ムンカーチ爆撃翌日にヴァカンスにでたオルバン・ヴィクトル

アメリカの家電工場へのロシアの爆撃(ムンカーチ)

8月21日、ロシアはウクライナ全土にドローンとミサイルの大規模攻撃を仕掛け た。これまでロシアの攻撃とは無縁だったウクライナ西部のハンガリー国境の町ム ンカーチ(ハンガリー国境から 30km)が初めて攻撃対象となり、米国系家電製造工場が爆撃され、ハンガリー政府を驚かせている。
これまでハンガリー政府はプーチンのロシアに徹底した忖度外交を展開し、ハン ガリー系住民が多く居住するウクライナの国境の町の安全を保障してきたと自負してきたからだ。国境の町周辺でウクライナが摘発したロシアのスパイ事件(ハンガ リー系住民が逮捕)の際にも、ウクライナ側の反ハンガリー挑発行為だと激しく非難していたが、ウクライナ側は西部の防空網の情報を得るためのロシアのスパイ行為だと主張していた。ハンガリーは親ロシア路線をとっているから、ハンガリー人が多数居住する国境の町への攻撃など、ありえないというのがその根拠であった。
しかし、プーチン・ロシアは容赦なくウクライナ全土への攻撃を強めている。ハンガリー政府の言い分を否定するようなロシアの攻撃にたいし、Fidesz 政権幹部の対応が混乱している。対ロシアをめぐるオルバン政権の外交路線の綻びが見えている。

「ロシア」の文言を消す Fidesz 政権
8月20日のハンガリー建国記念日を終えた深夜からロシアの爆撃が始まった。これにたいして、シュヨク大統領は21日朝に Facebook で、「ロシアの爆撃の犠牲者に哀悼の意を表する」と書き込んだが、その1時間後にこの文言から「ロシアの(orosz)」という部分を削除したのである。
他方、スィイーヤルトー対外経済外務大臣は、最初から「ロシアの」という形容を使わず、爆撃によって犠牲者がでたことを明らかにしていた。明らかに、政権内部でロシアの攻撃の表現をめぐる対応が協議されたようだ。ラヴロフ外相から顕彰され、ロスアトムの裏金に関与しているスィーヤルトーはロシアを刺激しないように、「ロシアの」という形容詞を外すべきだと考えたようだ。シュヨク大統領のスタッフは Fidesz 政権から送り込まれており、大統領の自由な個人的意見表明は許されていない。政権幹部の誰からか「ロシアの」という形容詞を削除するように指示されたのだろう。
もともと、シュヨク大統領は Fidesz 政権の操り人形で、政権に抗するような言論を行うことがないという安心感から、大統領に据えられた。「重石」を欠く大統領という意味で、Súlytalan Tamás(軽石のタマーシュ、シューイタラン・タマーシュ) と揶揄されている。この文言修正事件で、シュヨク大統領が Fidesz 政権のお飾りでしかないことがますます明白になったのである。
ところが、Facebook でオルバン首相は、「ロシアによるロケット攻撃の犠牲者を、 国境に近いデブレツェンとニレージハーザのハンガリーの病院で受け入れる」閣議決定したという投稿を行っている。ここでは「ロシアの」という表現を使っている。
この一連の混乱から政権内部でロシアの攻撃をめぐる表現について、動揺が生じていることが分かる。「起きるはずのない攻撃が起きた」というショックが、政権幹部の困惑を露呈している。
オルバン・ヴィクトルの Facebook への投稿は以下のようなものである。
Orbán Viktor (8 月 21 日)
A mai kormányülésen áttekintettük a Munkácsot ért orosz rakétatámadás következményeit.
3Utasítottam a belügyminisztert, hogy készítse fel a debreceni és nyíregyházi kórházat a sebesültek fogadására. Hála Istennek nem volt rá szükség.
Szijjártó Péter egyeztetett a kárpátaljai magyarok képviselőivel, akiknek szintén felajánlottuk a magyar kormány segítségét.
A béke irányába tett erőfeszítéseket, és a Trump elnök által kezdeményezett tárgyalási folyamatot folytatni kell. Csak a béke!
【以下、英文】 (English translation by DeepL)
At today’s government meeting, we reviewed the consequences of the Russian missile attack on Mukacs.
I instructed the Minister of the Interior to prepare hospitals in Debrecen and Nyíregyháza to receive the wounded. Thank God, this was not necessary.
Péter Szijjártó held talks with representatives of Hungarians living in Transcarpathia, to whom we also offered the assistance of the Hungarian government.
Efforts towards peace must continue, as must the negotiation process initiated by President Trump. Peace alone!

