以上、20回党大会での「習独裁完成」の内実についての私の推測を述べた。当たっているか否かはわからないが、なぜそう考えるかを以下に述べる。
今、中国の政権は大変な難題に直面している。もとよりどこの国にも難題はあるものだが、中国のそれは中でも図抜けた難題のように思われる。ほかでもない。不動産不況である。
中国でこの業界のトップを走っていた恒大集団の経営不振が伝えられるようになったのは2年ほど前からであるが、その後、業界全体が深刻な構造不況に陥っていることが誰の目にも明らかになった。
しばらく前の数字だが、中国指数研究院というところの9月の発表では、不動産大手上位100社「百強房企」の今年1~8月の平均売上高は前年同期と比べてなんと46.2%の落ち込み。また中国国家統計局発表の1~7月の住宅販売面積は前年比-27.1%、住宅の新規着工面積は-36.8%であった。(『産経新聞』22・9・7)
その後、克而瑞研究センターという不動産市場調査機関によると、売り上げ上位100社の11月の住宅販売総額は前年同月比-25.5%、20年同月比では「ほぼ半減」したとされる。(『日本経済新聞』22・12・10)
そして住宅不況は全国に広がる。中国国家統計局12月15日発表の主要70都市における10月の新築住宅価格動向指数によれば、前月比で価格が下落したのは全体の73%を占める51都市におよぶ。中古物件では全体の89%、62都市で価格が下がった。
こういう状況では、工事が途中でストップする事例も増える。中国の慣習では住宅購入者は物件の落成、入居まで待つことなく、工事中でもローンの支払いを開始するのが一般的である。そのためすでに支払いを始めた物件が工事中止となって、購入者が業者に工事再開を集団で要求するといった事例も数多く発生している。
中国ではこれまで不動産業はGDPの3割を担うと言われてきたように、不動産業の国民経済に占める比重は大きい。つい最近まで、中国の各都市ではつぎつぎと大規模な住居ビルの建設が続いていた。その流れが逆転したのは、そのことに今さら驚くのがおかしいようなものだが、一人っ子強制時代以来の人口政策で出生率が下がり続けて、ついに人口減少の時代が始まったからである。
事態の深刻さに気付いた政府は慌てて数年前から出生制限を解除し、今では第三子を産むことを奨励さえしているが、時すでに遅し、人口は減少へと流れが変わってしまったのだ。
また中国でも地方財政は苦しい。そこで中央政府は地方の公有地の使用権を、地方政府が70年という期限付きで民間業者へ入札で売り渡し、その代金を地方財政へ繰り入れることを認めてきた。長らく中国を旅行する外国人をびっくりさせてきたのは何処へ行っても大きな集団住宅がにょきにょきと立ちあがっているさまであったが、たんに需要が多いというだけでなく、地方財政の補完という構造的理由もあったのである。
その流れの潮目が変わったのであるから、業界はいち早くそれに対応しなければならないのは自明のことだが、なぜか業界としての反応は鈍かった。それにはそれなりの理由はあるはずだが、今はそれを詮索しても始まらない。
ともかく長い間、中国経済のけん引役であった不動産業界は今、存亡の危機に立っている。政府、金融界も放ってはおけないから、支援に乗り出した。
12月10日『日本経済新聞』によると、「政府の包括的な金融支援策に呼応し、国有銀行が相次ぎ不動産会社向け融資枠を設定。総額は3兆1950億円(約63兆円)を超える」という。たとえば工商銀行が「碧桂園」「万科」など12社に6550億元、中国銀行が「万科」など10社に6000億元などで、その合計が3兆元を超えるというわけだ。
一口で3兆元というが、これはとてつもない金額である。昨年の中国のGDP総額は114兆円だから、その2.8%。今年度(2022年度)の中央政府の予算総額は30.4兆元だから、そのほぼ10分の1である。日本円では約63兆円となるが、日本政府の今年度当初予算は107兆円だからその約59%にあたる。
注意しなければならないのは、この金額はそれだけ不動産会社に補助金を出して負債を減らすというのではない。不動産会社が経営破綻して、傷口が破裂しては大変だから、とりあえず血止めの絆創膏として融資するというだけである。根本的可決につながる措置ではない。
このまま放っておけば、各地に巨大なコンクリートのかたまりと、住宅ローンに身代をはたいてしまった多数の購入者と、もぬけの殻になった不動産会社の旗だけが残ることになる。なんとかしなければならないのだが、その方策は皆目見当たらない、というのが、中国の政権の現状である。
こんなに大変なことになっていても、中国のメディアは党や政府が黙っている限りなにも言わない。国家統計局が毎月発表する「商品住宅販売価格」の前月比変化の趨勢と70都市の価格動向の一覧表を載せるだけである。
12月15,16の両日、北京で中央経済工作会議というのが開かれた。この時期の毎年恒例の会議で、その年の経済の実績と政策を総括し、当面の経済情勢を分析して、翌年の経済政策の段取りを決める場である。今年の会議には10月の党大会で決まった習近平以下7人の政治局常務委員と、党の常務委員は外れたが政府における任期がまだ残っている李克強首相と韓正副首相が出席した。
コロナ禍の影響が続く経済情勢についての一般的報告と来年の政策には特に新味はなくても驚かないが、一段と深刻さを増しているこの不動産業界については、なにがしか対策が打ち出されるのではないかと、報道発表文に目を凝らしたが、その予想は見事に裏切られた。
「住宅の引渡しなどを着実に進め、業界の合理的な資金需要を満たし、業界の合併、再編を推進し、優良企業の危険を解消して資産負債状況を改善する」、「住宅は住むものであって、財テクのために売り買いするものではない。不動産業の新発展モデルへの平穏な移行を推進する」といった部分には、危機を意識していることが現れていると言えないこともないが、切迫感がまるで感じられない。
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ここまで共産党20回大会での習独裁の完成と不動産業の危機、2つの話題を取り上げたが、私はこの2つが表裏一体であるのが、中国政治の現状であると言いたいのだ。
つまり李克強をトップとする共青団派は政府(国務院)を活動の舞台としてきたから、中国経済の現状、とくに不動産業界の危機的状況については熟知しているはずだ。
一方、習派はといえば、次期首相と目される李強は上海で、党中枢に入るらしい蔡奇は北京で、それぞれトップとして習の意向におもねる政策を脇目も降らずに実行してきた人間であり、その他のメンバーも習の親衛隊であって、習の顔色を見ずに何かをするといった人間たちではなさそうである。これからどう転がるか、予想は難しいが、社会の潮目を読み違えた不動産業界の混乱はこれからますます大きくなるはずである。それを習近平以下のあの7人で解決できるようにはとても思えない。
そこで今秋の大会である。なりふりかまわず習が三選を望んでいるのに対して、李克強派はそれに正面から立ち向かって、混乱を恐れずに一戦を交えるか、それともこの難局をあえて習一派に丸投げして、彼らが自壊するのを待つか、を比較考量して、後者を選んだのではないか、というのが、私の結論である。
それが大会最終日、胡錦涛退席事件の際の李克強派のなんとも言いようのない挙動に現れていたのではないだろうか。
党大会で三選を果たして、習近平は自信満々で政策の指揮にあたれるはずだが、コロナ対策などを見ていると、なぜか民心の動向にびくびくしながら、右往左往している感がある。今になって、自分が立っている指揮台が脆弱なことに気づいたのではないだろうか。(22・12・18)
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