――八ヶ岳山麓から(44)――
尖閣問題は日中とも「上陸しない、調査はしない」などの線で妥協できる可能性があった。胡錦濤・温家宝政権は尖閣領有は棚上げしたまま、対日外交・経済関係を維持する意向であり、こととしだいによっては尖閣周辺の共同開発も可能だった。
だが、「尖閣国有化」以後それは不可能になった。
「産経」は柳条湖事件81年記念日の翌日「対日強硬転換 習氏が主導」と伝えた(矢板記者2012・9・19)。動因は韓国李明博大統領の竹島上陸、日本世論の対中国批判だ。これによって「中国ばかりが国益を損なった」として対日強硬論が中共中央の多数を占めるようになり、習近平周辺に対日外交の主導権が渡ったという。「尖閣国有化」以後の百を超す都市での反日デモの急展開と禁止命令の徹底を見れば、この分析は信じるに足る。
反日運動は「官製」である。このたびのデモは2005年、2010年にはなかった地方小都市にも起こり、中高生も整然たるデモをやっている。日本のメディアは、中国のデモに体制批判があることをいまだに報道しているが、強調しすぎである。大陸で、外交テーマで人民大衆が自らの意思によってデモをやることはまずない。デモに参加したチンピラが暴れるだけである。
日本のテレビ局は地方議員らによる尖閣上陸や、東京都の尖閣調査などを批判しなかった。「中国にくわしい」人物やコメンテーターが軽薄な発言をし、今回の危機を集団自衛権と改憲に結び付けようとする石原都知事やそれに同調する人が次々登場した。これが中共中央の上海派や「太子党」内の反日派の反日攻勢を昂揚させた。
それにひきかえ、「共青団」の機関紙「中国青年報」は、9月5日論説の中で反日強硬の「環球時報」をじかに批判して、新聞紙面であろうとテレビ放送であろうと、公共の場で毎日あのような対立抗争ないしは戦争気分を宣伝するのは被害妄想か、あるいは愛国を利用して商売をやり(真の)愛国をだめにすることにほかならないと書いた。国内向けの発言ではあるが、日本に向けたシグナルでもあった。
しかし、日本のマスコミはこれを小さく報道しただけだ。
10日ほど前、NHKと朝日テレビのニュース解説番組で、「中国には重い石は動かさな方がいいということわざがある。尖閣では当分何もしないのが一番いい」「相手を攻撃し続けて結末をどうつけるのか」と発言をするジャーナリストの声を聴いた。これは正解であるが、いまもって少数意見でしかない。
「尖閣国有化」は、かりに石原都知事ごときに尖閣を自由にさせないための次善の措置であったとしても、野田内閣は中国からどんなリアクションがあるか分析できないまま、右翼の攻勢とメディアの反中国報道にずるずる押されて、早すぎる国有化に踏切った。そしていまになって「想定外」だったという。
中国は国連に対し尖閣周辺の海図を提出し、さらに東シナ海の大陸棚延伸案を提出する決定をした。まもなく尖閣海域を中国の排他的経済水域と宣言するだろう。2010年のような経済貿易面の攻勢は必至である。また国防相自身が武力行使を示唆している。いま尖閣海域にいる中国艦船と漁船は中国海軍の指揮下にあるものと見なければならない。
これから日本政府はなにをやるつもりだろうか。それが見えない。ただ、武力衝突にならないことを祈るのみ。
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