ムンカーチ爆撃の翌日にアドリア海のヴァカンスへ出発
ムンカーチ爆撃の翌8月22日、オルバンは側近を引き連れて、ダルマチア諸島の一つであるブラチ島へ飛んだ。戦争非常事態を宣言しているにもかかわらず、しかもムンカーチ爆撃の直後であるにも関わらず、アドリア海の休暇に出た。政府はヴァカンスを兼ねた「会議」のためと説明しているが、説得力はない。マジャル・ピーテルは軍用機を使ってクロアチアに飛んだと発信しているが、軍用機ではなく民間の機体を使ったようだ。オルバン首相一行は、1週間4400ユーロというヨットを借りて、ブラチ島で「出張戦略会議」を開いていることになっている(公費で支出した可能性大)。オルバン一行が借りたヨットの傍には、高速道路建設で大儲けしたスィーイ・ラスローの会社が所有する豪華ヨットが係留されているという。相互に行き来できるように手配されたものだろう。
オルバン首相はほんの少し前に、LCC 機を使って、これ見よがしにスペイン旅行したばかりだが、ムンカーチへの爆撃があった翌日に、「ヴァカンス会議」に出かけたのである。カルパチアのハンガリー住民の権利が抑圧されていると声高に叫ぶ が、仲が良いはずのプーチンにたいして、爆撃を抗議することなく、予定していた ヴァカンスにさっさと出かけたのである。当初、マジャル・ピーテルは軍用機でクロアチアに向かったと投稿していたが、搭乗した機体は民間会社所有のようだ。オルバン首相一行の予定に合わせてオルバン首相顧問であるシュミット・マーリアの娘(ウンガル・アンナ、Ungár Anna)が経営する会社のプロペラ機(OK-BIF, PilatusPC-12)がこの島へ飛んでいる。2年前の夏季休暇で、オルバン・ヴィクトルはクロアチアのウンガル・アンナの別荘に滞在している。撮影された機体はこのプロペラ機のようだ。それはともかく、今回の情報はマジャル・ピーテルの Facebook で公になった。マジャルに情報を流している政権内部の人物がいることを示唆している。

腹の出っ張り具合から、真ん中の人物がオルバン首相と思われる

オルバン・ヴィクトルの公私混同は何も今に始まったことではない。第一次オルバン内閣樹立直後(1998 年)から日常的に観察される。サッカーW 杯フランス大会の決勝戦の日程に合わせて最初の外遊先をフランスに定め、幼稚園児の長男を連れて公式訪問し、W 杯決勝戦を貴賓席で見学している(息子を両膝で抱えながら)。W 杯ロシア大会の決勝戦はプライヴェットジェットを使いモスクワに飛び、アリバイのために短時間プーチン大統領に面会するという見え透いた手を使っている。今回のアドリア海のヴァカンスでも、クロアチア大統領を現地に招き、「懇談」したことになっている。
かくように、オルバン・ヴィクトルは、公共事業で焼け太りした会社のプライヴ ェットジェットの使用やサッカー観戦を首相に与えられた特権のように考えてい る。それが背任行為(贈収賄)であり権力の乱用で、政権腐敗の源だという認識がまったくない。

ヨットの舳先に立つオルバン・ヴィクトル

Péter Magyar Facebook /8 月 21 日
Háborús veszélyhelyzetben honvédségi géppel érkezve megkezdte a jachtozást a felcsúti hajóskapitány.
Matrózként vele tartott a milliárdos gyűlöletpropaganda hercegnője, Habony Árpád volt felesége, Kaminsky Fanni és az oroszok fehérzászlós tábornoka, Orbán Balázs is.
Miközben 3 millió honfitársunk a létminimum alatt tengődik, miközben több százezer gyermeknek nem jut egészséges élelmiszer, aközben a hatvanpusztai uradalmi birtok ura a kéthetes indiai luxusutazás után most épp a festői adriai szigeteket járja körbe.
Háborús veszélyhelyzet és kormányzás a la Orbán.
6Ugyan tegnap magyarokat rakétáztak Munkácson, de a leköszönő magyar miniszterelnök ma már jachtozik és az osztrigát francia pezsgővel öblíti le.
Képmutatás, hazugság. A nem működő ország luxus maffiafőnöke.
Vége van, elvtársak!
【以下、英文】 (English translation by DeepL)
Arriving in a military aircraft amid the threat of war, the Felcsút ship captain began his yachting trip.
Accompanying him as sailors were the princess of hate propaganda, Árpád Habony’s ex- wife Fanni Kaminsky, and the Russian general with the white flag, Balázs Orbán.
While 3 million of our compatriots are living below the subsistence level, while hundreds of thousands of children do not have access to healthy food, the lord of the Hatvanpuszta estate is now touring the picturesque Adriatic islands after a two-week luxury trip to India.
A state of war and governance à la Orbán.
Yesterday, Hungarians were bombarded with rockets in Munkács, but today the outgoing Hungarian prime minister is yachting and washing down oysters with French champagne.
Hypocrisy, lies. The luxury mafia boss of a country that doesn’t work.

