ロシアのキーウ爆撃に対するハンガリー政府の姿勢

8月27日深夜のキーウ爆撃にたいして、EU はロシアを非難する声明を出したが、 EU 加盟 27か国のうち、ハンガリーだけがこの声明に署名しなかった。それどころか、「友好パイプライン(ロシアの原油輸送管)」にたいするウクライナによるドローン攻撃で、パイプラインが損傷し、ハンガリーとスロヴァキアへの原油輸送が停止したことにたいし、スィーヤルトー対外経済外務大臣はウクライナを非難し、8月28日付でこのドローン攻撃を主導したハンガリー系のウクライナ指揮官のシェンゲン領域への入国を禁止する決定を発表した。
ロシアを非難せず、ウクライナだけを非難し、EU 加盟を阻止することをハンガリーの外交政策の重要な柱にしている Fidesz 政権は、ウクライナ戦争を国内権力基盤の堅固化のために利用している。「すべての悪は外からやってくる」という民族主義を鼓舞する政治的姿勢は、あまりにステレオタイプである。年金生活者に訴えても、若者たちは Fidesz 政府の見え透いた魂胆を見抜き、反 Fidesz のマジャル・ピーテル率いる Tisza 党の支持に向かっている。

スィーヤルトー・ピーテルの見え透いた嘘
ロシアの侵略を非難せず、ウクライナだけを非難するハンガリー政府の政治姿勢はウクライナ政府のみならず、周辺諸国からも疑惑の目で見られている。「友好パイプライン」へのドローン攻撃の後、スィーヤルトーは Facebook にウクライナ非難の投稿をしている。

ブダペスト通信(2025年8月31日)スィーヤルトー

Péter Szijjártó @FM_Szijjarto
In response to the latest Ukrainian strike against the Druzhba oil pipeline, the Hungarian government has decided to ban the commander of the military unit responsible from entering Hungary and the entire Schengen Area.
This was an attack on Hungary’s sovereignty, endangering our energy security and nearly forcing the use of our strategic reserves.
Ukraine knows very well that the Druzhba pipeline is vital for Hungary’s and Slovakia’s energy supply, and that such strikes harm us far more than Russia.
Anyone who attacks our energy security and sovereignty must expect consequences.
この投稿にたいして、ウクライナの外務大臣は次のように応えている。

ブダペスト通信(2025年8月31日)ウクライナ外務大臣

Andrii Sybiha @andrii_sybiha
How shameless to post this after a brutal attack by terrorist state Russia. Peter, if the Russian pipeline is more important to you than the Ukrainian children killed by Russia this morning, this is moral decay. Hungary is on the wrong side of history. We’ll take mirror action.

「友好パイプライン」への最初の爆撃はウクライナではなく、ロシアによって実行された(2022 年 11 月)。この時、スィーヤルトーは次のようなメッセージを発表 している。
「ロシアからウクライナを経由してハンガリーに輸送されている原油パイプラインが損傷したが、ハンガリーは数週間数カ月の予備を備えているので、何の心配も要らない」(https://www.facebook.com/watch/?v=670920422707368&t=22)と。

ところが、今回のウクライナによるドローン攻撃でパイプラインが損傷したことにたいして、「ハンガリーの生死にかかわる重大な行為で、ハンガリーの主権にたいする攻撃である」と強い言葉で非難している。
現在、パイプラインの修復が終わ り、テスト輸送が行われているから、損傷自体はそれほど大きなものではないが、 スィーヤルトーは最大限の言葉を使って、ウクライナを非難している。
もっとも、「ハンガリーの主権、エネルギーの安定供給に対する重大な脅威」と言っておきな がら、首相は10日にわたる夏季休暇に出かけたことは前号で詳述した。「口で言うこと」と、「実際にやること」が、まったく違う。ここからも、Fidesz 政権のまやかしが見て取れる。「ハンガリーの主権が脅かされているのではなく、ハンガリーのロシア依存が脅かされている」に過ぎない。

野党の国会議員トンポシュ・マルトンは、Vagy hazudik, mint a vízfolyás, vagy az oroszok által fogott ügynökről beszélünk(Either he’s lying through his teeth, or we’re talking about an agent captured by the Russians ) と 、スィーヤルトーを批判している(https://share.google/v5VtqGJy0p5b0UVGz)。

事実、スィーヤルトーは、事件の後にロシアのラヴロフ外相と電話協議を行っている。EU 首脳やウクライナと協議するのではなく、何よりも先にロシアと協議し、 ロシアを非難する声明には署名しないのである。オルバン首相もまた、休暇へ出かける前にトランプ大統領に直訴する FAX を送り、ウクライナを懲らしめるように求め、その旨の返事(FAX 用紙にメモ書き)が到着したことを自慢げに公にしている。 当事者の問題を正面から受け止めるのではなく、侵略者や不真面目な仲介者にウクライナの行動を抑制するように求めている。なんとも、情けない政治的行為である。

ここまでくると、オルバンやスィーヤルトーがこれほどまでにプーチン・ロシア へ忖度しなければならない理由の解明が必要だろう。いったい何が彼らの政治姿勢を制約しているのだろうか。背後にあるのは、ロシアの「懐柔資金」である。

