い報酬で彼女たちをセレブの相手にするスキームで機能している。
ロガーンは2021年に二番目の妻と離婚し、オブルシャンスキーと結婚した。離婚の際には、バラトン湖畔の1haの広さの別荘を慰謝料として渡した。3番目の妻の贅沢振りは、無所属議員ハッドハーズィ・アーコシュのFacebookに暴露されている。

話題となった9月22日のシェンミエン副首相の国会演説終了後、ただ一人拍手しなかったロガーンは、無表情で目は虚ろだった。もし、この時、ナンスィー父の告白音声がネットで公開されるという情報をもっていたとしたら、その表情は理解できる。何かを憂慮している様子だったとすれば合点が行く。なぜなら、14歳のナンスィーを買春したことが明らかになれば、これはハンガリーでも犯罪を構成するからである。幼児の性的虐待ではないが、それに準ずるペドフィル犯罪である。
既述したとおり、ハンガリーでは売買春そのものは法律で罰せられることはないが、18歳未満の女性を買春することは認められていない。売春宿の経営や定期的な売春もまた罰せられる。
ロガーンがシェンミエンの演説に拍手を送らずやや放心しているように見えたのは、ナンスィーとの関係があきらかになれば、犯罪を構成するからだろう。政府が素早く閲覧禁止措置をとったところに、Fidesz政府の危機感がうかがえる。
(2025年10月2日「ブタペスト通信」から)
初出:「リベラル21」2025.10.21より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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