アドリア海の島で総選挙に向けての「戦略会議」を開くオルバン・ヴィクトルとその一行

ハトヴァンプスタの事件
ハトヴァンプスタのオルバン城の情報を発信し続けた無所属議員のハッドハーズィ・アーコシュは、現地の見学会のためのバスを仕立てたり、建設進捗度を逐一報告したりしている。数週間前には、オルバン城の視察のために使った車のタイヤが4本ともパンクさせる事件があったが、建国記念日の20日、ハトヴァンプスタを訪れたハドハーズィ議員の車に幅寄せし、道路から押し出そうとして警備会社の車が ひっくり返る事件が起きた。
幸い、双方にけがはなく、ハドハーズィ議員の車は擦り傷だらけになったが、ひっくり返ったのは 警備会社 Testőr Kft の車両であることが判明し、現地の警察が捜査を開始することになった。

ハドハーズィ議員の車を道路から押し出そうとして、逆に横転した警備会社の車両

【ハドハーズィ議員の車を道路から押し出そうとして、逆に横転した警備会社の車両】
ハドハーズィ議員が執念をもって追跡し続けたハトヴァンプスタ城は、このところ、各メディアで取り上げられる、Fidesz 政権にとって頭の痛い問題になっている。 いつの間にか、ハトヴァンプスタは Fidesz 政権の腐敗の象徴になってしまった。 Fidesz にはこれに抗する手段がなく、沈黙を続けている。「野党は虚偽情報をたれ流 し続けているから、それに対抗する情報発信が必要だ」と繰り返すのみである。警備会社は雇い主から業務責任を追及されないように、ハドハーズィ議員の活動を妨害しようとしたのだが、それが裏目に出ている。間が悪いことに、ハトヴァンプスタ周辺のメーサーロシュ所有の土地の一部が、メーサーロシュの3歳になる孫の名義に書き換えられたという情報が流れている。
もっとも、ハンガリーには日本のような厳しい相続税がないからメーサーロシュが困るわけではないが、オルバン=メーサーロシュ一家の私物化の現実を教えてくれる。

オルバン Fidesz に奥の手はあるか?
オルバンを初めとする ELTE 法学部出身の Fidesz 幹部の師であり、第一次政権樹立を支援してきた政治学者のケーリー・ラースローは、この半年間、Tisza 党の地方集会組織(Tisza Sziget)を50か所以上回って講演活動を続け、地方の小さな町や村での政治意識の変化を報告している。第二次オルバン政権の15年を厳しく評価する ケーリーは、オルバン・ヴィクトルが最後の手段として、お飾りの大統領を辞任させ、自らが大統領になるシナリオを指摘している。Tisza 党政府の樹立が確実な場合、総選挙前に議会で選挙を行い、大統領になるというシナリオである。
というのも、オルバンが失脚すれば、権力を失って崩壊した社会党のように、 Fidesz が解体する可能性があるからである。オルバンが政権のトップにいる限り、 党が解体することはない。しかし、首相の座から降りた場合の求心力の低下が懸念される。その低下を最小限にするために、大統領として政府に対抗する図式が描かれる可能性があるというのだ。現在のポーランド型の政治体制である。
ただ、国民の選挙で選ばれるポーランド大統領とは異なり、議会が選出し儀礼的な役割しか持っていないハンガリーの大統領職に、オルバン自身がどれほど執着するかは不透明である。秋の政治的展開に注目したい。(2025年8月24日)

初出:「リベラル21」2025.09.02より許可を得て転載
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