●2023.1・1 2022年は、2月にプーチンのウクライナ侵略戦争が始まり、世界が新冷戦とよぶべき分断に引き込まれました。コロナ・パンデミックはすでに3年、中国の遅ればせなゼロ・コロナからウィズ・コロナへの転換によって、世界が再び人獣共通感染症の危機にさらされかねません。第一次世界大戦の末期に、「スペイン風邪」が5億人感染・1億人死亡の災禍をもたらしたように。COVID19は、すでに6億6千万人に感染し、668万人の死者を出して、なお進行中です。そこに戦争が重なって、生態系破壊・気候変動も深刻になります。プーチンは、生物化学兵器・核兵器の使用さえ示唆しています。世界的なインフレ、食糧・エネルギー危機は、それらの複合的帰結です。
● 日本の危機は、世界的危機の一環であると共に、21世紀に入っての長期停滞と重なります。深刻な、歴史的退潮期にあります。それをもたらした唯一ではないが決定的な政治家が、安倍晋三でした。アベノミクスと命名した金融操作中心の経済政策、大企業には減税で内部留保をためこませながら庶民には貧困と生活苦を強いてきた中間層解体と格差拡大、独裁者や権威主義者に取り入り外遊は多かったが成果の上がらなかったパフォーマンス外交、そして、創価学会と統一教会など宗教右翼の協力を得た選挙での自民党・公明党改憲勢力の連続勝利、その長期権力を恣意的に用いた日米同盟一辺倒の軍事化・安保法制から教育改悪・学術体制形骸化、総じて日本の政治経済社会の脆弱化・国際競争力喪失を推進してきました。憲政史上最長の首相を退いた後も、権勢をふるい続けました。
● 昨年夏の統一教会信者子弟による安倍晋三銃殺は、安倍政治を清算させるどころか、もともと安倍独裁のスタイルから距離をおいて政権に就いた岸田文雄を、亡霊となった安倍の政策的悲願の実行者・駆動者に変身させました。安倍晋三の国葬を国会にもはからずに決定・実行した上で、原発依存のエネルギー政策、NATO並みの日米防衛体制構築に、踏み切りました。「戦後民主主義」も「3・11体験」も清算する暴挙です。国会では統一教会問題や失言・失点だらけの大臣・政務官更迭で野党に押され、支持率は最低まで落ち込みながら、原発再稼働・継続と防衛費倍増の歴史的転換は、年末の閣議決定でした。行政府の長でありながら立法権者としてふるまった安倍晋三にならってか、「国民の声」は聞かず、安倍の亡霊とアメリカの「神の声」に導かれて疾走し、この国と庶民の生活を、奈落の底に突き落とそうとしています。歴史の逆走です。何とか食いとめたいものです。
● イタリアもドイツも日本も、何やらキナ臭い新年です。自分自身が後期高齢者となり、昨年は、生まれて初めての大手術を体験し、入退院を繰り返してきました。研究も執筆もままならず、ウクライナ戦争にも岸田政治にも、十分な発言をできずにきました。外出制限と書庫使用禁止で、図書館通いも文献研究もできませんでした。長期療養とリハビリで、徐々に日常生活を取り戻しつつありますが、まだまだ本調子には遠く、自分の体調と重ね合わせて、日本の政治経済への憂鬱な見通しを、体感せざるをえません。ただし、世界全体に目配りすれば、希望につながる芽が見出される時があります。2023年は、体力回復をはかりながら、若い世代に期待し、そうした希望への道を探求していきます。
https://www.msz.co.jp/book/detail/09514/
https://www.msz.co.jp/news/topics/09514/ 清水亮太郎「ゾルゲ神話を越えて」
「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号)
スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳(毎日新聞夕刊2022年12月14日
● 昨年は、獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)が刊行されました。『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年収監されていた唯一の日本人でした。片山千代のウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5001:20230105〕