対ロシア原油制裁措置
5月30日~31日の2日間にわたって開催された対ロシア原油輸入制裁をめぐるEU首脳会議は、海上輸送分の原油輸入の原則禁止を決定した。ロシアとの「友好パイプライン」を経由する原油輸入については、このパイプラインに大きく依存するハンガリー、チェコ、スロヴァキアが当面の制裁対象から外された。このパイプラインからドイツやポーランドに流れる分については、当該国が輸入を止めることを明らかにしている。ともに海上輸入への代替が可能だからである。
EUの対ロシア制裁は全加盟国の一致が原則であり、港をもたないこれらの諸国は全面禁輸に難色を示していた。とくにハンガリーは強硬姿勢を崩さず、とりあえず海上輸送分とパイプライン輸送分を分けるという妥協を図って、EU首脳会議は全会一致の制裁を決定した。
他方、ウクライナ政府はハンガリー政府への批判を強めており、ウクライナ領土を経由するパイプラインについて、「何が起きても不思議ではない」と、原油輸送の妨害あるいは抜き取りを示唆しており、「友好パイプライン」を経由する原油輸送自体も大きな不確実性を抱えている。
もっとも、これは両刃の刃で、ハンガリーに流れる原油輸送を妨害すれば、ロシアがウクライナ領を経由するパイプラインを止めてしまう可能性があり、それではウクライナ自身が原油の調達が不可能になる。黒海の港を抑えられている状況では、簡単に海上輸送に切り替えることができないからである。なお、ウクライナ側が「友好パイプライン」を損傷させる、あるいは原油を抜き取るという懸念について、オルバン首相はフォンデアライエンEU委員長と協議した模様で、パイプライン輸送が止まった場合の対応策について原則的な協議が行われた模様である。
いずれにせよ、海上輸送分についてもパイプライン輸送分についても、EU加盟各国はその代替策実行に、様々な事情や困難を抱えており、詳細な具体的対応策はこれから策定される。
とりあえず、EUとして対ロシア原油制裁が決定されたことは重要である。確かにハンガリー政府は当面の要求を貫いたが、エネルギーシステムの改編に必要なEU補助金については何も決定されていない。「パイプライン経由の輸入を継続するなら、そこから得られる利益でエネルギーシステムの再編を実行すべし」というのが、EU首脳の立場であると思われる。パイプラインの禁輸に強硬に反対したハンガリーが、将来的に、EUから巨額の補助金でエネルギーシステムの改編を行える可能性は小さくなったと言える。その意味で、ハンガリー政府は当座の「勝利」を喜んでばかりはいられない。
オルバン政権は国内向けの主張とEU向けの主張を使い分けている。EU向けにはエネルギーシステムの改編にお金と時間がかかるからと釈明しながら、国内向けには電気・ガスの公共料金割引政策維持のためにロシア原油が必要だと説明している。これは有権者へのポピュリスト政策としては有効だが、国際的にはまったく通用しない噴飯ものの論理である。権力維持のための論理の使い分けは、EU内では通用しない。対ロ制裁への消極的姿勢はいずれ高い代価の支払いを伴うことになろう。
ハンガリーに滞在する難民の状況
5月27日の時点でハンガリー政府が公表したデータによると、ロシアのウクライナ侵略が始まって以降、ハンガリーに入国したウクライナ人は728,000名で、そのうち難民に認定された数は23,148名、短期滞在資格を取得した数は120,000名となっている。
ハンガリーに滞在するウクライナ人は、ブダペストとウクライナ国境に近い町に滞在しており、ウクライナ領とを往来する人も多いという。侵略初期にハンガリーに避難したウクライナ人のほとんどは、以前から西欧への移住を検討していた人が多く、10人のうち9人までがハンガリーを経由して西欧諸国へ散らばって行った。それが難民認定者の数に現れている。
現在時点で流入する避難民の多くは西側への移住を考えていなかった人々が多く、そのため10人のうち2、3人はハンガリーに留まっていると言われる。したがって、今後、ハンガリーで滞在資格を得るウクライナ人は増えると予想されている。
東駅から西側諸国へ移動するウクライナの人々(index.hu)
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