主要国の中で、トランプ米大統領の選挙戦勝利に最も喜んだのがネタニヤフ・イスラエル首相、最も早くはせ参じてゴマをすったのが日本の安倍首相、就任後最も早く首脳会談をしたのがECから脱退する英国のメイ首相、最初に予定された首脳会談を中止したのが隣国メキシコのベニャニエト大統領。そして、ネタニヤフ首相は2月早い時期に、ワシントンで首脳会談の予定だ。そこでトランプは、イスラエルが求め続けてきたテルアビブからエルサレムへの、米大使館移転の大統領令を発表するという。会談の前に、発令する可能性もある。
それを見据えてネタニヤフは、占領下東エルサレムでの大規模な入植地建設計画(2,500戸の集団住宅建設)を改めて発表した。
オスマン・トルコ帝国の支配下にあったパレスチナは、帝国が消滅した第1次大戦後、英国の委任統治となり、第2次大戦後、英国は委任統治を終了。1947年の国連パレスチナ分割決議は、パレスチナをユダヤ国家とアラブ国家に分割し、その中央にあり3千年の歴史を誇るエルサレムはどちらの領地ともせずに、国際管理下に置くことを定めた。しかし、その直後の第一次中東戦争で、市の西側をイスラエルが占領。東側をヨルダンが統治して、両国による分割統治となった。67年の第3次中東戦争で、イスラエルが市の東側とそれに続くヨルダン川西岸地域を占領し、エルサレム市全体を“ユダヤ人の永遠の首都”と宣言した。しかし、国連、米国を含む各国は、イスラエルによる占領を認めず、67年戦争占領地からの撤退をイスラエルに要求、米国を含め各国はすべて、大使館を従来通りテルアビブに置いてきた。
一方、アラブ側は88年、ヨルダンが統治権を放棄、パレスチナ自治政府は、イスラエル撤退後、東エルサレムをパレスチナの首都とすることを宣言した。
トランプが大統領令で大使館をエルサレムに移転をすることは、米国がイスラエルによる東エルサレム併合を承認したことになる。それは、国連パレスチナ分割決議をはじめ、米国が主導し、イスラエルとパレスチナ双方が93年にワシントンで調印した、パレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)など、パレスチナ紛争解決への交渉による和平解決へのすべての努力を、反故にしてしまうのだ。オスロ合意は、イスラエルとパレスチナの二つの国家の共存で、パレスチナ紛争を解決することを明確に目指している。
しかし、09年にイスラエルの政権を握ったネタニヤフ政権は、これまでも占領地である東エルサレムで国際法、国連決議に反する入植地建設を推進してきた。ただ、パレスチナ住民の猛反発、オバマ米政権を含む国際世論とパレスチナとの共存を願う国内世論にも配慮せざるを得なかった。
▽トランプ政権の支持、支援でイスラエルはやり放題に
占領下東エルサレムでの新たな大規模入植地建設計画は、昨年秋に明らかになり、国連安保理は12月23日、国際法違反として停止を求める決議2334を15理事国のうち賛成14、棄権1で決定した。これまで、イスラエルによる占領下の東エルサレムとヨルダン川西岸地区での入植地建設の停止を求める安保理決議は、常任理事国として拒否権を持つ米国の反対で成立しなかったが、今回オバマ政権最後の投票になって米国が初めて棄権、決議が成立した。この安保理決議は、イスラエルにとって打撃だった。
しかし、そのすぐ後に、米大統領選でトランプが勝利したことで、ネタニヤフは大喜び。早速、新入植地建設計画を2回にわたって確認し、国連安保理決議に挑戦、さらに、大使館のエルサレム移転をトランプに要請した。トランプはイスラエル支持とネタニヤフとの首脳会談を早急に行うことを公言。大使館移転の大統領命令を出すことも示唆した。
今後、トランプ政権が続く限り、イスラエルは入植地の拡大だけでなく、パレスチナ自治政府の統治をますます困難にする、様々な措置、軍事行動を、やり放題に拡大するだろう。これに対するパレスチナ住民の抵抗も強まる。パレスチナ住民だけでなく、少数ではあってもイスラエル側でも、より多くの人命が失われる恐れが大きい。
入植地拡大に反対しているイスラエルの平和運動団体「入植地監視ピースナウ」によると、ヨルダン川西岸地区に残る占領地には、131のユダヤ人入植地があり、38万5千人の入植者が住む。そのほか、イスラエル政府が公認してない入植地が97カ所ある。また、イスラエル占領下の東エルサレムには12の入植地があり、約20万人の入植者が住んでいる。
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