ロシア正教会ヒラリオン(府主教)の腐敗と性的虐待(続報)

【左からヒラリオンのもう一人の助手 Li、シェンミエン副首相、ヒラリオン、鈴木譲二】

日本人の若者ゲオルグ・スズキこと鈴木譲二君が、ハンガリーに居住するロシア正教会のヒラリオンの腐敗生活と性的虐待を種々のメディアに暴露している。ロシアの諜報機関FSBと結びついているヒラリオンが復讐のために手段を選ばない可能性を考え、すべての事実を公にすることで、自らの身を守ることできると考えての行動である。

鈴木君の暴露によって、ロシア正教会とハンガリー・オルバン政権、とりわけシェンミエン副首相との密接な関係が明らかになった。ロシア・キリル総主教のEU制裁リストからの除外のみならず、EU制裁リストに載ったロシアのオルガルヒにハンガリー国籍を与えて、自由にEU内を移動できるように、ヒラリオンがシェンミエンを通してハンガリー政府に働きかけた。オルバン政権はそれに応えるだけでなく、ヒラリオンに各種便宜を図り、ロシア正教会との友好関係の維持に努めている。

キリル総主教の後を継ぐと目されたヒラリオンのハンガリー赴任の背景は分からない。降格人事だったのか、それともロシアのウクライナ侵攻を支持するロシア正教会への制裁回避を図るべく、オルバン政権のバックアップを受けるようとの特命を受けたものか。いずれにせよ、ハンガリー政府はキリル総主教の制裁リストから

の除外に成功した。それだけでなく、ロシア正教会を代表するヒラリオンにあらゆる便宜を図って関係強化に努めた。その窓口となったのが、シェンミエン副首相である。

ヒラリオンはロシアのオルガルヒがハンガリーの居住権や国籍の取得するための仲介を行い、その報酬として巨額の裏金を受け取っていた。その一部がシェンミエンに流れていると考え間違いない。その見返りに、ヒラリオンはハンガリー政府から特別な待遇を受けた。ハンガリー赴任から3ケ月もないうちにハンガリー国籍を取得し、私用車に外交官用のナンバープレイトを与えられた。それに加え、空港では政府関係者専用の乗降口を通る特権も享受している。

ヒラリオンがロシアのオルガルヒからの裏金を受け取る場所は、中東アラブ諸国やイスラエルだった。鈴木君と Li の二人の助手を同伴し、この二人が現金の入ったアタッシュケースをハンガリーに持ち込んだ。政府専用乗降口を通過しているので現金が入ったアタッシュケースが検査されることはない。これは巨額の現金の密輸であり、それをハンガリー政府が助けたことになる。

この事例を見ると、この種の裏金密輸の手口はハンガリー政府の重鎮たちも利用しているのではないかと疑われる。スィーヤルトー対外経済外務大臣の度重なるモスクワ訪問、ドバイやイスラエル訪問は裏金の現金授受を疑わせる。オルバン首相が500 ユーロの札束(100 枚でも 1 cmに満たない)をポケットに忍ばせていることはマジャル・ピーテルが証言しているが、この現金は真っ当に稼いだお金ではないだろう。現金での授受が使われるのは、資金の出所を消すためである。ロシアによる金銭的懐柔は最高度の機密事項であり、西側の銀行を経由する間抜けた方法は使われない。もっとも、偽名でスイス他の銀行口座に振り込まれる部分もあるとみられるが。

【豪邸での生活(鈴木君のアルバムから)】

鈴木譲二君はどのようにしてヒラリオンの助手になったのか
鈴木君はロシア人(鈴木ヴェロニカ)の母親と日本人の父親との混血で、ロシア語が堪能なバイリンガルである。18歳になった鈴木君はロシア正教会に手紙を送り、

正教会の仕事に携わりたいと願い出た。なかなか返事をもらえないので、ヒラリオンのブダペスト赴任が決まったのを機会に、ヒラリオンへ直に手紙を送った。これが鈴木君とヒラリオンとの出会いである。ヒラリオンは鈴木君にブダペストに来るように指示したことからすべてが始まった(2022年)。鈴木君は端正な顔立ちのロシア人二世である。ヒラリオンはすぐに彼を気に入り、ブダペストからやや離れた小さな町(ハンガリー北部の町ヴァチュカ)に購入した豪邸に住むように指示した。鈴木君によれば、この豪邸は14室の客室のほか、プール、ジム、ワインセラー、6台の車が入る駐車場を備えたものだという。彼は盗み撮りした豪邸の図面をも公開している。

この豪邸にはヒラリオンと鈴木君のほかに、もう一人アジア系の Li が助手として住み込んでいた。Li はヒラリオンを助けるだけでなく、鈴木君を監視する役目を請け負っており、FSBの諜報部員でもあるようだ。

【オルガルヒ一家との夏季休暇】

鈴木君がこの豪邸に移って間もなく、ヒラリオンは寝室とベッドを共有することを強制した。それほどまでに、ヒラリオンにとって、鈴木君は魅惑的だった。2023年夏にイタリアのサルデーニャ島に旅行に出かけ、ロシアのオルガルヒ一家と休暇を過ごした。この種の旅行費用はすべてオルガルヒ持ちである。この時、オルガルヒが鈴木君のことを気に入り、「私には3名の娘がいる。婿にならないか」と持ち掛けた。ヒラリオンは即座に、「この子は修道士になるので、それは不可能だと」と答え、その後、別の場所に鈴木君を連れて行き、「けっして私の所から逃げ出すようなことを考えるな。もしそんなことをしたら、あらゆる手段を使って、帰国することも日本で生活することもできないようにするからな」と脅迫されたという。

