中国とどう向きあうか ―― 護憲勢力の落し穴

――八ヶ岳山麓から(250)――

日本はこのままでは改憲に進む。
世論調査のたび、安倍政権のもとでの改憲に反対というひとは多数を占めるが、護憲世論は決して安定した多数ではない。先の総選挙では集団的自衛権に反対する衆議院議員は5分の1になったし、名護市長選では負けるし……。
改憲の焦点は、対外戦争を予定した自衛隊を憲法に明記するか否かだから、東アジアに緊張状態があるかないかで世論の動向はガラリと変わる。緊張の焦点は金正恩氏とトランプ氏だが、これは誰もがわかっていることだから、ひとまずおいておく。
以下中国の東アジアにおける軍事的プレゼンスについて、既述の内容も含めて私の見方を述べる。

中国はかつて新安保法制が審議されているさなか、尖閣で軍事挑発を続けた。これが安倍政権への熱い支援になったことは間違いない。北朝鮮の核・ミサイル問題があるから、今日明日だというのではないが、今後改憲論争のさなかに尖閣で大きな軍事行動に出る可能性は否定できない。
1月には中国潜水艦が尖閣諸島の接続水域を潜没航行するという事件があった。これへの日本政府の抗議には、中国の領海を中国の潜水艦が航行して何が悪いかと返答した(この航行は、習政権の日本接近が中国側の弱腰と受止められぬようにとの、習近平主席じきじきの指示だったという観測がある)。
ところが同じ1月23日環球時報は、日中両国が良きパートナーになるためには尖閣諸島での軍事的緊張を回避すべしとの社説を掲げた。言行不一致などまったく気にしないのである。
環球時報社説はつづけて、「今日、中国のGDPはすでに日本の3倍近くになり、両国間の実力比は歴史的に逆転した。日本は中国の台頭を真剣に受け入れるべきであり、中国は19世紀以来、長らく日本に圧迫され侮辱されてきた民族感情を調整する必要がある」という。日本は二流国家に転落した現実を認識して、中国に逆らうな、ということである。
これが中国がいう「中華民族の復興」である。これでは日本護憲派の「核心的利益」など歯牙にもかけないことは確実だ。

尖閣とともに懸念されるのは、台湾海峡である。
いま習近平氏の地位は、人民日報などが「全人類の指導者」と書くまでに高められたが、習氏が切望する毛沢東や鄧小平に比肩するまでには、到底至っていない。中国はすでに南シナ海での軍事的進出を既成事実にし、香港からは自治の実体をほとんど奪い取り、軍備拡大と経済成長によって東アジアではアメリカと並ぶ覇権国家になった(と考えている)。
そこで習氏に残された歴史的事業は、先輩指導者がやれなかった台湾統一である。ところが台湾人の大半は現状維持を望んでおり、中国共産党支配下に置かれるのを拒んでいる。いきおい習政権は強硬手段に傾斜せざるをえない。
かつて台湾総統選挙のとき、江沢民政権は親中国派を応援するつもりで、台湾基隆沖にミサイルを撃ち込んだことがある。選挙の結果は裏目に出て、台湾人の反感を呼び李登輝政権誕生となった。
だが今日、中国軍の戦力は当時より格段に鋭利で大規模なものとなっている。これが国際会議で上級将校に「アメリカはアジアの問題に口を出すな」と言わしめるほどの自信を持たせた。
彼らは「台湾海峡では、2020年前後に一戦を免れない。解放軍は開戦後100時間足らずで台湾の武力統一に成功する」とか、「台湾海峡で開戦したら中国軍は、台湾・日本方面を担当する東部戦区を動員するだけでよい。これに各種の特殊部隊を加えれば、日本軍を合わせても完全に制圧することが可能だ」と、日本も勘定に入れた発言をしている(「八ヶ岳山麓から」NO207)。
1月5日中国空母「遼寧」は、台湾海峡を通過し南シナ海に向かった。春節帰郷期をひかえて、中台間の民間航空機の台湾海峡での航空路で悶着を起している。台湾沿海空域での爆撃機や電子戦機を含む軍用機の周回は年中行事だ。
独立志向の強い民進党蔡英文政権を揺さぶっているのだ。
中国が台湾沿海へミサイルを撃ち込むとか、海上封鎖といった挙に出たとき、各国が抗議したとしても、台湾は中国にとっての「核心的利益」、統一は国内問題だとして相手にはしない。

中国が尖閣や台湾で新たな軍事的攻勢に出たとき、いままで迷っていた人々はもちろん、護憲派の一部も含めて世論は一気に防衛力増強と改憲に傾斜する。敵基地攻撃可能な巡航ミサイルが合憲か否かといった哲学論争は吹っ飛ぶ。安倍内閣はこれを奇貨として、Jアラートのように有利に世論を導くことができる。
こうしたとき護憲派は、「あくまでも軍事ではなく交渉、戦争ではなく和平で」と対応するだろうが、これだけでは狂瀾を既倒にかえすことはできない。
緊急事態勃発の心理的衝撃を和らげるためには、いまから中国が軍事的挑発に出る危険性を国民の多くに知らせておく必要がある。そのために護憲・専守防衛をとなえる政党は、習政権がどのような東アジア戦略を持っているかを分析し、これに対応する必要がある。敵対せよというのではない。起りうる事態を想定して、世論工作を含めた対策をもてというのである。
立憲民主党が先頭に立ってこれをやれば、保守も含めた国民全体に大きな影響力をもつことになるのだが、その気配がない。共産党は去年1月の党大会決議で「中国は平和国家とはいえない」としたが、いま「しんぶん赤旗」の中国関連記事はごくわずか、習政権の分析というにはほど遠い。
しかし、どこの政党でもよい、問題を提起をすれば、世論もこれに応じると思う。早くやらないと間に合わないが。
以上、どうか反論をしていただきたい。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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