リーマンショック後の中欧ホテル事情(下)

著者: 盛田常夫 もりたつねお : 在ブダペスト、経済学者
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Crowne Plaza Salzburgの出来事
 ほとんどのホテルでは、予約が取り消せないホットディールは事前支払い、チェックイン時には銀行カードによる保証を要求する。それは仕方がないとしても、ホテルはさらにカード口座の一定額を勝手にブロックしてしまうことがある。ザルツブルグのCrowne Plazaのデスクは、 120ユーロ程度の1泊の宿泊にたいして、何と400ユーロを超える額をブロックしてしまった。携帯電話に引き落とし通知がきて分かったのだが、そのSMSが届かなかったら、引き落とされていることも知らずにいた。カード提示と同時に、あっという間に、400ユーロがブロック(仮引落とし)されてしまった。なぜ400ユーロもブロックするのかと聞くと、チェックアウトの際に、ブロックが解除されますから問題ありませんという。しかし、問題はそれほど簡単ではない。
 ブロックされた金額はいったん引き落とされてホテルの銀行口座に振り替えられる。その操作は一瞬のうちに行われるが、その逆の操作には何日もかかる。数日たってもブロックが解除されていないので、ホテル側に何時になったら解除されるのかと聞くと、「ホテルサイドではすでにブロックを解除したので、あとは貴方の銀行に問い合わせてください」と答えるのみ。仕方がないから、銀行に問い合わせてみると、「先方の銀行からまだその通知は来ていない。場合によっては10日ほどかかることもある」という。
 Crowne Plazaの担当者に、「ブロック解除は簡単なことではなく、たいへん不愉快ない思いをしている。銀行カードを提示しているにもかかわらず、1泊分の3倍以上もの金額を自動的にブロックするという商行為は、顧客にたいするあまりに不誠実な行為ではないか。そういう方法を改めてはどうか」とメイルを送った。この担当者は、「ご面倒をかけて申し訳ない。またのご利用をお待ちしています」と回答してきた。Hotel de Franceよりは真面目な対応で、メイル文面も丁重だった。
 この銀行口座ブロックや自動引き落としをめぐって、いろいろな問題が発生している。ホテルは宿泊料金や飲食代金の踏み倒しを防ぐために、このような方法をとっているのだが、これがホテル側に逆に悪用されたケースを良く耳にする。カードをいったん提示すると、ホテル側はカードへの課金を自由に行うことができる。そこから仕組まれた課金が行われることがある。従業員の不正の場合もあるし、ホテルが一体となってやっている不正もある。朝食や夕食をとっていないのに、それをとったかのように課金したり、しかも二重三重に課金する不正も良く聞く。とくに日本人は銀行カード利用の明細や請求書をきちんとチェックする習慣がないことは知られているので、こうした不正のターゲットになる。円安で過大に支払わされているのに、不正な課金でさらにお金を奪われるケースが少なくないのだ。

プラハのInterContinental
 日本ではともかく、欧州の名の知れたホテルでは不正は行われないだろうという考えは通用しない。多くのホテルはブランド料を払ってチェーンホテルになっているだけだから、国際的なチェーンホテルであっても、ホテルが一体となって不正を行い、少しでも収入を増やそうとすることがある。
 数年前にプラハの国際ハーフマラソンに参加するために、以前から使っているインターコンに宿泊した時のことだ。プラハの中心部には大きなホテルはインターコン以外になく、ハーフマラソンの出発点であるカレル橋へ徒歩で行けるから、ここは便が良い。ハンガリーに戻った後、同行者から連絡があった。部屋料金を支払った後に、勝手に追加で引き落とされているから、一度チェックした方が良いという。急いでカード支払い履歴をチェックすると、確かに部屋料金を払った後に、さらに8000円程度の引き落としが行われている。ホテルにFAXで支払い内容を問い合わせたところ、部屋に備えてあった酒類やゴルフボール代金だという。そのような覚えはまったくないから、ホテルの従業員がやったことでしょうと伝えると、一切の弁解や謝罪なしで、即時にカードへの返済が実行された。明らかに、ホテル側が意図的に行った引き落としであることは間違いない。多分、日本人客だからばれないだろうと考えて行った仕業だろう。フロントとマネージメントが結託している不正行為である。
 欧州では日本人旅行客はカモネギである。レストランでもホテルでも、請求書をチェックすることなくお金を払ってくれるし、几帳面に計算して10%のチップまで置いていってくれる。カードの履歴を一々チェックすることもない。だから、日本人相手の不正は難しくない。
 駅構内や街角でひったくりや詐欺に合うのも大概が日本人だ。欧米人は見知らぬ人から声をかけられても一切相手にしないが、ほとんどの日本人は言葉も分からないのに、何を言っているのか聞こうと立ち止まってしまう。そこを詐欺や窃盗のグループに狙われる。そういうグループが捕まることはめったにない。だから、欧州では騙された者が馬鹿だということになる。そういうことをしっかりと頭に置いて旅行してもらいたいものだ。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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