人道危機の主犯はアサドとその政権 - シリア紛争解決への転機に② -

著者: 坂井定雄 さかいさだお : 龍谷大学名誉教授
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これほど残酷なシリアでの人道被害を生み出した主犯は、バッシャール・アサド大統領とその政権だ。もしアサドが、2011年に始まった「アラブの春」で民主化勢力と妥協し、過酷な流血の弾圧ではなく、話し合いによって、政治活動や言論の自由をある程度でも受け入れ、自由で選挙による民主的な政権への道を開いていれば、このような最悪の人道被害は生まれなかった。
アサド政権の弾圧に対して、世俗的な民主化勢力「自由シリア軍」やイスラム教スンニ派の反政府勢力が武装決起した。その内戦状態につけ入り、イラクから偏狭なイスラム聖戦組織の現「イスラム国(IS)」が入り込み、シリア北東部、東部に勢力を拡げ始めたが、アサド政権はほとんど無抵抗に支配地拡大を許した。北東部の油田地帯はISの最大の資金源になり、中心都市のラッカに、ISの中心拠点を築かせたてしまった。アサド政権は首都ダマスカスとその周辺、南部、西部の確保に力を注ぎ、反政府勢力が、北部のシリア第2の都市アレッポとシリア北西部での支配を拡げると、北部でのISの行動を妨げず、反政府勢力への攻撃を全く自由にさせた。自由シリア軍など反政府勢力は、アサド政権軍とISの二つの敵と戦わなければならなくなった。このようなアサド政権による、ISの放任、利用がなければ、ISがこれだけの勢力に成長することはあり得なかった。
前回書いた通り、9月30日、ウイーンで開かれたシリア紛争主要関係国外相会議は、シリア紛争の解決を目指す主要国の会議では初めて重要関係国のイランが参加し、「海外に脱出した国民を含む全国民が参加する投票」など重要な項目で一致したが、アサド大統領の処遇については、辞任を要求する国と、事実上辞任を拒否する「辞任を強制してはならない」とする国に真っ二つに割れた。
 ▽おもな合意点
(1)国連主催で、シリア政府と反対勢力との「信頼できる、すべての関係者を含めた、非宗派的な」新たな政治プロセスを開始するための会議を開く
(2)国外滞在者とすべての民族・人種を含めた新憲法と国連支援の選挙の実施
(3)国内外でのシリア人に対する人道援助の受益の改善
(4)全国的停戦の方式作成と実施のための国連との共同作業
▽アサド大統領の処遇についての各国の主張
(1)米国:アサドは辞任。ただし、政治的移行以前でなくてよい
(2)サウジアラビア:選挙と新政府発足前の特定の期日までに、アサドは辞任
(3)トルコ:アサドは辞任、ただし6か月は象徴的にとどまっても良い
(4)ロシア:アサドは辞任を強制されるべきでない。シリア国民がみずから指導者を決める選挙を行わなければならない
(5)イラン:アサドは辞任すべきではなく、シリア国民が自らの政治的将来を決めるべき
(6)シリア国民評議会(SNC)=主要欧米諸国と湾岸アラブ諸国が認める反政府組織=アサドは辞任し、いかなる政治過程にも参加できない

ロシアとイランは、アサド大統領の辞任を要求せず、選挙によって再任か辞任を選ぶことを要求している。いずれにせよ、難民となって海外に滞在中の国民も含めた選挙が、どうしても必要になる。国際的合意ができ、国連主催で、各国が監視する自由選挙でアサドに代わる大統領が選ばれる事態になれば、難民問題も、ISの壊滅も解決できる。それが可能になるかどうかは、ロシアとイランの姿勢と行動次第だ。大統領選挙を来年に控えた米国のオバマ政権の姿勢と行動も、大きな影響を与えるに違いない。(続く)

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〔opinion5771:151114〕