現金の運搬役という汚れた仕事を負わされただけでなく、性的虐待を含むヒラリオンの日常生活を直に経験した鈴木君は、ヒラリオンが聖人を装った俗物であることに失望した。サルデーニャ島での脅しの後、鈴木君はこのままヒラリオンの傍に居るわけにはいかないと考えるようになった。

極秘に撮影された証拠品
ブダペストに戻った鈴木君は、性的虐待の証拠を残すために、ヒラリオンの情報を極秘に集めることにした。証拠となる情報があれば、ヒラリオンに弁解の余地がなくなる。そして、その証拠を公にすることで、身の安全が担保できると考えたのである。

まず、ヒラリオンが着任3ヶ月もしないうちにハンガリー国籍を取得した証拠として、ヒラリオンのパスポートの写しを撮影した。

鈴木君によれば、ハンガリーの与党政治家が度々ブダペスト郊外の豪邸を訪問していた。なかでも、副首相のシェンミエン・ジョルトとは頻繁にコンタクトを取っていたという。ハンガリー国籍や外交官ナンバーの取得、空港の政府関係者用出入り口の使用などは、すべてシェンミエンが手配したものだろう。この便宜提供が無償で行われたと考えるのはナイーヴすぎる。オルガルヒからの裏金の一部がシェンミエンにも流れているはずである。

さらに、鈴木君はチェコのメディアとのインタヴューの際に(2024 年 7 月)、自らがセットした盗撮ビデオを公開した。ヒラリオンの性的虐待の揺るがぬ証拠として、鈴木君が仕組んでビデオ撮影したものである。

【ヒラリオンが鈴木君のベッドへ入るときの様子をビデオ Youtube(https://www.youtube.com/watch?v=uXFcR9H2uyA)撮影したもの】

ヒラリオンからの逃亡
サルデーニャ島の出来事から4ヶ月ほど経って、逃亡できるチャンスが生まれた。2024年1月某日、ヒラリオンは終日豪邸にとどまっていたが、その日は体調を崩して寝込んでいた。鈴木君一人がブダペストのクリニックへ検査に行くことになった。

監視役の助手は休暇でいなかった。そこで急いで航空券を手配し、ブダペスト市内のホテルを1泊だけ予約し、荷物をまとめてホテルへ向かった。翌日の朝5時にホテルを出発し、空港までタクシーを使って早朝便に乗り込んだ。乗り込むまで、鈴木君が豪邸にいないことにヒラリオンが気づかないことが重要だった。もし逃げたことが分かれば、シェンミエン副首相に電話して、空港で身柄を確保するように依頼するからだ。

乗換でイスタンブールの空港に着いた時に、助手の Li から朝食を持ってきた由のメイルが入った。気分が悪いから、ドアの外に置いておくように答えた。その時になっても、ヒラリオンはまだ鈴木君が逃亡していることを知らなかった。ヒラリオンと Li が逃亡に気づいたときには、すでに鈴木君は日本に到着していた。

そこから、鈴木君とヒラリオンのメイルでのやり取りが始まった。ヒラリオンは鈴木君の口封じのために、一定額のお金を渡すことを提案した。その後、鈴木君に代わってヒラリオンの相手をした母親のヴェロニカは、メイルによる何度かの交渉で賠償金の話にたどり着いたが、最終的にヒラリオンは信用できないとして賠償金の提供を断った。

その後、鈴木君はロシアのメディアへ訴え、それが契機となって、2024年7月にヒラリオンの降格が決まった。しかし、それ以上の動きはない。そして、昨年暮れに(2024年11月)鈴木君はチェコのメディとインタヴューを行い、証拠を開示したのである。チェコのメディアを選んだのは、ヒラリオンがカルロヴィ・ヴァリの正教会に転勤になったからである。しかし、ヒラリオンはミサのためにだけカルロヴィ・ヴァリに向かい、ミサが終わればすぐにハンガリーへ戻っているという。彼にとって、ハンガリーの豪邸が居住空間なのだ。

【ハンガリー警察の HP に掲載されている指名手配】

ハンガリー警察による指名手配
鈴木君はハンガリーのメディアに登場していなし、ハンガリーを訪れることもない。なぜなら、ヒラリオンは鈴木君を刑事告訴し、ハンガリー警察は犯罪者指名手配リストに載せているからである。ヒラリオンは、鈴木君が逃亡する時に、高価な時計と現金を持ち去ったことを根拠に告訴した。さらに、秘密裏に監視カメラを設置して、盗撮したことも個人の権利を侵害する行為だと非難している。指名手配は副首相シェンミエンと内務大臣ピンテルが同意した捜査令状である。政権交代が行われるまで、鈴木君はハンガリーのメディアに顔を出すことはないだろう。
【ブタペスト通信 2025 年 No. 40(11 月 14 日)から】