ーー八ヶ岳山麓から(554)ーー
第51回衆院選は2月8日投開票され、465議席のうち自民党は単独過半数(233議席)を大きく上回り、少数与党の参院で法案を否決されても再可決できる3分の2(310議席)を超えた。これで自民党悲願の憲法改正の発議も可能になった。
中国の公式反応
9日の中国外交部定例記者会見では、記者が「日本の総選挙は自民党が圧勝したが、中国は高市新政権にどのような外交政策を期待するか」と質問したのに対し、林剣報道官は大略次のように答えた。
「選挙は日本国内の問題だが、今回の選挙はいくつかの深層的な構造的問題や思想潮流の動向を反映しており、……教訓は近きにあり見過ごしてはならない」「日本政府は、中日間の4つの政治文書(1972年の日中共同声明、78年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明)を遵守し、約束を裏切るような行為を慎むべきである」
「日本の極右勢力が情勢を誤って判断し、好き勝手に行動すれば、必ずや日本国民の抵抗と国際社会の痛烈な批判に直面するだろう。中国の対日政策は一貫して安定性と継続性を保っており、日本の特定の選挙によって変わることはない」
林剣報道官は、あらためて中国は高市氏の台湾有事に関する国会答弁の撤回を求め、「日本の与党当局に対し、中国人民が国家の核心的利益を守る決意は揺るぎないこと、中国の第二次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守る決意は揺るぎないこと、あらゆる反中国勢力の挑発的妄動を撃退し挫く決意が揺るぎないことを厳しく警告する」と述べた。
環球時報紙の総選挙分析
人民日報国際版の環球時報紙(ネット)は、8日深夜総選挙を分析する長い記事を掲載した。以下は同紙の分析記事から中国人研究者の見解を抜粋したものである。
日本問題の専門家項昊宇氏(こうこうう・中国国際問題研究院アジア太平洋研究所特別研究員)の見解は大略次のようなものである。
「高市早苗氏は、短期決戦を利用し野党の反応時間を最大限に圧縮することで、自身の政権初期の高い支持率を自民党の衆院議席に転換し、政権基盤を固めるとともに高市政権の正当性を確立しようとした」
「立憲民主党と公明党が衆院解散直前に『中道改革連合』を結成したのは、政界の穏健な勢力を統合し、広範な有権者中間層の支持を集めることを目的としており、理論上は「1+1>2」の効果を生み出すことができたはずだ。しかし現実には、期待された効果が得られなかった根本的な原因は、こうした急ごしらえの強引な連合に効果的な深い統合が欠けていた点にある」
「今回の選挙戦が日本の将来の政策の方向性に与える影響は根本的なものであり、日本の政界構造は再び『一強多弱』の構図に戻る可能性がある。高市早苗氏を代表とする右翼保守勢力が政界における主導的地位をさらに固め、伝統的な中道左派勢力はさらに隅に置かれるだろう」
盧昊氏(ろこう・中国社会科学院日本研究所総合戦略研究室主任)は、こう見ている。
「現在の日本の有権者は物価上昇という民生問題を強く懸念しており、そのため与党も野党も積極的に減税を主張した。有権者は高市氏の経済刺激策や民生支援策に依然として期待している。同時に高市氏はポピュリズム的主張に積極的に迎合し、煽り、右翼勢力の基本支持基盤を固め、高い世論の盛り上がりを作り出し、中間層の有権者を積極的に取り込もうとした。新たな野党『中道改革連合』は急ごしらえで、政策が曖昧なため、短期間で国民の十分な信頼を得ることは難しかった」
「高市政権は、『政治大国』『軍事大国』という戦略的指針を掲げ、『再軍事化』を積極的に推進しており、その施策は高度な体系性と長期的な設計を備え、実質的に『平和憲法』第9条の戦争放棄規定と『専守防衛』の国防原則を形骸化させ、より攻撃的で抑止力のある軍事能力を発展させ、海外軍事行動の権限範囲をさらに拡大することを目的としている」
「現状では、野党勢力は内部結束、国会での議席数、政策の信頼性のいずれにおいても大きく不足しており、当面は与党連合の行動を牽制することは難しい」
さらに、盧昊氏の今後の日中関係についての意見は次のようなものである。
「今回の衆院選挙後、日本の『再軍事化』プロセスは確実に加速し、戦後の『(憲法の保障する)平和体制』の中核的制約はさらに弱体化する。日本は地域安全保障の緊張、陣営対立、軍拡競争、さらには核リスク拡散の源となるだろう」
項昊宇氏は、「日本は米国との連携をさらに強化し、欧米・アジアの同盟国を巻き込み、中国への対抗・牽制姿勢を強化し、東シナ海、台湾海峡、南シナ海などの問題において、歴代政権よりも直接的で強硬な介入姿勢を示すだろう」と指摘した。
氏は、「歴史問題、領土・海洋紛争、経済安全保障問題において、高市政府がより挑発的な行動を取る可能性もある」と述べたが、同時に「中国側の強力な対抗措置に迫られ、高市氏の(日中関係の)悪化政策は国内外の多方面から制約を受けており、現実的な利益のために、引き続き対話姿勢を示し、日中関係の緊張緩和を図るだろう」と見ている。
まとめ
中国政府の反応はいつもの通りだった。あっさり言ってしまえば、中国に対して攻撃的になるな、台湾有事についての高市首相の国会答弁は許せない。尖閣は中国の領土だ、日本は第二次大戦の敗戦国であり、国際秩序についてあれこれ言う権利はないことを忘れるな、ということであろう。
環球時報紙は中道改革連合の敗退に触れてはいるが、左派あるいは革新リベラル派の衰弱には言及しない。おそらく、微小すぎて問題にするに足らずと見ているからだろう。
また、日本には、トランプ米大統領によって韓国とともに核武装をし、中国に対抗する可能性を指摘する見方があるが、これについてはどうして論じないのか。見落としたか。
また、中国政府は尖閣諸島への圧力を日常的に加え、同時に日本へのレアアースを含む軍民両用物品の輸出管理を強化したが、これらの措置は若者の右傾ナショナリズムをかなり刺激した。つまり中国が日本に圧力を加えれば加えるほど極右勢力が増加する。環球時報紙がこれを分析しないのは、習近平政権の外交政策に抵触するからであろう。
環球時報記者は、日本その他の国のメディア、研究者など取材源を広く求めて衆院選を分析したが、そのなかで、同紙が肯定的に取り上げた選挙メディア「選挙ドット・コム」編集長鈴木邦和氏の発言は、大変重要と思われるので、特に紹介しておきたい。
「今回の(高市氏にとっての)ネガティブニュースが衝撃を与えられなかった理由の一つは、高市内閣を固く支持する層に顕著な特徴があることだ——メディアが自分たちの立場と相反する見解を報じると、この層はメディアに偏見があると断定する。この『メディアを敵視する認知バイアス』は、高市内閣支持者の実に7割を占めている。したがって、高市早苗氏に対するネガティブな情報が流れたとしても、この層に真に届くことは難しい」 (2026・02・11)
「リベラル21」2026.02.14より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6982.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14684:260214〕









