更迭された米国務省メア日本部長の、沖縄のひとびとは「ゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも育てられない」発言については、ほぼ批判されつくした。当然。ここで注目するのは、彼が述べている日米安保体制の問題と、彼が「海兵隊の抑止力」といわなかったことだ。そして、日本政府と沖縄県民への「いらだち」に同情した10日夜のNHK「ニュースウオッチ9」の大越キャスターの「直球解説」。
共同通信の報道と、朝日新聞が伝えたアメリカン大学の学生らが記録した発言概要は、記録の正確性のチェックに努力しているのが分かるので、それをもとにして議論しよう。メア日本部長は、米軍がなぜ沖縄に基地を必要とするかについて、次のようにしかいっていないー
「沖縄の米軍基地は地域の安全保障のためにある」
「米国には二つの理由で沖縄に基地が必要だ。基地がすでにそこにあり、地理的に重要だからだ」
「米国は沖縄での米軍の足跡をへらすため、海兵隊8千人をグアムに移転する。日本はこの移転費用を提供する」
「東京は沖縄県知事に『お金が欲しいならサインしろ』という必要がある。米海兵隊が基地を置く場所は他のどこにもない」
「憲法9条を変えるべきだとは私は思わない。憲法が変わることは米国にとって悪い。日本は在日米軍が不要になるからだ。憲法が変われば、米国は、日本の国土を米国の国益を促進するために使えなくなる。日本政府が支払う高価な受け入れ国支援は、米国の利益だ。我々は日本でとてもいい取引をしている」
このメア部長の発言には、米海兵隊の沖縄駐留が「地域の安全保障」のために不可欠だとはまったくいってないし、「抑止力」という言葉は見当たらない。
なぜか。何としても民主党政権に06年日米合意を実施させようとして、日本と米国の日米安保ロビーたちが叫んだのは、米海兵隊の駐留が日米同盟の「抑止力」にとって必要不可欠だ、という主張だった。メア部長はそんなことは一言もいっていないのだ。
メア部長は、じつは海兵隊が日本に駐留することなど必要ないと考えていたし、海兵隊が占領で獲得した既得権益に固執し、頑強に沖縄での基地確保を譲らないために、沖縄県民はじめ日本国民が怒り、日米関係がそこなわれることを懸念していたのではないか。海兵隊が日本だけでなく世界中で嫌われていることを十分認識していたから、「米海兵隊が基地を置く場所は他のどこにもない」と述べたのではないか。もちろん米外交官として、そんなことを発言しなかったが、それが本音ではなかっただろうか。
鳩山前首相は、選挙公約の「国外、最低でも県外移設を」を米国側と他県から拒否され、メディアからは、“日米関係を危険にする”“海兵隊は日米同盟の抑止力にとって必要”だなどと激しく攻撃され、ついに「海兵隊の抑止力」を認めて後退、日米合意を再確認する共同声明を発表、社民党を事実上追い出して、政権放り出してしまった。それが現在の政権危機の大きな原因になった。しかし、その鳩山氏自身が、「抑止力」を口にしたのは苦し紛れの理由づけだったことを、沖縄の新聞とのインタビューで告白したのだ。
メア発言について、10日夜のNHKニュースナインは、大越キャスターに「直球解説」させた。番組では、メア部長の夫人が日本人であること、彼が「日本人になっても良い」といっていたことや、沖縄の総領事のときに日本人の夫人たちを招いて催したパーティの映像などを紹介した。そのうえで、メア部長の「発言の背景」について“解説”、「日本政府が決断を先送りすることへの強いいらだち」「うんざり」があるのではないか、と強調した。メア部長というより、大越氏のいらだち、うんざりが見えみえだった。さすがに大越氏は、「沖縄県民が県内移設を拒否していることへのいらだち」とはいわなかったが、自公政権も民主党政権も、普天間基地の辺野古移設実施を先送りせざるを得なかったのは、沖縄県民が強く反対しつづけてきたからだ。沖縄県民の県内移設拒否は、昨年の名護市長選、県知事選で、さらに決定的になった。
大越氏がメア部長の発言を機にまた迫る「日本政府の決断」とは具体的にどうしろということか。法律を変えて、県知事の許認可権を奪い、辺野古移設を強行する決断をしろというのか。(3月11日記)
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