ブダペスト通信(2025年8月31日)贅沢三昧

スィーヤルトー・ファミリーの贅沢三昧
スィーヤルトー対外経済外務大臣は2019年にラヴロフ外相から顕彰を受け、2022年のロシアのウクライナ侵略以後、実に11回にわたりモスクワを訪問している。スィーヤルトーの頻繁なモスクワ訪問は何を意味しているのだろうか。
2013年にパクシ原発増設決定でプーチンと合意したオルバンとスィーヤルトーの二人は、この案件の機密部分にかかわっている。同時期にプーチンが合意したバングラデッシュの原発建設の投資資金総額(およそ 130 億ドル)のうち、50億ドルの 裏金がハシナ首相とその周辺に流れたと報道され、バングラデッシュを揺るがすスキャンダルになっている。
ハンガリーの原発増設の投資総額はおよそ130億ユーロである。バングラデッシュと同規模とは言わないまでも、かなりの額の裏金が約束されたと考えるべきである。この双方のプロジェクトはプーチンが直々に締結したプロジェクトである。最低でも10 億ユーロ、最大で50億ユーロ程度の裏金のキックバックがロスアトムから約束されたはずである。バングラデッシュの場合は隣国のマレーシアの複数の銀行に裏金が送金されたようだが、ハンガリーの場合はロシア国内の銀行やスイスの銀行に振り込まれたと推測される。この巨額の裏金こそ、オルバン・ヴィクトルと Fidesz 政権の対ロシア政策を制約している。
ロシアの裏金はソ連時代から絶対的な機密事項になっており、西側の金融機関に資金が保管されたものが暴露されない限り、 まず表に出ることがない。スィーヤルトーが定期的にモスクワを訪問しなければならない理由は、この資金の分割受取りにあると推測される。だから、トンポシュ議員が批判するように、スィーヤルトーはロシアに買収された諜報部員ではないかと疑われても仕方がない。
ソ連時代からロシア共産党は目を付けた政治家や共産党幹部を諜報部員として確保し、当該国の共産党指導部の動向を監視させていた。その見返りとして、諜報部員となった政治家や幹部は秘密裏に金品を受け取っていた。

オルバン・ファミリーのハットヴァンプスタ城の建設資金や維持経費はとても首相の俸給で賄えるものではない。それでも、野党の政治家はこの城の建設はオルバ ンが貯め込んだ資産の一部にすぎないと見ている。ロスアトムの裏金で政府に批判的なテレビ局の買収も考えたオルバンだが、それは無駄遣いだと諦めた。巨額の裏金の使い道に困っていたのだろう。王族気分を味わえるハトヴァンプスタ城建設が一つの使い道になった。

スィーヤルトー・ファミリーの場合は城建設ではなく、裏金や外交プレゼント品が贅沢三昧の生活を支えている。最近でもスイーヤルトーの息子が自らの Facebook に投稿した写真が話題になっている。プライヴェットジェットに搭乗した写真を投稿したのである。もっとも、この写真はすぐに削除され、もうダウンロードすることはできないが、削除前にダウンロードされた写真はネットに出回っている。

スィーヤルトー夫人の装飾品(ハドハーズィ議員の Facebook より)

もちろん、大臣の俸給でこれほどの贅沢ができるはずがない。ハッドハーズィー議員はスィーヤルトー夫人の装飾品についても公にしている。
スィーヤルトー夫人が身に付けている装飾品は自らの労働報酬で購入したものではないだろう。裏金で調達したか、スィーヤルトーの大臣としての外国公式訪問で取得したプレゼント品だろう。最近では、たびたびアラブ首長国連邦を訪問し、満面の笑みを浮かべて空港に到着していたが、訪問の度に高価なプレゼントを受け取っていたのだろう。ハンガリーには政治家のプレゼントを規制する法律はないから、 プレゼントはもらい放題である。

他方、医療従事者への患者からの謝礼には厳しい規制がかけられている。医師を含む医療従事者の俸給を大幅に上げる見返りとして、患者から金品を取得してはな らないという法律が制定され、これに違反した者は刑事罰を受ける。品物の現物をプレゼントとして受け取ることはできるが、その価額は最大で 8,000Ft(3500 円ほど) で、この上限を超えた品物を受け取ると刑事告訴される。金銭は一切受け取ってはならない。政治家は莫大な裏金やプレゼントを得ても罰せられないが、医療従事者は端(はした)金でも告訴される。

もちろん、金品取得規制は当然のことだが、医療従事者には厳しい規制を設けながら、政治家が外国訪問や賓客接待で受け取るプレゼント品にたいする規制は存在しないのは著しく公平を欠いている。与党政治家は当然の役得として、高価な品物を取得しても申告の義務がない。まことに政治家に甘い。若者が Dirty Fidesz を合唱するのも無理はない。

オルバン・ヴィクトルの女婿一家(長女婿のティボルツ一家)は子供を連れて、 アメリカに旅立った。アメリカの学校に子供を入学させるためと称している。総選挙での敗北のリスクを考え、資産と家族を移動させることにしたのだろう。選挙で Fidesz が勝てば、また戻ってくるだろう。(2025 年8月 31 日)

初出:「リベラル21」2025.09.04より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14418:250906〕