中国の「中間的立場」はいつまで続くか

――八ヶ岳山麓から(397)――

 各メディアによると、9月15日、上海協力機構(SCO)サマルカンド会議における中露首脳会談を前にして、プーチン氏は「中国の友人がバランスのとれた立場をとっていることを高く評価する」「ウクライナ情勢をめぐって中国が『疑問と懸念』を抱くのは理解できる」と述べ、「今日の会談では当然、私たちの立場を説明する」と発言したとのことである。
 この発言は、会談以前にウクライナ情勢をめぐって中国側がロシアとの見解の違いをロシア側に伝え、双方の外交担当者がかなりのやりとりをしたことを物語っている。当然プーチン氏は中国側の「疑問と懸念」を解くために、習近平氏にウクライナの戦局と見通しについて詳細な説明をしたことは容易に想像できる。

 プーチン・習近平会談直前の9月14日に、人民日報系国際紙の環球時報は、「中国はいまだロシア・ウクライナ衝突の『虎の背』には乗ったことはない」という社説を掲載した。
 「社説」は、数日前までのウクライナ戦のロシア軍の劣勢、撤退をみとめたのち、「一部の人々は正面からロシアを攻撃すると同時に、中国にも背後から攻撃の矢を向けている」と、アメリカ・西側メディアを激しく非難した。
 「社説」は他方で、中国はウクライナ戦争において「虎の背に乗ったことはない」すなわち善意の第三者であって、どちらの味方をしたこともないし、これからも当事者ではありえないと強調している。
 当然会談では、プーチン氏は習近平氏の「中間的」であろうとする対露姿勢を思い知らされたものと思われる。以下「社説」の主なところを抜粋する。

 「アメリカのジョージ・ホプキンス大学政治学教授ハル・ブランズは、もしもロシアがウクライナ戦場であのように形勢不利になってゆくなら、中国は『虎の背中から下りるに下りられぬ(「騎虎難下」)』ことになるだろうといった」
 「またアメリカ・西側の世論は、ウクライナの快進撃が中国を不快な立場に追いやるのは疑いないとして、さらに中国をしてロシアの教訓を吸収させねばならぬと騒ぎ立てた」
 「このような論調は、西側政治エリートの願望を暴露したもので、特に(ロシアとウクライナの衝突の)当事者でもなく、衝突を起こした者でもない中国を巻き込むことは、事実に基づかない、じつに悪意の動機で駆り立てられたものである」
 「中国側は一貫して各国の主権と領土の一体性を尊重し、国連憲章の趣旨と原則を順守し、……危機の平和的解決に有利な一切の努力を支持し、和平会談に努力し、情勢を人道主義的に収めようとしている。・・・・・・ロシアであれウクライナであれ中国はウクライナ問題では公正客観的立場に賛成する」
 「ウクライナ問題では、アメリカ・西側は依然火を焚きつけ、ウクライナを使ってロシアを苦境に落そうとしているが、中国は火に油を注ぐ様な真似はしないし、さらに機に乗じて地政学的政治の利益をかちとろうともしていない」

 中国はロシアを反米の重要なパートナーとしているが、上記の趣旨をわざわざプーチン・習近平会談の前日に環球時報紙に掲載したのは、プーチン氏の核の脅しなど破滅的行動とは距離をおいていることを内外にあきらかにして、同盟者と見られるのを避けるためである。
 中国が本当に各国の主権と領土の一体性を尊重し、戦争の早期解決を願っているならば、そのように行動しなければならないが、そうはなっていない。言うまでもなく中国は武器援助まではしていないらしいが、西ヨーロッパがロシアの石油・天然ガス輸入を縮小したのに対し、中国は対露輸入を増加させるなど経済的支援をしているのは世界中が知っている。

 ロシア上院は10月4日、ウクライナ東部・南部4州の親ロシア派代表と結んだ併合条約の批准と関連法案を承認し、議会手続きを終えた。
 これに先立つ9月30日、国連安全保障理事会はウクライナ東・南部4州で親ロシア派が強行した「住民投票」を違法だとして非難する決議案を採決したが、ロシアが拒否権を行使し否決された。理事国15のうち、中国・インド・ブラジル・ガボンの4ヶ国は棄権した。
 決議案は、ロシアによるウクライナ領のいかなる変更も認めないことを各国に求め、ロシア軍に対しウクライナから無条件に即時撤退するよう要求していたが、中国は「全ての国の主権と領土保全は守られるべきだ」と述べつつも、「対立を悪化させるよりも危機的状況を和らげるべきだ」と主張したという。
 中国がロシア非難決議に「反対」せず「棄権」したことは、あらためて「中間的立場」を示したものだが、同時に、台湾問題を考えたとき、「棄権」せざるを得ないものでもあった。

 もともと中国は、台湾問題に関して「外国勢力と結託して独立分子が挑発することは許さない、独立するときは武力行使を辞さない」といっている。もしも、アメリカとアルバニアが提案した国連安保理事会への決議案が、領土の変更は認めないとか、ロシア軍の撤退とかいわずに、中国の従来の主張どおりに「外国と結んで住民投票を行い独立を宣言するのは許されない」という一般的原則を強調するだけの柔軟な文言であったら、中国は「棄権」できただろうか。

 中国がロシア非難決議に「反対」の立場をとり、ロシアの占領地独立・合併を肯定したなら、台湾が住民投票で独立を問い、多数がそれに同意して独立を宣言したとき、理屈の上ではこれを理由に台湾に侵攻する理由がなくなってしまう。さらに台湾が独立と同時にアメリカと同盟関係に入れば、中国の台湾侵攻に対してアメリカが軍事介入する正当性が生まれる。
 これから国連総会に同じ趣旨の決議案が提案されるとのことだが、中国はロシアとの距離を置いているというたてまえ上、対露非難に「反対」つまりプーチン支持をあからさまにすることはできない。同時に現状では「賛成」することもできない。
 では、ウクライナ軍が西側武器によって満足すべき領土回復に成功するとき、あるいはプーチンによる生物化学兵器・戦術核兵器使用がさしせまったとき、「中間的立場」を貫くといっていられるだろうか。
                           (2022・10・07)

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