中野@貴州さんから大黒弘慈氏の近著についての感想が投稿されている。私自身はま
だこの著作を手にしていないので本格的な論考は出来ないが、感想文を拝見した範囲
で簡単にコメントする。
第一に言いたいのは、これまでもなんどか指摘しているが、1971年金ドル兌換停止に
て、商品貨幣説は最終的な破綻を来たしている。にも拘らず、マルクス学派の中から
誰一人として、資本論貨幣論への疑問の声が上がらず、学派を割るような潮流はかす
かにすら生まれなかった。これは彼らの知的な怠慢を絶望的に現している。大黒氏も
その例に漏れない。
第二に、廣松価値論は先祖がえりしているのではなくもともと資本論そのもの。価値
実体の抽出から商品物神性論の論脈をたどって、「社会的関係性」「協働連関」とい
うジャーゴンを外挿しただけの操作に過ぎない。だから「矛盾」ではなく「謬説」と
するべき。
第三に、大黒氏は小幡氏の弟子筋なので山口説は当然押さえている。なぜそれをリ
ファーしないのかは、当該著書を見ていないので不明。山口氏の規定は、宇野原論、
鈴木原論、伊藤誠「価値と資本の理論」いずれにも冒頭商品の概念規定で必ず提示さ
れているものを踏まえた一つのバリエーション。しかしながらどれもこれも似たり
寄ったりで「鳥は空を飛ぶなぜなら概念的に空を飛ぶ性質があるからだ」という循環
論的言明と構造的には何も変わらない。
マルクスだろうが宇野だろうがヘタレである、丸ごと吹っ飛ばせ位の破壊力あふれる
論者の登場を期待したい。現状は現実世界からひたすら目をそらし、楽屋落ちネタに
終始する蛸壺サークルといわざるを得ない。無念。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study764:160903〕