人権思想の弱さと民族優生思想の根強さを示した日本の2018年

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2018.12.15 かと  ようやく外国人技能実習生の悲惨な、奴隷労働のような実情の一端が国会でも明るみに出たところで、出入国管理法案は、通過してしまいました。改正入管難民法と略称されるようです。正規・非正規労働者の下に外国人労働者を入れて、低賃金と格差構造を温存し拡大する日本資本主義の、人権無視の生き残り戦略です。日産スキャンダルにマスコミを誘導し「首相外遊」を口実に、立法府で記録的な短時間審議で中味のない法を通した後、法務省は、技能実習生の174 人が2010−17年に死亡と野党に対して発表しました。機械に巻き込まれたり、漁船操業中に海に投げ出されたり、過労死したりと、20−30代の若者男女が、異国で命を失っていました。労災125人ばかりか、自殺も13人含まれていました。他方で政府は、年内に外国人就労の基本方針を定めるとして、日本語能力判定テストや農業・漁業など派遣労働も認める準備、内容は行政の裁量で運用する魂胆です。1948年にいったん成立した旧優生保護法で、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ための優生手術を、「遺伝性疾患」から「らい病」や「遺伝性以外の精神病、精神薄弱」に9歳の少女10歳の男児から障害なき児童養護施設入所者にまで拡大していった歴史が、想い出されます。16500人の強制不妊手術被害者の中には、戦場で精神を病んだPTSD(心的外傷後ストレス障害、「戦争神経症」)患者戦争で両親を失った「戦災孤児」も入っていただろうと、推測されます。今国会で改正入管難民法と一緒に成立した水道法・漁業法、国会では追及できなかったモリカケ疑惑大臣たちの疑獄、国会をスルーし着々と進む沖縄辺野古埋め立て米国産武器購入への補正予算投入、海外で嘲笑さ無視される安倍外交の無力、パリもロンドンもニューヨークもソウルも抵抗し燃えたのに、若者が率先して安倍ファシズムを受けいれ、新元号やオリンピック・万博に「夢よもう一度」の希望を託すかに見えるノスタルジックな世論、等々、腹立たしく憂鬱な師走の日本です。来年の行方も、米中経済・情報戦争に従属するものになるでしょう。

かと 本日15日早稲田大学の国際シンポジウム、明日16日東京大学での戦医研特別講演、それに19日愛知大学での平和学講義が私の師走の仕事で、すべて「731部隊と旧優生保護法強制不妊手術」と関わりますので、参加者・受講者の便宜も考え、11月講演のyou tube 映像を含め、前回更新を下に残しておきます。今年の国会が積み残したもう一つの問題は、強制不妊手術被害者の救済法案が、与党を含め協議されてきたのに、来年の通常国会以降に先送りされたこと。前文に「生殖を不能とする手術や放射線の照射を強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、我々は、真摯に反省し、心から深くおわびする」と明記するが、「我々」とは誰を意味するかを曖昧にし、旧優生保護法が日本国憲法に違反していたか否かの判断を棚上げにすることで、ようやく与野党合意の法案になったといいます。しかしこれは、今後の国家賠償請求裁判に「当時は合法だった」という国の逃げ道を残します。そこには、ベビーブームと食糧難のもと、48年立法時に超党派で採択されたことのほか、日本国憲法第25条健康で文化的な最低限度の生活」を逆手にとって、人口抑制と「健康で文化的な国民」育成のために産児調節・妊娠中絶を認め、そのためにも「不良な子孫の出生を防止」する優生手術が必要だ、とする「学界権威者」の勧告がありました。ほかでもない、731部隊の石井四郎隊長の恩師で顧問、京大医学部から8人の弟子を731部隊に送り出し、旧優生保護法立法当時は新制金沢大学学長で学術会議会員だった戸田正三です。戦前・戦時は京都帝国大学興亜民族生活科学研究所を作り、民族優生運動を主張していた医学者が、戦後の優生保護法の推進者だったのです。明治以来の150年を貫く、戦時と平時の繰り返しです。年末ですので、新しい論文「米国共産党日本人部研究序説」(藤井一行教授追悼寄稿)、をアップ。昨年末に中部大学年報『アリーナ』第20号、2017年11月)に発表された長大論文ですが、『アリーナ』誌より、新しい号が出るまでウェブには遠慮してくれとのことでした。その21号が出たようなので、ここにアップ。戦前・戦時の在米日本人の中で問題にされたのも、一世・帰米・二世で分かれる天皇制と米国市民権の問題でした。そこでも「日本国民」を象徴するのは、天皇制と元号という空間・時間の仕切りでした。世界史から切り離されたニッポンの孤立は、公文書さえ西暦に合流できない来年以降も、まだまだ続きそうです。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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